【韓国・与党惨敗】FTAに「ノー」 経済政策の転換必至2016年4月25日
寄稿:丸山茂樹氏(参加型システム研究所客員研究員)
韓国の総選挙は与党セヌリ党の大敗北に終わった。これが今後の韓国の経済・社会にどのような影響をもたらすのか。特に韓・米FTAで大きな犠牲を強いられている農業・農村への影響はどうか。韓国の事情に詳しい丸山茂樹氏に分析してもらった。
◆若い世代が批判票
さる4月13日に行われた韓国の総選挙は、ほとんどの新聞社・放送局・世論調査機関の予想を覆して、朴槿恵大統領の与党セヌリ党が惨敗するという結果であった。予想では与党が総議席300の過半数を上回り、160を超えるだろうと報じられていた。
だが、セヌリ党は122議席にとどまり、野党の「共に民主党」に第1党の座を譲る結果になった。(しかし、党の公認を得られず無所属で立候補して当選した7人は与党へ復党すると伝えられているので129議席になると模様だ)。
セヌリ党は軍事政権の流れをくむ保守政党。「共に民主党」は金大中・盧武鉉大統領の流れをくむ民主化運動をすすめた党派である。「国民の党」は今年2月に「共に民主党」から脱党して結成した安哲秀氏(元ソウル大学院長)らによる党派で中道派と云われている。正義党は民主労総など進歩派の流れをくむ左翼政党である。
朴槿恵大統領の任期は2018年2月まで、あと約2年。来年の12月には大統領選挙が行われる。今や韓国の政治は大統領選挙に向かっており、与野党ともに大統領候補者選び、メイン政策の策定、そのための政治党派やグループの合従連衡が進む模様だ。
その間、政権は野党への妥協なしには法律も予算案も、何ひとつ国会を通すことができない。だから否応なしに政治手法や政策修正がおこなわれるのが必至の情勢である。
選挙結果が予想がはずれた理由はいろいろ語られているが、若い世代の投票率が跳ね上がり、多くは与党批判票であったこと、激戦を伝えられたソウル首都圏で野党第1党の「共に民主党」が、また伝統的に野党勢力が強い南西部の全羅道で野党第2党の「国民の党」が勝利を収めたこと、比例票で「国民の党」が「共に民主党」を上回ったことも大統領選絡みの注目点とみられる。
◆経済格差が広がる
この間、李明博・朴槿恵政権が進めてきた過去8年間の保守党政権の基本政策は、とにもかくにも経済成長を達成することであった。そのために農業と地域を犠牲にしても韓・米FTAなど輸出拡大に取り組んできた。
顧みると2004年にチリとのFTAに始まり、アメリカ、EU、中国、ベトナムなど自由貿易協定は合計54か国にも及ぶ。しかもそのほとんどが韓国への農林畜産物の輸出国であり、かつ工業製品の輸入国である。その結果、韓国の農林畜水産物の輸入総額は2010年の2万5787百万米ドルから2014年の3万6139百万米ドルに跳ね上がった。
その結果、富み栄えたのはごく一部の財閥系の輸出大企業だけであった。(韓国政府『2015年農林畜産主要統計』から)。今回の選挙結果は、このような従来の政策に対して転換を求めて「ノー!」を突きつけたのである。
◆農業政策が争点に
自由貿易政策、極端にマネーゲーム化した金融政策がもたらした現実を直視すると、国民の大多数を占める中小企業や農林畜水産業の重視への転換が求められている。韓国農漁村社会研究所の權寧勤博士(副理事長)は米、麦、畜産など品目別の農業だけに目を奪われることなく、地域としての農村社会、暮らしのあり方としての農民生活により注意深く目を向けることが重要であると指摘している。(權寧勤『韓米FTA発効以後の韓国の"農"の変化』)
都市にあふれる職のない若者、激増する生活困窮の老人世帯が希望をもって生きることのできる道はどこにあるのか。それは「都市」か、それとも再生された農林水畜産業と農村社会ではないだろうか。"農"の再構築が脚光をあびる可能性があるのが今の韓国である。
与・野党の政策協議、農業農民団体の政策要求をめぐる協議、農村をはじめとする地方自治体の政策要求がどんな内容で進められてゆくか、注目されるところである。
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