JAの活動:食料・農業・農村 どうするのか? この国のかたち
【現地レポート・茨城農業に迫る】"台所目線"で脱原発 常総生協【食料・農業・農村/どうするのか? この国のかたち】2024年8月6日
温和な気候と広大で平たんな大地。豊かな自然に恵まれた茨城県。農業は地域の基幹産業として重要な位置を占めている。2021年の農業産出額は4260億円で全国第3位。内訳は園芸が51%、畜産が31%、米が14%。東京中央卸売市場における県産品の青果物取扱高は2004年から20年連続第1位であり、東京などの首都圏の台所を支えている。メロン、栗、レンコン、鶏卵、ピーマン、干し芋、小松菜、ミズナ、チンゲンサイ、セリ、ネギなどは全国1位で、カンショ、梨、レタス、ハクサイなどの生産量も多い。多種多様な品目が多いことが特徴だ。農産物直売所や農産加工、観光農業などの農業生産関連事業も盛んだ。
しかし、同県でも人口減少と高齢化が進み、農業生産基盤が弱体化し、生産資材価格の高騰が追い打ちをかけており、全国共通の課題、問題と同一だ。
こうした農業情勢を踏まえ、県では昨年5月に30年後を見据えたグランドデザイン「茨城農業の将来ビジョン」を策定し、「もうかる農業」の実現や「有機農業といえば茨城」というポジションの確立、輸出を意識した産地の育成などの新機軸を打ち出している。
農協は今後の地域農業をどうしようとしているのか。生協は農産物の流通にどう対応し、農業、農政の動きをどう考えているのか。常総生協の柿崎洋専務理事に聞いた。
(本紙客員編集委員 先﨑千尋)
原発差止を提訴
無農薬「実験田」での田植え
常総生協は茨城県守谷市に本部があり、組合員が6000人弱、常勤職員は14人、供給高も10億円に満たない小さな生協だ。1975年に取手市の団地自治会が野菜の青空市を始め、その母親たちが生協を作った。組合員も生産者も顔が見えるアットホームな組織だ。農産品は、浅野さんのニンジン、高柳さんのレンコン、鈴木さんのヨーグルトのように生産者限定。生産者との交流も頻繁に行われている。エリアは、守谷市、取手市、つくば市などの県南地域と利根川対岸の我孫子市、柏市などの千葉県北地域。「食はいのち」を事業活動の基本に据え、2000年に「地域自給の生産消費の関係をこの地につくろう」と、地域自給宣言を出した。11年の東京電力福島第一原発の事故を受けて、同年に「脱原発と暮らし見直し委員会」を発足させ、翌年には東海第二原発運転差止訴訟を水戸地裁に提訴し、生協が事務局を引き受けている。専務理事の柿崎洋氏に話を聞いた。
「食はいのち」基本
――常総生協が目指すことは?
常総生協 柿崎洋専務理事
柿崎 「食はいのち」。食はいのちを支えるものだから安全性を第一に考えます。そして健康で経済的な暮らしの追求です。健康でいたいのは誰しもが願うこと。他方で経済性も大事です。そこで、日々の「台所からの視点」で、可能な限り家庭での手づくりを組合員みんなで推進します。
私は、本当は生産消費協同組合を目指したいなと考えています。現在少しずつ進めているのが、地域の生産者と一緒に自給大豆を作って地元の蔵に持ち込み、しょうゆを製造したり、毎冬の組合員家庭で手づくりみそにしたりする取り組みです。
――生協というと班を作っての共同購入というイメージがありましたが、今はどうでしょうか。
柿崎 今は98%が個配です。在宅が60%くらいでしょうか。インターネットでの注文も2割近くあります。
――常総生協は、東海第二原発運転差止訴訟の事務局を引き受けています。「脱原発」と口では言うけれど、そこまでやる生協は他にないですね。
柿崎 3・11の東日本大震災で180km離れた東京電力福島第一原発の事故が起き、地域も産地も放射能に汚染されました。当時生協の運営に当たっていた人たちは、地場の食べ物が汚染されてしまった現実を前に、本気でここを畳もうと思ったようです。でも、自分たちで放射能を何検体も調べる過程で、何とか対処できるのではないか、諦めなくても大丈夫では? と考えました。
単に「原発反対」ではなく、もっと原発について勉強、討論し、足元の自分たちの暮らしを反省し、見直すべきだと組合員が「脱原発と暮らしの見直し委員会」を立ち上げた。脱原発と暮らしの見直しを両方やろうと。
東海第二原発はここからわずか90kmの距離にあり、地域の問題として、市民が主体となった市民運動としての裁判活動にし、本気で止めたいと考えました。
「いのち育む食べ物」に放射能といういのちを阻害するものが入り込む恐ろしさを身をもって知り、こんなことは二度と御免だという気持ちが原動力です。総代会に諮り、組織として取り組むことを決めました。水戸地裁では勝訴。現在、東京高裁で一審判決の維持を求めています。
――国の「みどりの食料システム戦略」についてはどう考えていますか。
柿崎 2050年までにCO2ゼロ、化学肥料50%削減、有機農業栽培面積100万haなど、かなり勇ましい目標設定になっていますが、実現可能かどうかは疑問。ゲノム編集による品種改良が入っていますが、心配な部分が多く、常総生協では扱わない方針です。
――改正食料・農業・農村基本法に対するコメントは。
柿崎 食料安全保障の観点が組み込まれましたが、輸入食品の相場が安くなったら海外の農産物にシフトするのではないでしょうか。そうではなく、「食べ物はいのちの元種」という根本を忘れず、市場価格に左右されることなく、生産と消費の関係を地域から強固にしていくことが大切だと考えています。
――農協陣営に期待することは。
柿崎 農協には期待しています。生態系に与える影響や、生産者はじめ周辺住民の健康を考えた農業や農薬をできるだけ使わなくて済む技術支援もお願いしたいです。
今こそ小農の時代です。家族的農業経営も大切にしてほしいと思います。
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