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JAの活動:【Never Give Up! 新時代へ前進あるのみ 第71回JA全国青年大会特集】

日本の未来拓く青年農業者に期待 千葉大学 横手幸太郎学長インタビュー2025年2月26日

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全国の国立大学で唯一、「園芸学部」を持つ千葉大学は2023年度に「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業」の一つに採択され、米を使ったワクチン開発などユニークな研究が進められている。同大学が今後めざすことや農業、地域振興へ貢献する研究などを横手幸太郎学長に聞いた。聞き手は、加藤一郎千葉大学客員教授・元JA全農専務

横手幸太郎学長

理系と文系融合

加藤 2024年4月に学長に就任されました。これからの大学運営にどのような思いをお持ちですか。

横手 研究、教育、社会貢献に力を尽くしていますが、これからは大学が選ばれる時代になっていきますから、社会に閉塞感が高まっている今、未来を切り拓き人が豊かになるような大学、教育をめざしていきたいと思っています。

その意味で千葉大学の研究の強み、教育の強み、さらにグローバル化を通じて知識と人間性を大きく育むことができることに魅力を感じて人が次々と集まってくる、そして教職員も学生もやりがいを感じて生き生きと活躍できる、そういう大学でありたいと思います。

加藤 民間企業から見ると、大学は学部、研究室の縦割りが強すぎると感じます。

横手 今、11学部あります。いろいろな学部があることは千葉大学の魅力の一つだと思います。昨年、創立75周年を迎えましたが、教育学部・医学部は創立150年、工学部は創立100年を迎え、それぞれ別々の出自を持った学校が合体して戦後、千葉大学となりました。ですからもともと寄せ合わせの構造だったとも言えるでしょう。

ただ、それは千葉大学がこれからもう一皮剥けるためにはもったいないことであって、もっと理系と文系、あるいは同じ理系のなかでも工学系と医学系、園芸などが融合することで生み出せる価値が多々あると思います。

私自身も、昨年4月の就任以降、すべての学部をまわってそれぞれの学部の幹部や若手教員と話をしたり、あるいは過去5年間に新しく教授になった全学部の若手教授を一同に集めてお互いに研究発表交流会を催したりするなど、できるだけ風通しのよい運営を図ろうと努めているところです。

多様な研究強み

加藤 千葉大学は文部科学省の「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業」で2023年度に採択された12大学のうちの一つです。これはどのような意義を持つ事業なのでしょうか。

横手 東北大学が国際研究卓越大学に選ばれて話題になっていますが、それだけでは日本の将来にとっては不十分だという文部科学省の考え方から、地域に根ざした卓越大学という意味で地域中核・特色ある研究大学強化促進事業が始まることになりました。

その初年度、全国69大学が応募し、その中から千葉大学が12大学の1つとして選ばれました。これは5年間で55億円弱の支援を受け、その大学の特色を伸ばすということです。

そこで千葉大ではまずは免疫学の研究と、コロナ禍で活発化したワクチン研究を行います。このワクチンは医学部だけでなく園芸学部ともコラボレーションしており、お米のなかに抗原を発現させて、口から飲んで効くワクチンを作るべく、現在松戸キャンパスで栽培が行われています。今後は柏の葉キャンパスに新しい研究所を建てて、その中でこの事業を発展させる計画です。それから鼻に噴霧するワクチンなど次のパンデミックに備えた新型ワクチンの開発を行っています。

また、千葉大には宇宙物理学の世界的な研究者も集まっており、南極の氷のなかに長い筒型の設備を入れて、そこで宇宙線を捉えるという研究を国際的に展開しているグループがあります。

さらに、地球温暖化、環境破壊が問題となっていますが、宇宙空間を飛び交っている人工衛星のデータを集めて、地球規模での天文、気象の研究をするセンターもあります。そして、予防医学も強みです。

これら4つの柱を中心に、千葉大学ならではの強みを伸ばし、その成果をヨコ展開して大学の総力を高めることが、この事業で期待されています。

その過程で産官学の連携はキーだと思っています。大学が生み出した研究技術や新たな発想を企業と連携してより大きな価値の高いものにしていく。その中で得られる新たな収入を企業も大学も次の開発に繋げていく。そういう循環を築いていくことが将来へ向けた発展にはとても大切だと考え、今もいくつかプランを検討しています。

加藤 一方で千葉大医学部の学生をメンバーとする「CUMST(カムスト)」が創設されたと聞きましたが。

横手 世界と闘えるような大学になろうという思いの一方で、やはりこの千葉の地で地元と密着し、その中で学生が社会貢献を学び、実践することも重要だと考えています。ですから千葉県や千葉市との連携を深めているところです。具体的には千葉大医学部に災害治療学研究所が数年前にできて災害への対応を医学的、社会的に研究していますが、そこが千葉市と包括連携協定を結び、活動の一環として「CUMST(カムスト)」、千葉ユニバーシティ・メディカル・サポートチームという災害時の機能別消防団として教員サポートの下、学生中心で活動する組織を構築しました。もともと医学部に救急サークルという部活動があったので、そのメンバーを中心に構成して団結式を行ったところです。今後、地元の消防団の活動を補完して災害時の対応、あるいは平時からの備えに関わっていくことになっています。

加藤 千葉大学には全国の国立大学で唯一、園芸学部があります。その意義と農業についてのお考えをお聞かせください。

横手 園芸学部を持っているのは千葉大学の大変ユニークな強みだと思っています。農学部ではなく園芸学部。農産物を生産するというだけでなく、都市計画や建築に近い領域を有し、環境問題への対応でも大きな実績を上げています。

研究面では医学と非常に密接に関わる生命学の研究もしています。受粉などの面から昆虫の研究もしていますね。非常に幅広く、それがすべて園芸という言葉に集約されている面白さは千葉大学ならでは、と思っており、大きな可能性があると感じています。

日本人は今では世界で最も長生きの国民になっており、その背景には医学や薬学の進歩がありますが、同じくらい大事なことは栄養が良くなったということかも知れません。

食料自給 重要な課題

一方で日本は食料自給率が低いため、今回のウクライナ戦争でも起きたように穀物が輸入できなくなる、あるいは台湾有事ともなればサプライチェーンが分断されてしまうことも考えられます。日本人が健康に生活できるための食料の自給は今後、安全保障上の面でも重要な課題になると思います。

そのような状況にあって、日本の狭い国土と減りゆく人口の中で気候変動の影響を受けずに農業を続けられる研究をすることが大学に期待されているのではないかと思います。

現在、園芸学部では宇宙園芸というプロジェクトに取り組んでいますが、宇宙空間のように過酷な環境で植物を育てようという試みは、地球の環境変化にも応用することができるのではないかと考え、非常に新しい発想だと思います。

それからまた日本の各地域で人口の偏在や経済格差が大きくなる中で、人間にとって必要な農業を園芸学の力で活性化することは地域の振興にも繋がるものと思います。

持続可能な社会 青年に期待

加藤 このインタビューは第71回JA全国青年大会特集号に掲載します。若い青年農業者へのメッセージをお願いいたします。

横手 農業は以前に比べかなり変わってきていると思います。今はスマート農業や植物工場なども出てきました。いろいろな手法を応用しながらまったく新しい価値を生み出すことができる、そしてそれが必ず社会の役に立つという仕事だと思います。

ご両親から農業を継ぐことはもちろん、あるいは新たに農業に参入するという場合もあると思いますが、地道に大事なことをしていく中で、自分のアイデアをそこに入れて新たな価値を創出できるとても可能性のある分野だと思います。ぜひ日本社会の未来を持続可能で明るいものとするために青年部のみなさんに頑張っていただきたいと思います。もし千葉大学がお役に立てることがあれば、大変嬉しいですのでまた交流させてください。

加藤 ありがとうございました。

(よこて・こうたろう)1988年千葉大学医学部卒業、96年スウェーデン国立ウプサラ大学大学院博士課程修了(PhD)、98年千葉大学大学院博士課程修了(医学博士)、2009年~千葉大学教授(内科学)、20年~千葉大学医学部附属病院病院長、千葉大学副学長、21年慶應義塾大学大学院修士課程修了(経営学修士MBA)、24年千葉大学長。
全国医学部長病院長会議顧問、国立大学病院長会議前会長など。専門は糖尿病・脂質異常症・肥満症などの生活習慣病と高齢者医療。

加藤氏

【インタビューを終えて】横手学長とは2024年に学長就任する前の附属病院病院長時代に附属病院有識者委員会でお会いしたことから始まりました。同委員会での会議の進め方の手際の良さ、また参加者への的確な意見の求め方には感服しておりました。また学生時代は医学部の剣道部に属し、私も剣道部にいたこともあり、共通の友人が多数おり親近感が高まりました。今後、医療と農業との繋がり、特に健康と野菜や果物など園芸品目に関する学長の新たな施策には期待することが大きいものがあることを実感いたしました。(加藤)

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