JAの活動:2025国際協同組合年 持続可能な社会を目指して 協同組合が地球を救う「どうする?この国の進路」
災害乗り越え前に 秋田しんせい農協ルポ(1)水没の痛手復旧遅々と 相互扶助今こそ2025年1月23日
昨年7月末に秋田、山形両県を襲った記録的大雨。秋田県での農林水産関係の被害額は185億円を超え、同県での大雨災害としては過去最大となった。犠牲者も出ている。冠水した田畑に土砂が流入して収穫できなかったり、農業機械が浸水して使えなくなったりするなど、多くの被災農家が苦境に直面している。
大雨で最も被害が大きかった秋田しんせい農協の被害状況や農協、行政の対応はどうだったのか。そして、米価が下がり続けたこの30年。農協は協同の力でその経営危機をどう乗り越えてきたのか。また今日の農業危機をどう切り開いていこうとしているのか。同農協の佐藤茂良組合長に話を聞き、災害を受けた農家の声も拾い、被害を受けた現場にも入った。さらに、にかほ市に住む、かつての農産物自給運動の全国のけん引者だった旧仁賀保町農協で生活指導員だった渡辺広子さんに、農協運動に期待することなどを聞いた。(客員編集委員 先﨑千尋)
農協の夢を語る佐藤組合長
【佐藤茂良組合長略歴】
佐藤茂良組合長 秋田県鳥海町(現由利本荘市)出身で、1986年に鳥海町農協に入組。合併後、企画管理部長を経て2013年に常務。2019年、一念発起し専務に就任。2023年から組合長。地域では、20haの水田を作付けする集落営農組合の一員として、早朝・休日を利用して1haを管理。自ら携わっていないと説得力に欠けるからと言う。62歳。
秋田しんせい農協の佐藤茂良組合長は昨年7月の大雨を「ぼうぜん自失の大水害」だったと振り返る。2000haが冠水、100億円近くの被害額が出たという。災害の概要を聞いた。
◇
7月24日から26日までかつて経験したことのない豪雨。鳥海山を挟んで、山形県と秋田県に線状降水帯が発生し、長く居座り、秋田県の農林水産被害では過去最大規模に及び、特に秋田しんせい農協管内では大打撃を受けた。
農協では25日早朝に豪雨対策本部を立ち上げた。本店の玄関にはその看板が今でもかかっている。本店の近くを流れる石沢川は堤防の高さがおよそ4メートルあったが、越水により決壊し、本店に近い集落では見渡すほ場すべてが一面海と化した。
その光景を目の当たりにした時、まさに「ぼうぜん自失」であった。
管内の被害状況は、水田の冠水・浸水・土砂流木の流入面積が1325ha、大豆が228ha、ソバが451ha、合わせて2000haで、全耕地面積7500haの26%を占めた。園芸では、露地と施設合わせて17・4haが被害を受けた。農機の被害は、由利地区を中心にトラクターや乾燥機など26台、被害総額は2100万円(修理費用)だった。
手つかずのままの被害を受けた水田
秋田県の水害としては、被害額が185億円(農業の被害額は119億円)と過去最大だった。当農協管内の農業被害額は78億円(農協の施設などは含まず)。農協では由利カントリーエレベータ(CE)で心臓部の機械室が水没し、稼働ができなくなった。被害額は2億8000万円。野菜育苗センターでも1メートル近く浸水し、稼働不可能となった。被害額は7700万円になる。他にも資材倉庫が冠水している。
由利CEが稼働不可能となったので、3000tの米の乾燥などができなくなり、隣接する秋田なまはげ農協や大潟村CE公社などに運び、対応した。しかしながら、災害の影響と作況ほど収量が取れなかったことから、出荷契約対比で約20万袋減少し、75万袋の出荷に留まる。農協の経営にも、手数料収入の減及び固定資産の処分損を含め1・8億円程減益の見込みである。
水害発生時はちょうど水稲の出穂時期。水田に入水するためのポンプ・発電機のリース支援をし、約183haのいもち病防除に地元の業者と連携し、ドローンによる農薬散布を実施した。当然、農家からは散布料金はいただけない。農協として優先すべきことは何かを考え、「今やらなければならないこと」を重視し、対応してきた。
合わせて、国、県、国会議員、県会議員などあらゆる方の支援要請に奔走した。盆休みもなかった。県内はもちろん、全国の農協や企業、取引先からお見舞い、激励をいただいた。骨身にしみてありがたかった。あらためて感謝を申し上げたい。
この度は、早期の激甚災害指定を受け、農地の復旧工事に95~97%の補助を受けられるが、いつ工事が始まるのか・復旧費用はいくらかかるのか見通しが立っていない。これを機に農業をやめようかという声が出るのが一番悲しい。復旧には何年かかるのかわからない。農家も農協も非常に苦しい立場にある。
農協としては、農業を継続できるようにスピード感をもって行政の対応策等引き続いての支援をお願いしたい。農協の野菜育苗センターは来年2月に、由利CEは25年産の米出荷までに稼働できるよう準備を進めている。
秋の集落座談会では、災害の状況を踏まえ、「困った時こそ助け合いの精神。今こそ協同組合だ。米を1袋でも多く農協に出してくれ」と組合員に熱く語った。米の価格が上昇基調にあり、集荷業者が攻勢を強める中、当農協からの流出は出荷契約数量の2%程度ととらえている。相互扶助の精神が根付いていることに感謝を申し上げたい。
【秋田しんせい農協の概要】
1997年4月に秋田県本荘・由利地区の11農協が合併し、誕生する。組合員は正9057人、准9052人、計1万8109人(2024年3月末現在)。職員数は正299人、臨時・パート120人、計419人。購買品供給高32億3800万円、販売品取扱高97億9300万円、貯金1476億8600万円、貸出金371億6000万円、長期共済保有高3331億3600万円(2023年度)。
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