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JAの活動:第30回JA全国大会 持続可能な社会をめざして

【寄稿・農協と共に生きて41年】"農業疲弊"国家安寧すら危うく 元JA全農常務 久保田治己氏【第30回JA全国大会特集】2024年10月1日

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『農協が日本人の"食と命"を守り続ける!』(ビジネス社)の著者で元JA全農常務の久保田治己氏。JA全国大会に向けて「農協と共に生きて41年」として、農業への思いを振り返ってもらった。

元JA全農常務 久保田治己氏元JA全農常務 久保田治己氏

1. 日本の食料自給率

全農に入会した1983年の食料自給率(カロリーベース)は52%であった。その4年前、大学入学時は54%、中学2年時は55%であった。

中学2年生の時に日本の食料自給率が低過ぎ、かつ下がり続けていることに危機感を覚えた。食料自給率だけではない。エネルギー自給率も低く、国家を防衛するための軍隊がないことにも危機感を持った。これら3つのボトルネックのどれかを打開するための仕事を将来しようと心に決めた。そういう意味では、農協と共に生きてきたのは41年であるが、食料自給率は50年間考え続けてきた。

その間、一貫して食料自給率は下がり続け、様々な計画や施策が打ち出されては来たが、反転上昇する気配は感じられない。一方的なトレンドが半世紀以上も継続しているとすれば、意外な原因が潜んでいるのではないか。この疑問は、東大農学部の農業経済学科で学んでも氷解することはなかった。しかし、全農入会後も多くの本を読みあさり、そして1つの結論に到達した。

その結論を、農林水産省や学友、先輩後輩にぶつけてみた。皆、私の結論を否定し、中には激高し酔った勢いでけんかになったこともある。しかし、1人だけ同意してくれた先輩がいた。その先輩は「今頃気が付いたのか。ずっと前からそうだったじゃないか!」と、ごく当たり前のように答えたのだ。

私がぶつけた結論は、「戦後日本の農業政策の基本は、食料自給率低減政策だった」である。

2.戦後の農家・農業・農協に関する報道

「米を食べるとばかになる」という慶応大学医学部教授の説が、広く国民に流布された。クロヨン税制という言葉も脳裏に焼き付いている。今の政治家も入れるとクロヨンゼロ税制なのかも知れないが。「日本農業は過保護だ」という言葉も、国際比較してみると事実でないことが「全農リポート」の中でも指摘されている。大手新聞の中には、新聞発行事業が赤字で不動産事業が経営を支えているところもある。そのくせ新聞では、農協の総合経営は不適切だと報じている。

もし、日本政府が本当に食料自給率を上げようと考えているのであれば、間違ったマスコミ報道を正せば良いではないか。しかし、そうはなっていない。NHKの中国人スタッフがラジオ国際放送で「尖閣諸島は中国の領土」と発言したことに対して、総務省は文書で行政指導を行っている。さすがに、これは許せなかったのであろう。

しかし、農家や農業や農協に対する批判的報道は、国策として許してきたのだ。

3.農業だけではない際限の無い生けにえ

1955年にGATT(関税及び貿易に関する一般協定)に加盟し、1960年の121品目の輸入自由化を皮切りに、毎年のように自由化が繰り返された。1991年には牛肉・オレンジ、最後に残された米麦も1995年に小麦・大麦、1999年に米が自由化された。

2000年代に入ってからは、2国間・多国間による自由貿易協定が締結され、2015年に日豪、翌年にはTPP、その後日EU、日米、日英と続く。さらに、農協法改正で全農が株式会社化できるとされ(拙著、第6章「全農『株式会社化』の謀略」で詳述)、種子法まで廃止されている。食料自給率を向上させようという国家の強い意志があれば、こんなことをし続けるはずがない。

農家と農協が生けにえにされながら、日本の成長は30年以上も足踏みし、家電製品・半導体も外国に敗北した。郵政も民営化され、最後のとりでの自動車もEV化を推進する日本政府により生けにえに差し出された。次の生けにえはNTTだろう。NTT法が来年廃止されれば、我が国の通信インフラも外資に買収されてしまう。

そして、最も重要な、天皇陛下が毎日国民のために祈ってくださっている「国家安寧」すらも危険にさらされてきている。

では、何のための生けにえだったのか?

米の自由化以外は、全て同じ政権与党の下で実施された事を忘れてはならない。

4.農協組織は農業のためだけの組織ではない

農協法の第1章 第1条をご存じだろうか。以下のように書いてある。

「この法律は、農業者の協同組織の発達を促進することにより、農業生産力の増進及び農業者の経済的社会的地位の向上を図り、もつて国民経済の発展に寄与することを目的とする」(注:太字は著者が強調)

農協は、農家や農協組織の発達を促進することは当然であるが、ひいては国民経済の発展に寄与することが目的なのだ。しかも農協は、株式会社化されない限り絶対に外資にも買収されることはないので、日本に残された最大の「日本人の、日本人による、日本人のための」組織であることは疑いようもない。

5.農協組織にしかできないことがある

表題の拙著は、農協の素晴らしい取り組みを紹介し、役職員の皆さまに元気を出してもらい、また農協をよく知らない消費者の皆さまにも農協を理解してもらうため、六つの章のドキュメンタリーで構成した本である。

兵庫県のJAたじまは、県庁や豊岡市と協力しながらコウノトリ「も」、カエル「も」、人間「も」共に生きていける環境を作り、絶滅したコウノトリを復活させた。厚生連病院は、日本で最初の新型コロナ患者やダイヤモンド・プリンセス号の患者を積極的に受け入れてきた。

また、今年の能登半島地震でも1月2日の時点でDMAT(災害派遣医療チーム)の約8割は厚生連病院のチームであった。JAさがは、全国的にも優れた生産組合の組織と一体となり、耕地利用率全国1位を40年も続けながら、常に新しい事業にも挑戦し続けている。米軍占領下の沖縄で起きた農協改革(「農連事件」)が、50年後の平成時代の農協改革と酷似していたのは、なぜだろうか。

日本の生活クラブ生協連合会とJA全農との飼料用トウモロコシのIPハンドリング(遺伝子組み換え農産物が生産・流通・加工で混入しないよう管理すること)の確立は、世界中の協同組合は評価してくれるが、そのことを快く思わない外国勢力も多い。その勢力が、自国の国家権力を使って他国の国家権力をも動かせるとしたら、何をするだろうか。

「日米合同委員会」の存在をほとんどの日本人は知らない。それもそのはずだ。議事録も作らず、会議の内容も公表されないのだから。しかし、その組織図は外務省のホームページに公表されているので、拙著の244ページに転載した。日本側の5人の代表代理の中に「農林水産省経営局長」と載っている組織図である。

堤未果氏は、拙著の帯に「米国が恐れ、国際資本が狙い、世界が注目するこの最強の存在を、私たち日本人だけが知らされていない」と推薦文を寄せてくれた。「最強の存在」とは、もちろん「日本の農協組織全体」のことであるが、「日本人による日本国」と置き換えても全く同じ意味になる。つまり、「米国が恐れ、国際資本が狙い、世界が注目するこの最強の日本人による日本国を、私たち日本人だけが知らされていない」のだ。

世界が歴史的転換点を迎えている今、日本国のあり方に疑問を持ち始めている組合員の皆さまと共に、農協組織が率先して、品目ごとではなく、地域ごとでもなく、農業だけでもなく、国民経済の発展に寄与するために、国のあり方から議論をしていくべき秋(とき)ではないか。

そして、協同組合らしく1,000万人の組合員が一致団結すれば、この国を「持続可能な社会と日本」に再編成できる。そうすれば、食料を他国から収奪せず、人類にとって当たり前の国家像を世界に示し、「日本人による日本国」が最強の存在として地球を救うことになるに違いない。

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