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【アメリカ大統領選2016】国民の結束か 既成政治打破か(下)2016年8月8日

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国民の判断世界が注目
萩原伸次郎横浜国立大学名誉教授

◆民主党 予備選不正疑い

萩原 伸次郎  横浜国立大学名誉教授 一方で民主党はどうなのだろう。共和党が、アウトサイダーの「はぐれもの」のドナルド・トランプを指名したのに対して、民主党の「はぐれもの」バーニー・サンダースは、ヒラリー・クリントンに敗れ、大統領候補として指名されることはなかった。
 しかし、この選出過程が民主的でなかった、という疑問が持ち上がっている。共和党の候補者選びと違って、民主党には、特別代議員という制度がある。この代議員は、全米各地で行われる予備選や党員集会に拘束されることなく、7月の全国大会で自由に投票できるのだ。その資格は、連邦議会議員や州知事、党幹部などに振り分けられているのだが、7月の党大会を待たず、6月6日に、大手メディアが、特別代議員約720人のうち572人がクリントン支持を表明していることを根拠に、早々とヒラリー・クリントンの指名確実を報道した。サンダースを支持する元労働長官ロバート・ライッシュは、「6月7日の予備選を前に、クリントンの指名確実という報道は有権者を落胆させただけでなく、有権者に既存政治勢力への不信を高め、党内結束にも悪い影響が出るだろう」と憂慮を隠せない。
 さらに、公平でなければならない民主党の運営を仕切るシュルツ委員長が、クリントンに肩入れした事実をウィクリークスが暴露。シュルツは、混乱を避けるために7月の大会前に、委員長を辞任した。
 ヒラリー・クリントンには、運もついているようだが、逆にそれが、人気を落とす要因となっていることも事実だろう。
 その一つがメール問題だ。FBIのコミー長官が、クリントンが提出した約3万通のメールのうち110通が送受信時に機密を含み、その中には「最高機密」の情報もあり「取り扱いが不注意だった」と指摘。しかし、訴追には当たらないと判断、リンチ司法長官もそれを受け入れ、この事件は一件落着となった。けれども、多くのアメリカ人は、この決定には満足していないようだ。


◆穏健な共和党の選挙公約

 こうしたヒラリー・クリントンの既存政治家としての弱点を突き、大衆をひきつける作戦に出ているのが、ドナルド・トランプだ。
 彼は、共和党大統領候補指名受諾演説で、「米国第一」を訴える。そして、オバマとその跡を継ごうとしているヒラリー・クリントンが、既存政治路線で米国をダメにした張本人だとこき下ろし、排外的、差別的発言を繰り返し、「米国を再び強く誇れる安全で偉大な国にする」と息巻いている。「不法移民を止めるためにメキシコ国境に素晴らしい壁を築く」と発言し、「イスラム教徒が多く住む国からの米入国を直ちに一時停止する」といい、「製造業を破壊し、米国労働者を傷つけるTPP協定には署名しない」ともいう。
 しかし、彼の指名した副大統領候補インディアナ州知事マイク・ペンスは、従来型の共和党員だ。TPP協定推進派だし、イスラム教徒の入国禁止措置には「侮辱的で違憲だ」とする立場だ。
 また、共和党の選挙綱領を見ても、TPPからの撤退とは一言も言ってはおらず、米国の利益を優先する貿易協定を追求するという表現に留めている。税制に関しても、従来の富裕層優遇の減税政策を主張し、さらに、オバマ政権下で成立したウォールストリートを規制し、消費者保護を追求する、金融規制法は廃止するとしている。
 ドナルド・トランプの主張する、メキシコ国境沿いの壁については、選挙綱領に入れているから、彼が大統領になれば、排外主義的に壁が築かれ、移民いじめが追求されそうだが、その他の点では、かつての共和党と変わることはなさそうだ。


◆民主党は革新的公約

 それに対し、民主党の選挙綱領は、バーニー・サンダースの影響でかつてなく、革新的な内容となった。連邦最低賃金時給15ドルが選挙綱領に記載されたし、オバマ政権期の金融規制法をさらに厳しくし、金融取引税などを導入し、ウォールストリートの強欲と無謀さと闘うと明記。税制に関しては、富裕者増税、庶民減税の累進課税制度を掲げた。ただしTPPに関しては、バーニー・サンダースの撤退路線はとらず、米国の雇用を支援。賃上げ、安全保障の改善にならない貿易合意には反対するとしている。TPP再交渉のクリントン路線が採用されたということだろう。
 だから、バーニー・サンダースは、様々な政策面で問題を感じながらも、ヒラリー・クリントン大統領の実現のために何でもすると本気で言っている。残念ながら、ヒラリーが副大統領候補に選んだバージニア州選出のティム・ケーン上院議員は、従来型の民主党員であり、TPP推進派だ。リーマンショック後、制定された金融危機防止のための金融規制に関しても、一部緩和の立場を表明している。
 バーニー・サンダース支持の労働組合や環境保護団体からは失望の声が聞かれるし、全国大会では、政策綱領採択時において「TPPノー」のプラカードを掲げ、代議員たちが抗議する一幕もあった。


◆予断許さない米国情勢

 共和党が、ブッシュやロムニーなど、かつての大統領、大統領候補が大会をボイコットし、分裂気味の様相なのに対して、民主党はバーニー・サンダースも含め、党内の結束は固まっているように見えるのだが、それが本選挙で功を奏するかどうかはわからない。
 ドナルド・トランプにすれば、ヒラリーを批判し、既成政治からの脱却を選挙民に訴えているから、共和党の「はぐれもの」であるほうが彼にとっては好都合かもしれないのだ。

【アメリカ大統領選2016】国民の結束か 既成政治打破か (上) (下)

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