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災害乗り越え前に 秋田しんせい農協ルポ(4)自給運動は農協運動2025年1月23日

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昨年7月末に秋田、山形両県を襲った記録的大雨。秋田県での農林水産関係の被害額は185億円を超え、同県での大雨災害としては過去最大となった。犠牲者も出ている。冠水した田畑に土砂が流入して収穫できなかったり、農業機械が浸水して使えなくなったりするなど、多くの被災農家が苦境に直面している。

大雨で最も被害が大きかった秋田しんせい農協の被害状況や農協、行政の対応はどうだったのか。そして、米価が下がり続けたこの30年。農協は協同の力でその経営危機をどう乗り越えてきたのか。また今日の農業危機をどう切り開いていこうとしているのか。同農協の佐藤茂良組合長に話を聞き、災害を受けた農家の声も拾い、被害を受けた現場にも入った。さらに、にかほ市に住む、かつての農産物自給運動の全国のけん引者だった旧仁賀保町農協で生活指導員だった渡辺広子さんに、農協運動に期待することなどを聞いた。(客員編集委員 先﨑千尋)

農協の生活活動を語る渡辺広子さん夫妻

農協の生活活動を語る渡辺広子さん夫妻

旧仁賀保町農協の生活指導員だった渡辺広子さんは、秋田県東由利町(現由利本荘市)に生まれ、佐藤喜作組合長とともに農産物自給運動を始めた。この運動は燎原の火のごとく全国の農協に広がり、農協の生活活動の柱の一つとなった。1988年には高齢者の活動拠点として「百栽館」を立ち上げた。百栽館は、農村の高齢者の持つ無限(百)の知恵と技術(栽)を持ち寄り、伝承し、保存していく場(館)である。農協を退職した1995年には、夫で農協生産指導課長の勇さんが直売所「百彩館」をオープンさせた。「彩」は豊かさを意味している。  2005年には、営農指導員だった勇さんとともに自宅に食育工房「農土香」を開き、農村レストランとソバ打ちや米粉を使った料理教室などの食育体験を行ってきた。全国から広子さんの経験を聞こうと来客が絶えない。さらに、農協女性部や市民会館の料理講習などで忙しく活動を展開している。

自給運動は農協運動

旧仁賀保町農協の農産物自給運動は農協運動そのものだった。食卓の自立は女性の自立。食卓の自立なくして農家の自立もない。その延長に農協がある。食べものはいのちの源。いのちをつないでいく最も大切なものだ。

農土香は自給運動の実践の延長として開いた。季節の食材や米粉を使い、大豆でコーヒーも作る。予約制にしているが、全国から来訪者がある。

うれしいことに、最近、この近くの50代、60代の農家の女性たちが会社の勤めを辞めて、姑がやってきたことを受け継ぐようになった。自分の家の田畑で取れたものを食卓に出し、家族で食べる。その様子を子どもが見ている。充実感があるようだ。

【取材を終えて】

1993年に米1俵は2万3000円だった。それをピークに米価は下がり続け、一昨年にはその半分にまで落ちた。農家の労賃も1時間でたったの10円にしかならない。米価の下落に合わせるように、秋田しんせい農協は発足後、管内の農地、農家戸数、組合員が減り続け、農協の重要な指標の一つ農産物取扱高も、合併当初に178億円あったのが一昨年には89億円と半減した(米は6割減)。

組合員のために農協をなくしてはならないと考え、同農協は効率化のために、組合員に情報を示しながら、事業所や支店の統廃合、利用施設の外部委託などあらゆる手段を講じた。その結果、営農経済事業で黒字化し、利用高配当もできるようになった。

効率化戦略が一段落したので、農協は10年後を見据え、昨年度に「地域営農ビジョン」を策定し、成長戦略にかじを切った。そのために農業経営支援室やAgri・Food未来企画課を設置するなどの体制を整えた。

エネルギーあふれる佐藤組合長の話を聞きながら、成長戦略の基本方針と柱はよしとして、さらに今後のために何をすればいいのかを私なりに整理し、組合長に幾つかを提言した。米が中心の農協なのだから、これまで苦労して作り上げてきた高品質の「土づくり実証米」に、消費者に分かりやすい、もっと言えば飛びつくようなネーミングを考えること、生産者と消費者をつなげるための直売所の開設・拡充、有機農業への積極的な取り組みと学校給食への提供、消費者に分かりやすい広報活動などがそれだ。

さらに、管内ではかつて自給運動を進めてきた旧仁賀保町農協があり、渡辺広子さんというどこにもない貴重な財産があるので、ほったらかしにしておくのはもったいない、と話した。組合員の暮らしをよくするためにこそ農協はある。そのためには生活活動に力を入れるべきではないか。

鳥海山麓は日本で二番目に星がきれいに見える所と聞いた(一番は長野県)。それもネーミングに生かしたい。

管内には無尽蔵の資源と協同活動の蓄積がある。それをどう生かしていくのか。佐藤組合長の手腕に期待したい。

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