脱原発と「TPP」が快勝要因-新潟県知事選を振り返る(下) 伊藤亮司・新潟大学農学部助教2016年10月29日
◆市町村別選挙結果の概要とその特徴
8区に分かれた新潟市および他市町村の合計37地区における得票結果を見ると、勝利した米山氏は、そのうち23地区において森氏を上回る得票数を獲得。逆に森氏は14地区で米山氏を上回った。
森氏が上回ったのは、長岡市・柏崎市・村上市・糸魚川市・妙高市・佐渡市・胎内市・聖篭町・阿賀町・出雲崎町・津南町・刈羽村・関川村・粟島浦村。長岡市は森氏の出身地であり、柏崎市・刈羽村はいわずと知れた原発立地市町村である。それ以外には、島しょ部や県境地帯などいわゆる僻地が多くを占める。
その逆が、米山氏が上回った地域であり、県中央部の比較的人口の多い地域のうち原発立地や長岡市を除くエリアが該当する。そこからは米山氏陣営の「即席」体制により周辺部への浸透が遅れたことが想像される。実際、限られた時間のなかで大票田の新潟市8地区や上越市など都市部での運動が優先されたようで、その意味では都市部の有権者の意向が強く出た選挙結果といえる。
村上市や糸魚川市など県境地帯は同時に、原発からの遠隔地でもあり、原発問題への相対的関心の薄さ、逆に県中央部における原発への抵抗感が根強く存在したことも想像に難くない。ただし新潟市8地区や上越市にしたところで、市内における市街地はごく一部に過ぎず、周辺部の広大な農村地帯を含み、それ以外の市町村は基本的に農業地帯である。投票率が違うため単純比較はできないが、参院選における野党共闘候補(森ゆう子)の得票率と比較しても28/37地区において米山氏の得票率が高くなっており、支持の拡がりは農村部を含む全県的なものである。
その意味では、単なる都市住民だけではない幅広い県民が原発問題を中心に、政権与党の進める方向に待ったをかけたともいえよう。
TPPについては「TPPから新潟の農業・コメを守る」とした米山氏に対し、森氏はTPPには直接触れず「安定した農業経営ができる条件を整備し「強い農業」を取り戻す」としていた。県の農協農政連は森氏の支援に回ったが、前回参院選に続く2連敗、さらには、単協レベルで支援したのは実質約半分といわれ、単協段階における「自主投票」が広がったのも特徴である。「組織票」が森氏に流れなかったという点では、米山氏の当選にボディーブローのような効果を与えたのではないか。
いずれにせよ、良くも悪くも「上意下達」式の農民票を与党に丸投げして存在感を出すことで政策的優遇を引き出すという戦術はもはや成立しないことが明白となった。利益誘導と組織票に頼るのではなく、農家ひとりひとりの心情に寄り添う正面からの政治運動の必要性と可能性を感じた選挙結果だった。
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