【地理的表示保護制度の意義】 生産者団体自ら 知的財産管理を2016年4月20日
インタビュー:農林水産省食料産業局知的財産課杉中淳課長
地理的表示(GI)保護制度とは、産品の品質や社会的評価などの特性が産地と結びついていると認められる場合、その名称を知的財産として保護する制度である。世界で100か国を超える国が保護しており、たとえばフランスのノルマンディー地方で飼育された牛の生乳を使ったチーズ「カマンベール・ドゥ・ノルマンディー」や、イタリアのパルマ地方の丘陵付近でのみ生産された生ハム「プロシュート・ディ・パルマ」などがある。日本でも平成26年6月に地理的表示法が成立し、今年3月時点で12産品が登録されている。制度の概要とJAの農業振興にとっての意義などを農林水産省食料産業局知的財産課の杉中淳課長に聞いた。
JAこそ積極的に手を挙げて
◆世界で認知された権利
--この制度はどんな意義を持ちますか?
杉中 国際的な貿易の自由化が進んでくるなかで、日本の農産物のいちばんの強みは品質がよく、安心して消費できるということです。これからはその強みを増していくことが重要です。
これまでも高品質な日本の農産物の輸出拡大には取り組んできましたが、過去には日本の農産物が評判になると、同じような名前の類似品が出てきて価格競争に負け、市場を奪われてしまうということもありました。それに加えて、粗悪品が出回った結果として、その産品に対する信頼が失われてしまい、需要自体がなくなっていくということもあったのではないかと思います。
品質が良いものを売り出し、日本の強みをより生かしていくという観点からは、築き上げた評判、品質をしっかり守っていく必要があります。地理的表示保護制度は、このようなものを知的財産としてしっかりと評価・保護していこうという制度です。
◆栽培歴の長さが有利に
--国際的にはどう位置づけられていますか。
杉中 地理的表示(GI)は、WTO(世界貿易機関)協定のTRIPS(トリップス)協定で定められているものです。TRIPS協定では、特許や著作権、商標などが定められていますが、地理的表示(GI)もこれらと同様に、国際的に広く認められている知的財産の一つです。
地理的表示とは、その産品の品質等の特性と産地の結び付きを特定することができる名称、例えば、ある自然条件のもとで生産することや、その産地に伝わる伝統的な製法によって特性が発現する場合に、それらを特定することができる名称のことです。
ここでいう、産品の品質等の特性については、同種の産品と比較して非常に優れたものであることや、特性が数値・データによって示されることは、必ずしも求められるものではありません。
地理的表示保護制度とは、ある産地の自然条件や伝統的な製法により生産され、当該産地に根付き、結びついた産品について、その名称を知的財産として保護するものなので、長い歴史を有する国に有利な知的財産であるということができると思います。
これから、国際化がいっそう進む中で、日本に既に存在している農産品とその名称を、知的財産として保護していくことはとても重要であり、日本は、国際的にも広く認められている地理的表示をフルに活用していくべきだと考えられます。日本には、地理的表示保護制度に登録され得る産品は、全国各地にたくさん存在していると思われますので、ぜひ全国各地の皆さまには、制度の利用を検討していただき、地域の宝を掘り起こしてもらえればと思います。
--JAはこの地理的表示保護制度でどんな位置づけにあるのでしょうか。
杉中 日本の地理的表示保護制度がヨーロッパと違う点は、登録後の品質管理をするのが、第三者団体ではなく、生産者等を構成員とする生産者団体だということです。なぜこうした制度にしたかといえば、日本ではまさに農協などの生産者を構成員とする団体が、品質管理を担ってきたという実態があるからです。たとえば出荷の際のランクづけは農協の集出荷施設が担っています。ですから、地理的表示保護制度は、農協が中心となって、主体的に活用することができる制度であり、われわれとしても、農協とともに日本の地理的表示の保護に取り組んでいきたいと考えています。農協には、その産品を作ってきた歴史を守っていくことが期待されているということを改めて認識していただきたいと思います。
--この制度を今後、どう活用していくべきでしょうか。
杉中 地理的表示保護制度では、産品の名称とともに産地や品質等の基準が登録され、それらを満たす産品にだけ、当該名称と「GIマーク」を使用することができます。したがって、消費者には、GIマークの有無によって、品質等の特性について確認してもらうことが可能となります。このことを、生産者側から見ると、登録された生産行程の基準をしっかり守ることが非常に重要になるということです。
(登録後の品質管理)
また、この制度は、一次産品だけでなく加工品も登録の対象となります。たとえば、お菓子のような加工品でも、その地域に伝わる伝統的な製法で作られてきたものなどは登録され得ます。そういったものまで視野を広げて、この制度の利用について検討してもらえればと思います。
これまでに登録された産品の中には、きらりと光る農産物として特定の地域では知られていたものが、地理的表示の登録によって、全国的に知られるようになったというメリットもあるようです。
また、申請手続きなどを進めていく過程で、自分たちの産品について深く掘り下げて調査、検討することによって、その価値や強みをより明確に認識できるという面もあると思います。
--JAとしても農業振興策のひとつとして考えるべきだということですね。ありがとうございました。
◎地域共有の財産として
地理的表示(GI)とは、「地名+産品名」のように、産地とその農林水産物・食品等の品質・特性が結びついていることを示す表示だ。地理的表示が産地や品質の基準とともに登録されることで、その産品の品質に国からの「お墨付き」が与えられるとともに、当該産品には、地理的表示と併せて、制度に登録されていることを表す「GIマーク」をつけて販売することができる。
登録された地理的表示については、地域共有の財産として、登録された生産者団体に加入するなど、上記の基準を守って生産すれば、誰でも使用することが可能である。そして、不正な地理的表示の使用は、国が取り締まるため、生産者は、訴訟などの負担なく自分たちのブランドを守ることが可能となる。
◎期待されるJAの役割
この制度の申請者は、生産・加工業者を構成員とする生産者団体である。
これまで、この制度に登録された産品の中には、JAを申請者とするものが多い。「夕張メロン」のJA夕張市(北海道)、「江戸崎かぼちゃ」のJA稲敷(茨城県)、「くまもと県産い草」及び「くまもと県産い草畳表」のJAやつしろ、JA熊本うき、JAくま(熊本県)、そして「鳥取砂丘らっきょう/ふくべ砂丘らっきょう」のJA鳥取いなば(鳥取県)である。
(写真)農林水産省食料産業局知的財産課 杉中淳課長
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(117) -改正食料・農業・農村基本法(3)-2024年11月9日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践 (34) 【防除学習帖】第273回2024年11月9日
-
農薬の正しい使い方(7)【今さら聞けない営農情報】第273回2024年11月9日
-
【注意報】野菜類・花き類にオオタバコガ 県南部で多発のおそれ 兵庫県2024年11月8日
-
香川県で国内6例目 鳥インフルエンザ2024年11月8日
-
鳥インフル 過去最多発生年ペースに匹敵 防疫対策再徹底を 農水省2024年11月8日
-
高い米価続くか 「下がる」判断やや減少2024年11月8日
-
国内初 牛のランピースキン病 福岡県で発生2024年11月8日
-
(409)穀物サイロ・20周年・リース作り【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年11月8日
-
高温対策技術研修会を開く JA鶴岡2024年11月8日
-
「農業を成長産業に」 これからのJA運動めぐり議論 新世紀JA研究会2024年11月8日
-
事業利益 前年同期比4.9億円増 JA全国共済会上期決算2024年11月8日
-
「天穂のサクナヒメ」コラボ「バケツ稲づくりセット」先行申込キャンペーン開始 JAグループ2024年11月8日
-
みどりの協同活動(仮称)の推進 新世紀JA研究会・福間莞爾常任理事2024年11月8日
-
廃棄ビニールハウスから生まれた土産袋で「おみやさい」PRイベント実施 千葉県柏市2024年11月8日
-
食料安全保障・フードテックの専門家が分析「飼料ビジネストレンド」ウェビナー開催2024年11月8日
-
旬のイチゴを「食べ比べ」12種&5種 予約受付開始 南国フルーツ2024年11月8日
-
JAアクセラレーター第6期 採択企業9社が6か月間の成果を発表 あぐラボ2024年11月8日
-
"2035年の農業"見据え ヤンマーがコンセプト農機を初公開2024年11月8日
-
カボチャ試交No. 「AJ-139」を品種名「マロンスター139」として新発売 朝日アグリア2024年11月8日