JAの活動:第45回農協人文化賞
【第45回農協人文化賞】きのこが健康けん引確信 営農経済部門・日本きのこマイスター協会理事長 前澤憲雄氏(長野県)2024年8月10日
多年にわたり献身的に農協運動の発展などに寄与した功績者を表彰する第45回農協人文化賞の表彰式が8月6日に開かれた。
JAcomでは、各受賞者の体験やこれまでの活動への思い、そして今後の抱負について、推薦者の言葉とともに順次、掲載する。
一般社団法人日本きのこマイスター協会理事長 前澤憲雄氏
はじめに
長野県のJA中野市2023年、第60回総代会資料の販売事業実績を見ると、過去最高額298億円!正准組合員戸数5,867戸(正組合員2,586戸)の今では小さなJAの大きな数字だ。JA中野市は、1964年市内9農協合併以来「生産農協」として果樹、きのこ、アスパラガスなど高付加価値農業の振興を推進した。今主軸のきのこ類が210億円、ブドウが71億円である。過去からの農業振興策の結果であり感無量である。
1969年JA中野市入組以来、2015年5月退任まで職員と役員通算41年勤務した。
JA役員退任後、同年一般社団法人信州きのこマイスター協会を設立し、その後、日本きのこマイスター協会の代表理事として今も人材育成ときのこ普及に取り組んでいる。
農業振興にチャレンジを重ねたJA時代
機能性表示食品として注目されるエノキタケの加工食品「えのき氷」
JA中野市は入組当時、中野市一円の9JAが合併して6年目だった。最初信用事業担当で農業振興に金融面から奔走した。しかし、自分が農協職員としてやることはこれじゃないと考え、当時の役員に販売担当を志願、直接担当常務から電話連絡をもらった時は、うれしくて体が武者震いをした。
JA中野市の最先端事業「きのこ販売」を担当することで、生活は一変した。当時ブームの24時間働けますか!を地でやっていた。エノキタケの販売額は、着任した年に新種菌導入効果により過去最高の単価となった。その結果、翌年は生産拡大が進み、逆に過剰感から価格が急落するという地獄を味わった。販路を拡大しなくてはと、長野県経済連、全農とタッグを組み、米国への輸出を試みた。またヒラタケ、菌床シイタケなど多品目化にも挑戦した。生産者の手取りをどう増やすか、どう安定させるかが重要課題だった。
その後Aコープ店長、生活部長、販売次長を担当したが、エノキタケもアスパラも巨峰もかつて日本有数の地位だったが、生産基盤縮小、集荷力の低下と大きな課題を抱えていた。
その頃、JA志賀高原との合併が臨時総代会で否決。組合員の総意は自立運営の道だった。このタイミングで経済担当常務に信任された。
最初の仕事は、自ら公約した「販売額200億円再生」だ。実は就任時(2004年)、販売取扱高は159億円だった。1991年の230億円からは大幅な落ち込みだ。
任期中、様々な新しい取り組みを提案し、新品目振興に取り組み6年間の任期最後の年に203億円まで復活した。約束は果たせた。
きのこマイスター育成と、きのこ産業の安定化を!
2006年8月、経済担当常務の1期目3年目に運命的な会議があった。それは、中高職業訓練協会主催の観光部会の会合だった。JAの代表で参加し、議題は観光人材育成と「地域検定事業」の実施である。私は、かねてよりきのこの発信人材を育成したいとの思いがあり、間髪いれずきのこソムリエ養成講座を提案した。
これが、出席者全員の賛成を得た。早速、準備委員会を設置し、さらに研究委員会を設置し、会議は11月から半年かけて信州きのこマイスター資格認定事業を体系化できた。
翌年8月には第1期入門講座募集開始、57人の応募がありベーシックきのこマイスター46人が誕生した。その後毎年、50人ほどが確実に受講、きのこの正しい知識を身に着けたきのこ伝道師が、長野県内から全国に広がった。
ところで、一般社団法人信州きのこマイスター協会の設立は、私が発起人代表となり他の理事3人と4人で登記した。そしてJA時代の人脈を生かし入会を勧誘、2カ月ほどで90人が入会された。満を持し、9月29日一般社団法人信州きのこマイスター協会設立総会を開催、私が代表理事理事長に選任された。その2年後に日本きのこマイスター協会に名称変更し、今日まできのこマイスター資格認定事業とマイコファジスト(菌食者)普及のための季刊誌「季刊きのこ」の発行という二つの事業を続けてきた。
本年は設立して15年目に入った。この間に、資格認定事業では全国42都道府県に、ベーシックきのこマイスターが916人、きのこマイスターが259人、スペシャルきのこマイスターが18人認定された。
食用きのこの消費は、確実に増加し、きのこファンが増えた。一方きのこ産業に携わる人は、日本全体では戸数が大きく減少した。しかし、食用きのこの国内きのこ生産量はほぼ横ばいの46㌧を維持している。自給率90%のきのこが、将来国民の食料自給率の中核に、そして国民の健康維持に貢献できると確信している。
【略歴】
まえざわ・のりお
1948年4月生まれ。69年協同組合短期大学卒業。同年4月JA中野市入組、94~98年生活部長、01~03年総合販売次長、04~10年経済担当常務理事、06~09年信州きのこマイスター認定協議会幹事長、17~18年日本きのこ学会理事、10年~現在 一般社団法人日本きのこマイスター協会理事長、19年~現在日本きのこ学会代議員、13年~現在長野県おいしい信州ふーど公使、08年~現在 北信州農業道場道場長。著書:『きのこの応用開発と展望』(監修:江口文陽(共同執筆)S&T出版)受賞歴:日本きのこ学会普及振興賞
【推薦の言葉】きのこと園芸で300億円
前澤憲雄氏はJAの常務就任後、すぐ地域農業再生プランとして、きのこと園芸の二つの柱を明確にした。販売では市場依存型からマーケティング販売・多チャネル販売に切り替えた。また複数共計によって実需者に対応した出荷者グループ別の生産販売が出来る仕組みを構築。公平の原則をもとに販売手数料を設定し、きのこ類ではJAへの結集率が90%を超え、農産物販売で300億円近い産業に育て上げた。
JA退職後は、きのこ産業の育成に専心し総合きのこ雑誌「季刊きのこ」を発行。地元の長野女子短大や東京農大と包括連携協定を締結し、きのこの栄養等の研究への助成、子どもたちに地元のきのこ産業を理解してもらう事業等を展開した。
また、同県の北信地区管内の意欲ある青年農業者を支援するためJA、市町村、農業委員会等の関係者が一体となって開催している「北信州農業道場」では、開講当初から道場長として活躍し、毎年50人を超える修了生から地域の中核的担い手が育っている。
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