【インタビュー】山田俊男・参議院農林水産委員会新委員長 農政・当面の焦点を聞く2014年10月14日
・米価対策再構築めざす
・TPP国会決議が物差し
・農協改革狙いはどこに
・JAの役割公共性の自覚を
9月29日に始まった臨時国会から、参議院の農林水産委員長には山田俊男参議院議員が就任した。日豪EPAの国会承認問題とTPP交渉の動向、農協改革をはじめとする農政改革に加え、26年産米をめぐる米価下落問題など課題は山積する。どう対応するのか、改めて課題を聞いた。
(聞き手は梶井功・東京農工大名誉教授)
国民の食料・国のかたちを視点に
【米価対策】
再構築めざす
梶井 参議院農林水産委員長へのご就任、お目出とう、を申し上げると同時にまさに本領発揮の役職、がんばってくださいと申し上げたい思いです。さて当面するのは米価問題です。概算金は大変な引き下げですが、この事態をどう考えますか。
山田 25年産米がかなり残っていて値下がりが始まり、そこに今年の作柄は良好だという話が当初はあったことから、26年産米価格もその流れのなかで決まっていく見通しを念頭に今年の概算金を決めたということでしょう。もちろんそれ以上の価格で売れれば追加払いをします。
ところが、今は概算金を下げたから米価を下げたんだ、というまったく理不尽な議論を吹っかけられています。大事なことは需給ギャップが生じた場合に市場から買い入れる仕組みは一切なくし、備蓄米の買入は播種前契約だけで行うことにしたことです。生産調整を考えると播種前契約のほうが、生産数量目標を達成しやすいという考えはあったかも知れません。しかし、国として主食である米についてどう責任を持った扱いをしていくか、その手段を全部なくしておいて、それで米価が下がった責任は概算金を下げた全農だという議論はまったく理不尽極まりないと思っています。
梶井 需給及び価格の安定に関する法律がありながら、価格の安定に関する措置は、具体的に手当されていないという問題があります。
山田 改正食糧法は自主的な生産調整も含めてそれに国が関与するという仕組みです。しかし、5年後には生産調整をなくす方向を打ち出したうえに、価格形成はなんと先物取引で行うという。先物取引は試験実施を2年間認可して、さらに延長までしました。
こういう状況ですから、ここで国は米の需給と価格安定にどう関わるのか、改めて議論を巻き起こさなければならないと考えています。
梶井 国としてのとるべき対策を国会で早く議論して政府に問題提起すべきではないかと思います。
山田 一方で経営所得安定対策の仕組みは残っています。ところが、主食用米作付面積に対する加入者の割合は3割しかない。今年に限って特例的措置として未加入者については加入者への補てん額の2分の1だけ補てんすることになってはいますが、米価の大きな下落をカバーするものにはなっていないと思います。来年からは規模による加入要件はなくしますが、この仕組みの見直しも課題になります。
梶井 国民食料として最重要な米なのに、この10年の施策動向をみると継続性がない。農家の方々にとって、この制度なら100年は見通しがつくという政策をこの際考えるべきだと思います。
山田 地方から澎湃(ほうはい)として、民主党の戸別所得補償制度のほうがよかったんじゃないかとの声も上がり、私も各地で厳しい意見を聞きます。自民党は政権復帰後、経営安定対策予算と土地改良予算とのバランスを回復したわけですが、米政策については改めて考える必要があります。
【TPP】
国会決議が物差し
梶井 日豪EPAについて、今の国会で承認を求めることになりますか。
山田 この臨時国会で進む見込みです。
梶井 合意内容は国会決議をぎりぎり守れるものと党も了承したと聞きますが。
山田 牛肉の関税38.5%を段階的に15年目に23.5%(冷凍は段階的に18年目に19.5%)に下げます。しかし同時にセーフガード(緊急輸入制限措置)を発動する仕組みをつくりました。これがきちんと機能すればこれまでの輸入実績を超えて入ってくるものは制限されることになります。
関税は段階的に下がりますが、和牛や豚肉にどう影響が出てくるか、そこは見極めなければいけない。今は円安で輸入価格そのものは高くなっていますから当面は大きな影響を与えないと思いますが、今後の影響を考え経営安定対策の充実を求めていかなければいけません。
むしろ心配なのはTPPです。セーフガードをどう設定するか日米協議で議論になっているようですが、豪州を横目で見ながら米国と交渉できているかどうか。
米国は中間選挙を前にして議会も農業団体もかなり強気の要求をしており、すべて関税撤廃でなければだめだといった圧力をかけている。そんな要求をもとにTPPのセーフガードが決まっていくとなれば、豪州との協定も必ず見直すことになる。そこはどういう関係になってくるのか。非常に注視が必要です。
梶井 TPPは交渉内容がまったく分かりません。この点はそれこそ国会の委員会でTPP交渉の内容が分からなければ、日豪EPAをどう評価するかも分からず、議論のしようがないではないかと問題にすべきです。
山田 本当にご指摘の通りです。交渉内容が分からなければ議論できない、「国会議員にも内容が知らされないのか」、と政府が交渉参加を判断してから1年半にわたって言い続けてきたことです。
成長戦略の一環にTPPを位置づけ環太平洋の自由な貿易を促進し農産物も例外ではない、というかたちで進んでしまっている。極めて残念です。農業の特性、国土の特性をきちんとふまえた議論をなぜ進められないのか。今のところはセンシティビティを抱える重要5品目については国会決議をふまえて徹底して頑張る、関税撤廃は許さない、という交渉が進められていると信じていますが、絶対に、守らせなければなりません。
【農協改革】
狙いはどこに
梶井 5月に在日米国商工会議所が意見書を出して農協の信用、共済事業を整理することは賛成だといっています。今度の農協改革の政府提案も、米国の要望に応えるためでもあったのかと思いますが…。
山田 これまでも対日年次改革要望、日米貿易障壁報告書などで米国は主張していました。農協の共済事業を農協法ではなくて民間の保険会社と同等の扱いにする保険業法、保険法に統一してしまえという議論です。これまではこれを止めさせましたが、再びJAグループにいろいろな言いがかりをつけ米国の資本の論理を貫徹しようとしているといえます。
思い起こせば韓国では韓米FTAが締結される前、農協中央会の総合事業は分離させられ、信用事業は農協銀行、共済事業は農協保険へと株式会社化した。規制改革会議の答申は信用、共済の代理店化と選択制を主張し分離までは言っていませんが狙いは一致している。そのうえ中央会は統制的な組織だから農協法の世界から外して、新しい組織にすると言っています。 つまり中央組織を引きはがそうとしているわけです。米国の友人の弁護士も中央組織を引きはがすという論理はただちにJAグループ全体のまとまりを分断、分解するだけの話だと指摘しました。これがJA全中の廃止にこだわっている理由だと思います。
【JAの役割】
公共性の自覚を
梶井 農協は岩盤です。それは既得権の岩盤ではなく日本の食料、農業、農村を守る岩盤です。
山田 総理は既得権の岩盤に私のドリルの刃にかなうものはないと何度も言われる。農業、医療、雇用を含めてのことだと思われますが、これらはドリルで穴を開け壊すべき組織なのか。農協は本当に農村地域における社会的組織として家族農業を中心としながら地域全体の協同の取り組み、安定を実現していると思います。ひいてはそれが日本の国のあり方、安定した礎を作りあげていると思います。
ただ、そのためにもJAはもう少し強くならないといけないと思います。その面で改革は必要であって耕作放棄地がどんどん出ていて、担い手がいないからといって放っておけばやはりJAは攻撃されるだけです。一方でそういう課題にJAとして乗り出している優良事例はあるわけです。ぜひ挑戦していただきたい。
梶井 今度の農協改革は経済事業だけの農協に持っていきたがっています。今の農協のいちばんの特徴は経済団体であると同時に、公共団体だということです。農業者の共益性を追求すると同時に、地域の人たちの公共性を追求している組織であるということが重要です。
山田 まさに総合事業をしっかり確保することです。そのため中央会は県域、全国域における中央組織としての役割を果たすこと、それには中央会が持っている監査の実施と、それに裏付けられた経営指導、この仕組みはきちんと維持していくべきです。
梶井 一層のご活躍を期待します。
【インタビューを終えて】
山田としおメールマガジンNo.341(9.29)に、農協改革に関して山田議員は、
“とりわけ総理の…たび重なる発言からすると現行の中央会制度を廃止する農協法の改正案を、内閣は、党と対立しても強行上程することにもなりかねません。…衆議院先議で審議が進められることになるとみられますが、「政策の参議院」としてどう対処するか、改正案の内容いかんによっては激烈な議論と対処が求められることになります。場合によっては、委員長の職責をかけた取り組みが求められかねないのです”と書かれていた。
対談でも表面は穏やかだったが、“職責をかけ”て頑張るという気迫は十分に感じられた。農業の危機である。頑張ってほしい。
(梶井功)
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