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JAの活動:第30回JA全国大会 持続可能な社会をめざして

【鼎談 地域の農業と医療に新境地を拓く協同の力】JA佐久浅間と佐久総合病院の新たな挑戦(2)【第30回JA全国大会特集】2024年10月9日

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「農村医学の父 若月俊一」の足跡が残るJA長野厚生連佐久総合病院。JA全国大会に向けて「鼎談(ていだん)地域農業と医療に新境地を開く協同の力」を企画した。参加者は佐久総合病院名誉院長の夏川周介氏、JA佐久浅間組合長の髙栁利道氏、東京大学名誉教授の谷口信和氏。地域医療と安心な暮らしへの新たな挑戦として語ってもらった。

【鼎談 地域の農業と医療に新境地を拓く協同の力】JA佐久浅間と佐久総合病院の新たな挑戦(1)から続く

農協も病院も「組合員とともに」

賃金・所得と働きがい・生きがい

谷口 なるほど、気持ちだけでは続かないですね。この30年、賃金・所得が上がらないというのは日本社会全体の課題ですが、佐久総合病院で働く医師や医療従事者はどんな状況でしょうか。

夏川 正直申し上げて、私は全国でもっとも給料の安い院長でした。「給料の安い病院だ」とみんな言っています。それを理由に辞めた人もいますが、このような田舎の病院では、働きがいがない限り人の確保はできません。無医地区に出かけ、弱い人の立場に立った医療を展開する。それに演劇をくっつけて啓発した。その姿勢が働きがいにつながっていると思います。

佐久総合病院夏川周介名誉院長

谷口 残られた方は、給与をはるかに超える働きがいを感じているということでしょうか。

夏川 そうかもしれません。私自身もよそから来ていますし。JA厚生連で基準が決められ、労働組合とのせめぎ合いもあり、合意して給与体系、勤務体系が決まっていきますから、私の一存で変えることはできません。

谷口 農協も、佐久病院の従事者の方々がどうしてこんなに頑張っているのかをもっと吸収して学んでいく必要があるのではないでしょうか。

髙栁 佐久病院には若月先生の言葉、協同組合精神が生きていると思います。協同組合間連携で、私どもの金融機関も病院に入っています。ここの医師や看護師の皆さんも准組合員になっていただいていますので、連携としてはうまくいっているかなと思います。

谷口 全国でもこうしたところはそうないでしょうね。ところで、医師は一般的には社会的地位が高く所得水準も高い。その人たちが協同組合の病院に入ってくるには高いハードルを乗り越えてきたと思います。ほかに引っ張られることもあるでしょうし。

東京大学名誉教授谷口信和氏

東京大学名誉教授谷口信和氏

夏川 どこの病院も研修医確保に汲々としていますが、佐久病院にはたくさん来てもらえますし、研修医から育った人がこの病院の中核を占めています。大学の系列下にないこともあり、医師集めに苦労した時代が長かったのも事実ですが、だんだん変わりました。

髙栁 寄生虫とか結核が多かった状況を共に乗り越えてこられたのは農民として心強いと思います。早めに治療し、1ヵ月入院しなきゃいけないところを10日で退院できれば、それだけ労働できる。病院が地域にあるのは非常にありがたいんです。

意見のちがいどう乗り越えるか

谷口 私が研究者の道を歩み始めてしばらくの頃、有吉佐和子さんが『複合汚染』を出版して、農薬や公害について盛んに発言されました。ただ、農薬の害が消費者に影響を及ぼすという話は書いてあるのですけれども、若月先生が最初におっしゃったことは、「農民が農薬で最初に苦しむ」ということでした。

夏川 農協の関連病院でありながら、農薬使用反対、これは大変でした。

谷口 短期的・長期的の両面から見るのが大切ですね。短期的には佐久病院と農協とがぶつかることはあり得ますが、長期的には必ずしもそうではないと。

髙栁 最近、みどり戦略の下で慣行農業と有機農業のすみわけが進んで、消費者も選べるようになったので、転換点にあると思います。

JA佐久浅間代表理事組合長髙栁利道氏

JA佐久浅間代表理事組合長髙栁利道氏

夏川 昭和57(1982)年から、佐久病院のある臼田町(現在の佐久市臼田)では、行政、農協、病院の三者で有機農業研究協議会をやっています。家庭から出る生ごみに病院から出る食品残さも加えて堆肥にし、有機野菜を作ってきました。

髙栁 農協もそのほ場でちゃぐりんスクール(食農教育)を実施し、生徒を受け入れてもらっています。指導している方は元営農技術員で、農協からも助成金を出しています。

谷口 8月に栃木に講演に行ったときに、ある農業経営者からスマホ動画を見せられたんです。田んぼにアユが来たので動画を撮ったと。

夏川 アユ? 清流にしかすまないのに。

谷口 アユです。今の除草剤はまいて2週間したら成分が分解してなくなる。だからアユも来たのだそうです。技術革新もあって、農薬もだいぶ変わってきています。

髙栁 私は営農技術員です。若月先生が取り組まれた頃の毒性、残留性の高い農薬は禁止され、使えるものが限られるポジティブリスト方式になりました。使い方がシビアになって以降、農薬事故はあんまり起きていないと思います。

谷口 農業はもともと有機でした。それが変わったのには「それなりの理由」があります。今後は方向性としては有機に向かうべきだけど、「明日からいきなり切り替え」はできないですね。有機農産物に対し、病院側からお墨付きを与えるとかできないのでしょうか。

夏川 病院というより協議会でしょうか。

髙栁 有機を広げるには「売り方」も課題です。作ったものを消費者にアピールするには何かお墨付きがないと。GAPのシールがあるのですけれども認知度が今一つです。SDGsの持続可能な開発目標の12番目に「作る責任、使う責任」というのがあります。これに関連するエシカル消費は「環境」「人や社会」「地域」に配慮した消費ですが、私は近江商人のモットーである「三方よし」と組み合わせて、新たなエシカル消費として「五方よし」を提案したいと考えています。つまり、「価格、品質、安全性」の三つの鉄板を踏まえた「作り手よし、未来よし、売り手よし、買い手よし、世間よし」がそれです。ペレット堆肥を使ったメリットが生産者に還元されるように取り組みたいと思います。

森は自然豊かな生態系を作るため水分をため、川に入って海に至り魚が食べる餌ができる。餌を食べた魚を別の魚が食べて、という生態系があります。だから、上から安全を流さなければいけなくて、上から危険を流してはいけないと肝に銘じています。

【鼎談 地域の農業と医療に新境地を拓く協同の力】JA佐久浅間と佐久総合病院の新たな挑戦(3)に続く

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