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R・ケネディ・ジュニア氏が米国農務省長官顧問に指名された意味(1) 国際ジャーナリスト 堤未果氏2025年1月10日

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国内の多様な問題や米国など幅広く取材・発信する国際ジャーナリストの堤未果氏。トランプ政権下での農務省長官顧問にロバート・ケネディ・ジュニア氏が選ばれた背景や日本の事情を交えて解説してもらった。

国際ジャーナリスト 堤未果氏国際ジャーナリスト
堤未果氏

経済グローバリズムが、世界政府よりすさまじい勢いで暴れ回る中、国連総会はこの動きに歯止めをかけるべく、今年2025年を、2回目の「国際協同組合年」とする宣言をした。1回目の時はコロナパンデミックの最中だった。

では今は、一体何が違うのだろう?

10月に勝利したトランプ共和党政権では、公衆衛生及び農務省長官の顧問に故ケネディ大統領の甥であるロバート・ケネディ・ジュニア氏が指名され、「米国を再び健康にする」(MAHA)計画を掲げて注目を集めている。これは私たち日本にとっても注視すべき変化だろう。

そもそもケネディ氏は弁護士として、 普段は環境問題や子どもの人権や健康問題、食や農業などの活動に関わっているが、今回の大統領選挙に無所属で出馬し、後半はトランプ支持に回った。民主党の家族から共和党のトランプ陣営に入るのは並々ならぬ決意だったに違いない。

米国は民主党か共和党か、どちらかに党員所属するからだ。主要メディアは彼をケネディ家の裏切り者だと執拗にたたき、彼のワクチンや食についての慎重な姿勢については日本の地上波も含めて容赦無く「陰謀論者」とのレッテルを貼られ、激しくたたかれた。あるテレビキャスターは眉をひそめてこういった。

「偽の情報を拡散する可能性の高い共和党候補者について、国民を危険に陥れるのではと、専門家たちから強い懸念が出ています...」

だが本当にそうだろうか?

今、日本でも自民党と野党の違いが見えず、補完勢力ばかり乱立するという批判の声が年々高まっている。

1963年。ドイツフランクフルトで、故ジョン・F・ケネディ第35代米大統領は、経済成長についてこう発言した。

〈上げ潮は、全ての船を持ち上げる〉

そう、あの時の米国は、「黄金の60年代」と呼ばれ、経済成長が発展を続けた輝かしい時期だった。高度経済成長時代に向かっていた日本もここにひっぱられ、1960年には〈新日米安全保障条約〉に経済条項が盛り込まれ、続く1961年には農業近代化と貿易自由化を促進する〈農業基本法〉が制定され、主食の米や麦から、野菜や果実、畜産等にまで生産を広げることが、国から推奨されるようになる。

第2次大戦後に余っていた米国の小麦やトウモロコシが「武器化」され、まずパン食キャンペーンで全国の学校給食メニューを乗っ取り、大型台風の直撃で壊滅した山梨の畜産農家には、〈復興支援〉として、米アイオワ州から養豚35頭が空輸されてニュースになった。野菜くずや残飯などを食べさせる、日本の豚とあまりにも違う立派な体格に、いったい何を食べさせたら良いのかともらった方が首をひねるも、実は旗振り役は何を隠そう養豚ではなく〈全米トウモロコシ協会〉で、(巨大豚たちの餌用には、1500万トンの米製トウモロコシ)がもれなくついてきたのだった。今や豚の数は50万頭に増え、日本国内の豚肉の半分は米国産、餌は特許のついた米国製遺伝子組み換えトウモロコシだ。その後米国豚の8割を占めるスミスフィールドは中国に売却され、今は日本だけでなく米国も、豚肉を中国に抑えられ、抗生物質や水質汚染、工業式畜産工場など、米国民に社会的コストを押しつけ、食料安全保障を脅かす事態になっている。

だがここへ来て、ようやくケネディ氏が、この事態に真っ向から対立し始めた。

このトウモロコシのでんぷんを酵素で分解した安価な甘味料が、「米国に糖尿病と肥満をもたらした元凶だ」と厳しく批判し、1月に就任したら全米の学校給食から取り除くことを訴えているのだ。かつて1962年にキューバ危機が起きた際、父親が対ソ連を見て海上封鎖し輸入を止めた砂糖。だが父亡き後の61年の間に、ニクソン政権下で食料は武器化され、環境基準が緩く賃金の安い国で大量生産され、超加工品となって日本など食品表示の甘い国に輸出され、本社は法人税が実質ゼロのタックスヘイブンに登録されるシステムが固定されてしまった。

社会コストを無視した経済成長は限界を迎え、多様性を失った共同体は農奴のようにシステムにはめ込まれ身動きが取れなくなってしまった。拙著『国民の違和感は9割正しい』に書いたが、ケネディ氏はまた、コロナ禍でバイデン政権がAmazonやFacebook、YouTubeなどを検閲し、政府の方針に反論する言論を抑え込んだ政府を訴え、こちらも見事に勝訴、日本の私たちにとって多くのヒントになるはずだ。

グローバル化が進む中で、雇用の国外移転と中間層の転落、寡占化によって国内産業や小規模家族農家が次々に消えてゆくのを目の当たりにし、ケネディ氏は確信したのだろう。もはや、2大政党に、大きな違いなど存在しないことを。リカードの比較優位論は機能せず、父の頃の「経済成長」は、社会的コストを完全に無視していた。民主主義は情報公開や選択肢なしには成り立たないのだと。そのことを誰よりもよく理解したからこそ、彼は家族を離れ、共和党くら替えに踏み切ったのだ。

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