JAの活動:第30回JA全国大会 持続可能な社会をめざして
【鼎談 地域の農業と医療に新境地を拓く協同の力】JA佐久浅間と佐久総合病院の新たな挑戦(3)【第30回JA全国大会特集】2024年10月9日
「農村医学の父 若月俊一」の足跡が残るJA長野厚生連佐久総合病院。JA全国大会に向けて「鼎談(ていだん)地域農業と医療に新境地を開く協同の力」を企画した。参加者は佐久総合病院名誉院長の夏川周介氏、JA佐久浅間組合長の髙栁利道氏、東京大学名誉教授の谷口信和氏。地域医療と安心な暮らしへの新たな挑戦として語ってもらった。
【鼎談 地域の農業と医療に新境地を拓く協同の力】JA佐久浅間と佐久総合病院の新たな挑戦(2)から続く
「協同の見本」に期待
地域と病院の関係追求
谷口 自然に対する畏敬の念を深く持っているのが日本人の特徴ですね。ところで、佐久病院が一極集中でなく分院や診療所が多いのはなぜでしょうか。
夏川 地域の利便性を考え、できるだけ医療過疎地の近くに病院を造っていきました。加えて、佐久病院を守るための経営戦略的な意味との両面があります。若月はしたたかで、理想主義と現実主義とを組み合わせていました。
総合病院内に精神科を作ったのも若月が初めてです。昔の精神病院は地域から離れた場所に造られましたが、昭和30年代、地域の中で治療しようとしたのです。時代の流れで、今は精神病院そのものがほとんどなくなりましたが。
老健(介護老人保健)施設を造った時も、右からも左からも総スカンを食らいました。この地域の先を見ていたのです。高齢者が増えるとわかっていたので、厚労省の方針に沿いながら日本で最初に造りました。今ではもう、全国4000~5000カ所に広がっています。もう一つは在宅ケアです。あまり知られていませんが、圧倒的に多い。
JA佐久浅間代表理事組合長髙栁利道氏
髙栁 団塊世代が高齢化するのでますます重要ですね。
夏川 ところが、南の地域では高齢者数も減り始め、老健施設も空いてきました。人口減で耕作放棄地も増え、山間地なので法人への集約も難しい。中山間地の医療と農業は、廃村の危機に向き合っています。そこまで考えておかないと。
髙栁 消滅可能性自治体の話が衝撃的でした。このあたりでも小海町、佐久穂町、立科町が入っています。
夏川 人口が大きく減れば病院として成り立ちません。ですから分割し、ベッド数も300床ほど減りました。「なぜ出ていくんだ」と言われ矢面に立たされました。
髙栁 地域の思い入れがあるから。
夏川 百も承知だけど辛かった。10年たって、ほっとしましたが。
谷口 今年の能登半島地震の時もドクターヘリが活躍されましたね。
夏川 厚生連病院でドクターヘリを持っているのはここだけで、全国でも9番目でした。要望してもなしのつぶてだったのが、田中康夫知事の時、副知事になった澤田祐介医師が長野県の救急医療を考える会の委員長に就きました。そこで、これまでの救命士教育、365日救急患者を断らない実績が評価され、平成17(2005)年にドクターヘリが入ったのです。
長野県では初めて導入された佐久総合病院のドクターヘリ
谷口 ただ政治力で動かすだけじゃなくて、しっかり種をまいておいたから生きてくるんですね。DMAT(災害派遣医療チーム)の派遣も圧倒的に厚生連病院が多いのですが、余り知られていませんね。
夏川 厚生連はすぐに出ます。クローズアップされるのは日赤さんですが。
髙栁 同じ公的医療をしていても、厚生連病院には補助が少ないですね。
谷口 農協グループが政治におもねっているからですよ。きちんとした政治力を使って物言うべきなのです。それがちょっと欠けていると感じます。
髙栁 今度言っておきます。助成金をもらってもいいと思いますよ。
地域あっての農協と病院
谷口 農協と病院、これらの二つの組織の関係はどうなっているのでしょうか。
髙栁 先ほども言ったように、協同組合間連携はかなりとれています。ただ、「組合員あっての農協であり病院である」という意識をもうちょっとアピールしていきたいなと思っています。
谷口 コロナ禍で人と人との交流が遮られたことは、協同組合にも社会にも打撃でしたが、復活の兆しは見えていますか。
髙栁 2024女性会フェスティバルをしたら、フラダンスはじめさまざまな催し物で大いに盛り上がり、参加者は400人を超えました。みんなストレスが発散できて、ニコニコ顔で帰っていきました。次は収穫祭です。
佐久総合病院夏川周介名誉院長
夏川 昔は介護では、医療機関と農協とがもっと連携していたと思うんです。規模が大きくなったこともあって今はばらばらですが、もっと全体像が見える形になってほしい。そうすれば、協同組合精神がもう少し凝縮された形で見えてくるのではないでしょうか。
谷口 子ども食堂のような取り組みはこのあたりではどうですか。
髙栁 それに近いものはありますよ。女性会で、子ども食堂まではいかないのですが、家庭から食べ物を持ち寄って、生活が楽でない人たちに持ち帰ってもらえるようにしています。
夏川 農協でなくても、地域でいろんな形があります。私も地元のロータリークラブで関わっています。子ども限定ではないのですが......。
谷口 今は、老若男女誰でも来られる形の方が多くなっているみたいですね。先日NHKのニュースで、学校に行く前の時間に子どもに朝食を食べさせ、放課後に夕食も食べさせる東京・八王子の活動を取り上げていて衝撃でした。フードスタンプで生きるアメリカの子のようでした。
夏川 田舎では少ないけど、ある程度人口が密集すると貧困な人も増えてきますね。昔に比べて家族が孤立化しているのだと思います。
"農民とともに"意味するもの
髙栁 若月先生が「農民のために」を「農民とともに」に変えたのはいつ頃だったのでしょうか。
夏川 これは早い時期だったと思います。「ために」は上から目線だと気が付いて「ともに」にさっと変えた。協同組合精神はここに尽きていると思います。
髙栁 この言葉は似ているけれどもだいぶ違いますね。農協と病院との連携をさらに進めていきたいと思いますが、その際にも「ともに」が重要です。今年の長野県のJAの長期ビジョンもこれから作るのですが、タイトルが「組合員、地域とともに食と農を支える協同の力」となっています。
谷口 今のままではいけない時代に入って、協同組合運動も発展させていく時期です。農協あり、病院ありで、佐久の協同組合間連携は相当なレベルですけど、それをさらに超える新しい見本をぜひ作っていただければと思います。今日はどうもありがとうございました。
【鼎談を終えて】
▼農協の管内に病院があるだけでなく、病院の管内に農協がある▼JAの11支所の一つが佐久総合病院支所で病院の職員は准組合員。その貯金割合は5.6%を占める▼1978年から始まった家庭と病院の食品残渣堆肥による有機農業運動は行政・病院・農協の三者の協同で今日に至る▼昨年からは畜産堆肥のペレット化でみどり戦略にも対応開始▼「農民とともに」の若月イズムで花開いた協同組合精神に21世紀地域社会のあるべき姿の一端を垣間見た。(谷口信和)
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