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【クローズアップ農政】TPPとプレTPP 交渉先取りする国内改革 醍醐聡・東京大学名誉教授インタビュー2014年6月11日

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・主権の危機に賛同集まる
・自由競争は正義か?
・日豪EPAでなし崩し?
・国内改革先行に警戒
・為替条項、財界にも打撃
・「食」と「地域」守る

 TPP(環太平洋連携協定)交渉は最終局面を迎えているといわれる一方、交渉は長引くとの見方もある。一方で国内改革はTPPがめざす世界を先取りしたかのような急進的な改革が成長戦略の名のもとに進められようとしている。内外の状況をどうみるか、今後運動を広げる課題は何か。TPP参加交渉からの即時脱退を求める大学教員の会呼びかけ人である醍醐聡・東京大学名誉教授に聞いた。

「国のかたち」に危機感を

 

◆主権の危機に賛同集まる

醍醐聡・東京大学名誉教授――TPP交渉の問題点を改めてお聞かせください。
 大学教員の会は昨年3月に17人が呼びかけ人になって立ち上げ、最初に安倍首相あての交渉参加反対の申し入れ文書への賛同を全国に呼びかけました。これには900人近くの賛同がありましたが、いちばん多かった声はこの交渉に入っていくと日本の主権が損なわれてアメリカの属国のようになってしまうのではないかという危機感でした。
 それも意外なことに法律や経済が専門ではない文学、教育学、物理学など広い分野の大学教員から聞かれました。みなさん考えることは同じなんだと心強く思いましたが、その後の交渉参加以降、分野を問わず日本の主権が損なわれてしまうのではないかというTPP協定への本質的な懸念はずっと変わっていません。

 

◆自由競争は正義か?

 TPP協定は21世紀の標準的な貿易形態をめざすといいますが、これは自由貿易原理主義だと思います。自由に価格競争をすることがこれからの理想なんだという考え方が自明のように言われています。しかし、自明でもなんでもない。東大の伊東元重教授が保護主義で栄えた国はひとつもないとよく言いますが、これは経済学者として責任を持てる言説ではないと思います。
 とくに農業については、地理的、気候的条件に応じて当然、扱いに差異があり、どの国にも食料主権があってしかるべきです。その差異を調整するために各国がお互いに認め合ってきた手法のひとつが関税だと思います。それを取っ払うとは地理的条件を無視して価格至上の競争にさらすということです。こうしたTPPの発想は自由貿易原理主義と呼ぶにふさわしいと思いますが、経済学を専攻する者としてこんな乱暴な議論を放っておいていいのかという気持ちに駆られました。
 同時に憤りを感じるのは米国の身勝手さです。砂糖はしっかりと守る、これは米豪EPAで決着済みだ、とTPPには持ち込まず封印してしまう。ところが、日本の重要品目の関税は認めない。ずいぶんと傲慢な議論です。 多くの賛同者の大学教員の根底にあるのは、この交渉の枠組みはそもそも不正義をはらんでいるという問題意識だと思います。自国の運営はその国の国民が決めるという互いの主権を尊重し合い、そのうえで貿易や文化で交流、親善を深めていくのが当たり前です。TPPが目指すのは各国国民の福祉の向上ではなく、国籍のない企業が活動しやすい貿易ルールを各国に押し広げることです。

 

◆日豪EPAでなし崩し?

――交渉の状況をどうお考えですか。
 4月の日豪EPA大筋合意によってTPP交渉はまずい方向へ転換してしまったのではないかと思います。
 この合意で日本政府は関税削減には応じても全面撤廃を避けさえすれば、国会決議に必ずしも反しないという解釈を始めた。これまで表向きはそんなことは言ってこなかったと思います。重要品目は「除外」、つまりそもそも交渉の対象から外すということだった。
 しかし、政府は国会で「除外とは交渉のなかで決まっていくものだ」と説明し出しました。ということは日本政府は確定的なスタンダードを持たずに交渉に臨んでいるということです。しかも日豪EPA合意では関税削減率はわずかなものではなくほぼ半分です。これでも国会決議の範囲内だとの説明は牽強付会というほかありません。
 こういう解釈を政府がし始めたことが、日米協議だけでなく、ニュージーランドとの乳製品、東南アジアから日本への米輸出の交渉にも影響を及ぼしかねない。非常に厳しい状況だと思います。
 この会を立ち上げてから地方の生産現場を訪ねましたが、どこの農協、農家のみなさんも安全、安心な農産物を供給しているのだという誇りを持っていることを肌で感じました。それだけに生産履歴がチェックされない外国産品が安さだけをメリットにして入ってくることに非常に危機感を持たれ、日豪EPA大筋合意のとき、たまたま滞在していた岩手県の地元紙は「セーフガードを付けて段階的に関税を引き下げるというと聞こえはいいが、われわれはじわじわと生殺しされるのと同然だ」という畜産農家の声を伝えていました。

 

◆国内改革先行に警戒

 実際、セーフガード(SG)が措置されたといいますが、数量基準では発動されるものの、価格の値下がりによる収入減ということに対しての補償はどこにもありません。しかも、米国は日本政府が頼みの綱にするセーフガードを認めたわけではないのです。
――農業以外の分野も重要です。交渉内容は秘密ですが、国のかたちやそれこそ主権に関わる問題も多い。状況をどう見ていますか。
 主権を揺るがす問題として、法律分野ではISD条項(投資家対国家紛争解決手続き)がそれであることは間違いないことであり、このような究極の包括的な主権侵害はTPP交渉の非常に大きな問題であることに変わりはありません。
 しかし国内的にはすでにTPP協定を先取りしたような主権が侵害されかねない事態が起きてきていることを問題にしなければならない状況だと思っています。

 

◆為替条項、財界にも打撃

 たとえば、食料自給率50%目標について、もう現実的なものに変えようといった声が上がってきている。それから医療費抑制政策として重視してきているジェネリック医薬品についても、政府のロードマップでは2018年3月までに60%まで普及率を引き上げるとしていた(現在は約26%)のに、むしろ下がっていくような特許権保護が行われようとしているのです。
 しかし、実はジェネリック医薬品が世界でいちばん普及しているのが米国で78%もの普及率です。自分の国がいちばん普及しているのに、諸外国が普及させようとすると待ったをかける。さらに患者の選択の自由の拡大をうたい文句に、効能の高い新薬を保険診療の外に置き、高い保険外診療を受けられない患者の選択の自由を狭める混合診療の拡大を規制改革会議が打ち出しています。
 また、健康食品の機能性表示に関する規制を大幅に後退させる動きが進行しているのも重大です。「国ではなく企業が科学的根拠を評価したうえで、企業の責任において表示する」健康食品という分類を設ける動きは、営利企業の自己評価に国民の健康を委ねるに等しい無責任極まりない改悪です。 最近では交渉は行き詰まり漂流も、という声もあります。しかし、TPP交渉が遠のいたから一安心かといえば、決してそうではなく、今お話したようなプレTPP、つまり、TPPがめざす世界を先取りしたような国内改革がいろいろな分野で起こっています。この点を見落としては、TPP反対運動は何だったのか、となりかねません。
 同時に経済界に発信したいのは、米国の国会議員が要求している為替条項です。今のところフロマンUSTR代表も表に出すのを控えているようですが、議会からいつ出てくるか分かりません。きっかけはアベノミクスで円安が進んだことですが、米国からみれば安い日本製品が入ってきて市場が奪われると非常に不満を募らせることになった。とくに政府と日銀がかなり密接な共同歩調をとっていますから、米国からすればかっこうの攻撃材料です。
 しかし、為替操作かどうかなど誰が何を基準に認定するのか、ということになります。結局、日本の製品と競合している業界の利益率がこれだけ下がり、日本製品のシェアが伸びるといった外形的な根拠があれば、これは為替操作の影響だと認定するということにするのでしょう。そう認定されたから関税を元に戻す、こういう条項をTPP協定に入れろというのが米国議員の要求です。

 

◆「食」と「地域」守る

 これを認めたら日本の金融政策の手足を縛られ、輸出産業は大きな打撃を被ることになります。経済界は総じてTPP推進の立場ですが、為替条項を見れば、経済主権が侵害される被害は経済界にも及ぶということを悟ってほしいと思います。
 TPPは農業だけの話ではないと言ってきましたが、私たちは改めて農業が「地域社会」と「食」に関わる問題だということを強調しなければなりません。農業の衰退が地域の衰退と重なるところは多い。「食」に関しては『毎日新聞』が5月19日に掲載した世論調査の結果に注目したいと思います。それによると、「畜産農家に打撃があっても安い農産物が輸入されることをよしとしますか」という質問に対して、「そうは思わない」が62%で「そう思う」(29%)の2倍以上でした。とくに女性は69%が「農家が打撃を受けるのはいいと思わない」と答えています。
 日豪EPAの合意内容が知らされるとやはり国産が打撃を受けることをよしとしない国民が非常に多くなっているということだと思います。そういう意味で「食」の視点が大事です。ここを起点に運動を粘り強く広げていきたいと考えています。

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