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災害乗り越え前に 秋田しんせい農協ルポ(3)水田に土砂、生活困惑2025年1月23日

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昨年7月末に秋田、山形両県を襲った記録的大雨。秋田県での農林水産関係の被害額は185億円を超え、同県での大雨災害としては過去最大となった。犠牲者も出ている。冠水した田畑に土砂が流入して収穫できなかったり、農業機械が浸水して使えなくなったりするなど、多くの被災農家が苦境に直面している。

大雨で最も被害が大きかった秋田しんせい農協の被害状況や農協、行政の対応はどうだったのか。そして、米価が下がり続けたこの30年。農協は協同の力でその経営危機をどう乗り越えてきたのか。また今日の農業危機をどう切り開いていこうとしているのか。同農協の佐藤茂良組合長に話を聞き、災害を受けた農家の声も拾い、被害を受けた現場にも入った。さらに、にかほ市に住む、かつての農産物自給運動の全国のけん引者だった旧仁賀保町農協で生活指導員だった渡辺広子さんに、農協運動に期待することなどを聞いた。(客員編集委員 先﨑千尋)

被害状況を語る福寿集落の人たち

被害状況を語る福寿集落の人たち

豪雨で被災した東由利地区福寿集落営農組合の高橋義明組合長、農家の小松勝男さんと鈴木功一さんに話を聞いた。

高橋義明組合長は兼業農家。米が0・5ha、ソバと野菜が1・5ha。水害の時にはすぐ前の小川が氾濫し、床上浸水になった。地区内では道路が寸断されたところもあるが、そのままになっている。土砂崩れで水田に流木が入り込み、水が流れている。被害の全容はつかめていない状態だ。

小松勝男さんは稲作を4・5ha行っており、そのうち1haに被害を受けた。和牛6頭を飼っている。鈴木功一さんは水稲2・5ha、ソバ1・4ha。0・4haの水田に被害。工事負担金は出せない。兼業農家。

組合の目的は地域のコミュニケーションを図る、熊が出没しないよう、農地の草刈りを一斉にするなど。また、耕作面積は1戸当たり約1・5haで、水田が多い。飼料米やソバを共同で栽培している。地区内には専業農家はなく、一番若い人で50歳代。跡継ぎがいないのが悩みだ。

被害を受けた由利本荘市矢島町地区のハウス(秋田しんせい農協提供)被害を受けた由利本荘市矢島町地区のハウス(秋田しんせい農協提供)

今度の水害では水路がほとんどやられた。山間部なので、水引きは1カ所からだけではない。修復は個人ではできないが、被害箇所が多過ぎて、市役所は何もしていない。数年かかると思うが、その間は農家の収入はなく、工事には個人負担もあり、このままでは生活できなくなる。土地は本来国のものなので、修復は国がやるべきだ。

昔は1・5haあれば生活できたが、今はその10倍あっても生活できない。

農産物に対する消費者の考えはおかしい。安いのが当たり前だと思っている。米は30㌔あれば普通の家庭では1カ月食べられる。ご飯が茶碗1杯で41円。安すぎる。

「土づくり実証米」

おいしい米づくりの基礎は土づくり。そう考え、農協では1998年から土づくり運動を始めた。最初に土壌調査と解析、食味測定を行い、集落座談会などで呼びかけ、講習会を開き、農協の負担で土壌改良剤「大地の息吹」を水田に散布し続けた。商標登録も取得し、1俵当たり320円を加算している。2008年には土づくり肥料散布面積が8000haを超え、一等米比率も96%に達した。高温などのために一等米比率が下がった2023年でも81・9%と、県平均の50%台を大きく上回り、その効果が実証されている。

2025年からは、特別栽培米「サキホコレ」の栽培も始まる。

農協としての今後の課題は、気象変動に負けない稲づくりはもちろんのこと、CO2削減・環境負荷軽減に取り組んでいかなければならない。

農協版みどり戦略

温室効果ガス削減の取り組みとして、中干し期間の延長によるメタンガスの抑制、バイオ炭の育苗用床土施用、園芸品目への投入などを行う。組合員に、ネオニコチノイド系農薬の使用量減少、ノンコーティングタイプ肥料の導入、堆肥の有効活用を勧める。

さらに、国の「みどり戦略」に対応するために畜産農家のふん尿と菌床しいたけ農家の廃菌床を粉砕し、それを混合発酵することで堆肥化を促進し、稲作農家や園芸農家に供給する。資源循環型農業の構築と環境負荷軽減に取り組む。

夢のある地域農業

農協は「地域営農ビジョン──夢のある地域農業づくり」を策定し、今年度から中期総合3カ年経営計画をスタートさせた。これまで効率化をめざしてきたが、今度はそれに加えて「成長戦略」を掲げ、かじを切り替えた。効率化だけではいずれ行き詰まる。

「成長戦略」は、園芸・畜産の生産拡大、水田面積の維持、担い手経営体の育成などが柱。旧農協ごとに地域農業者協議会を立ち上げ、不作地の解消や効率的な農地活用をめざし、農協としても、地域と連携し農地保全のために農作業の受託を行う。また、農業振興の一環として、農協がハウスを取得し、リース方式により新規就農者や規模拡大する農家を支援したい。

役職員で10年後の地域農業と経営シミュレーションを見据え、こうあるべきというビジョンを喧々諤々(けんけんがくがく)議論しながら作り上げた。10年間にまたがる三つの中期計画をホップ・ステップ・ジャンプと位置づけ、大きく助走するホップでなければステップにたどり着けず、ステップにたどり着くことが出来なければ「叶わぬ夢」で終わる。

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