【米国のスーパーチューズデー】トランプ阻止へ サンダースも選挙継続2016年3月3日
萩原伸次郎(横浜国立大学名誉教授)
米国大統領候補者選びは3月1日、民主、共和両党はそれぞれ11州で予備選・党員集会を開いた。民主党はクリントン氏がサンダース氏に差をつけ、一方、共和党はトランプ氏が圧勝を続けた。今回の選挙結果について、再び萩原伸次郎・横浜国大名誉教授に解説してもらった。
◆米国民主主義の歴史 呼び覚ます「火曜日」
アメリカでは、「スーパーチューズデー」の3月1日、民主党11州(+米領サモア)、共和党11州の予備選・党員集会で、大統領選の候補者指名に向けて、投票が行われた。 与党民主党では、ヒラリー・クリントン前国務長官が7州で勝利し、バーニー・サンダース上院議員4州勝利にかなりの開きをつけた。野党共和党は、ドナルド・トランプが7州で勝利、期待されたマルコ・ルビオは、ミネソタ州で勝利したのみ、代わって、ティー・パーティーの急先鋒、テッド・クルーズが3州で勝利した。
米国の選挙はなぜ火曜日に行われるのか。憲法上に定められているわけでないが、1845年の法律で定められたものだ。敬虔なキリスト教徒の多かったアメリカでは、金曜日、土曜日、日曜日は、礼拝の日であり、投票日にはできない。当時は、投票に行くには、馬車で行くしか方法はなかったから、移動日として1日が必要だ。すると、残りは、火曜日か水曜日になるのだが、水曜日は、マーケットの日ということで、ダメ、残るのが火曜日だったというわけだ。大統領選挙の一般投票が行われる11月8日もしたがって火曜日ということになる。
しかもこれも、馬車が絡んでくるのだが、11月8日は、大統領候補の選挙人を選ぶ間接選挙だ。本選挙は、12月中旬に、選挙人が首都ワシントンに出かけて正式の投票をして、米国大統領は決まるのだが、なぜ1カ月半もの長い時間があるのか。それは、選挙人が首都ワシントンに出向くには、昔は馬車で行くしか方法がなかったからだ。幕末、鳥島沖での漂流生活の後、米国捕鯨船に救助され、米国に長らく滞在した、中浜万次郎が、嘉永4年(1851年)日本に帰国した時、米国では大統領は国民が選ぶという米国民主主義を伝えたとされる。投票日が火曜日というのは、そのころからの慣習ということになる。
◆大新聞が異例の社説 オバマもトランプ批判
それは、さておきこの「スーパーチューズデー」では、共和党候補、ドナルド・トランプが共和党大統領候補指名を有力にしたことが話題となった。人種差別発言を繰り返し、選挙の直前には、白人至上主義団体KKK元幹部からの支持を拒否しなかったことが批判される一幕があった。ワシントンポスト紙は2月25日異例の社説で、「良心ある共和党指導者にトランプ氏を止める意思があるなら、今こそできることをする時だ」と呼びかけ、「弱い者いじめの民衆扇動家の指名獲得を防ぐため、できることをすべてしなかった指導者に、歴史は優しい目を向けないだろう」と主張、オバマ大統領も、記者会見で、「大統領職は大変な仕事であり、テレビの番組で司会をやるような気楽な仕事ではない、トランプ氏には、大統領になってほしくない」と明確に述べた。
ドナルド・トランプは、常にオバマ攻撃を行なってきた。2011年、オバマ大統領はハワイではなくケニア生まれで大統領の資格はないという議論を持ち出したのもトランプだ。オバマ大統領は「アフリカ生まれ」という疑惑を払拭するため、出生証明をメディアに公開するという異例の事態となったことがある。
しかし、こうしたデマゴーグを今の共和党は、阻止できない。スーパーチューズデーでは、若手のルビオ上院議員に期待がかかったが、ミネソタ州のみの勝利だったし、2位につけたクルーズもトランプに大差をつけられている。2位以下が束になってかかってトランプに対抗しても困難なのに、この両者は、未だ、選挙戦を続けようとするのだから、このままいけば、共和党大統領候補は、ドナルド・トランプということになるだろう。
一方、与党民主党は、予想通り、ヒラリー・クリントンが代議員数を着実に伸ばしている。一般代議員の数からいうと、ヒラリー587、バーニー397で差は、190である。しかし特別代議員の数を入れると、ヒラリー1055、バーニー418となり、圧倒的にヒラリー優勢だ。ヒラリー・クリントンの強い南部が「スーパーチューズデー」に投票日が当たっていたということもあるが、バーニー・サンダースは、若者の圧倒的支持を背景に、選挙戦の継続を宣言し、「まだ、35州も残っている。このすべての州で戦い続ける」と意気軒高だ。
◆デマゴーグでも党勢拡大民主候補にも危機感
共和党が、デマゴーグ、ドナルド・トランプの登場で、分裂しているといわれながら、予備選・党員集会での投票数は、増加している。党を分断していると非難されながらも、トランプは、確実に共和党を大きくしているのだ。こうした、共和党に対して、民主党は、分裂はせず、バーニー・サンダースの登場で、ヒラリー・クリントンの政策が、左旋回し始めている。ドナルド・トランプが執拗に攻撃する、ヒラリー・クリントンが国務長官時代、公私混同のメールのやり取りをしたメール事件にたいしても、サンダースは、枝葉末節な議論で、問題にならないと、ヒラリー擁護に回っている。全ての州で戦うというサンダースの意気込みには、ドナルド・トランプの登場で活気づく共和党に対する「民主社会主義者」としての矜持を感じとることができるだろう。
(写真)米国の大統領候補選びでおなじみのテレビ討論(米国共和党の公式ホームページより)
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