【インタビュー・石破茂・前地方創生担当相(元農相)に聴く】農協は地域を担う 役割もっと発揮を(下)2016年12月19日
農協にのぞむこと
国民の食を守る改革へ
◆所得向上と自給力
――そのためには協同組合として組み立てている事業とはいったい何かということについて、組合員も一緒になって考えていく必要があると思います。だから、協同組合運動にとって教育が非常に大事だといわれてきましたが、今回の農協法改正でまったくなくしてしまいました。
なぜあれをなくしたのか、私も不思議に思っていたことです。協同組織から商社へ、あるいは銀行への移行という方向性をめざしたということでしょうか。
それでいいのかという問題もありますが、ただ、耕作放棄地は増え高齢化は進むということに対して、それぞれがもう一回、何がいけなかったかを反省することは必要だと思います。
たとえば、韓国の農民が手にする農業機械や肥料にくらべて日本の農民が手にする機械や肥料はやはり高いです。それはやはり下げていかないと、本当に農業者の所得は安定的に維持されていくのかという疑問を検証していかなければならないと思っています。
シンガポールへ行くと、輸入されているイチゴの5割はアメリカ、3割が韓国で日本のイチゴは1%しか出回っていない。私は全農ももっと外国に売ってほしい。世界で最高品質で世界でいちばん安全といわれる農産品をJAグループとしてももっと世界に売ってほしいという思いがあります。
日本の人口は2100年なると5200万人と半分以下になる。少子高齢化は止まりません。そうなれば食べ物の需要は減りますが、そのなかでどうやって農地を守り、どうやって農業者を守るかということを考えたときに、世界に売る以外に何の手があるのか、です。
――しかし、同時に人口が減っていながら自給率は下がっています。やはり基礎的な食料の自給率は高めていくという農政がなかったことが非常に問題ではないかと思います。自給率引き上げはもう自民党の政策からなくなっているのですか。
私は目標でなくてもいいのではないかと思っています。自給「率」は結果だと思っているからです。
――結果だということは分かります。しかし、目標としてどの作物をどのようにがんばってつくるのか、その結果として50%をめざすということは本来あるべきではないでしょうか。
私は自給「率」ではなく自給「力」だと言ってきました。つまり、農地をどれだけ守るか、農業者をどれだけの数、そしてどういう年齢構成で持続可能にしていくか、さらに農業インフラをどう健全に維持をするか、さらに生産性向上に向けた農業技術など、必ずきちんとした数字で目標を立てるべきだということです。その結果が自給率だと思っています。
だから、自給率は結果として高まることはある、あるいは高めねばならない、しかし、それにこだわるあまり農地がどんどん減り、農業者がどんどん高齢化し、農業インフラが毀損していくことが見落とされてしまってはならないということです。
◆農業を守り国を守る
――ところが、今「白書」で示すようになった自給力は、現実にない条件をあるものとして計算しています。端的な例は労働力。必要な労働力はいくらでも集まるという前提で自給力を試算している。それは意味が全然違います。
そこはもう一回突き詰めて考えてみたいと思います。
同時にかつてスイスの女性農業大臣と話したことを思い起こします。スイスの卵はフランスの卵よりはるかに高い。フランスから買ったほうがよほどいい。しかし、スイス人はスイスの卵は食べるけれども、フランスの卵は食べないという。辺境の地で農業をやっている人たちを守ることがスイスという国家を守ることになる。多少高くても国を守るために国内で作ったものを食べるのは当たり前じゃないかという。
――日本の場合はそこが弱いですね。
簡単に教育というつもりはありませんが、それぞれができることで農家を守り、国を守るとはこういうことなんだということを教えてもらいたいと思います。
教育もそうですし、自給力とは何か、今回の農協改革はいったい何をめざしているのかの検証も必要です。とにかくいかにして農業者を守り、国民の食を守るかということに私たちはもう一度謙虚に向き合わなければなりません。過去、農政に携わってきた人間として深い反省のもとに申し上げているものです。
――政策の基本に戻って考え直さなくてはいけないと思います。ありがとうございました。
◆インタビューを終えて
"このままでいけば日本から農業をする人がいなくなってしまう。これは誰の責任か......やはり一に責任は自民党が負うべきであり、二に農林水産省、そして三に農協だと私は思っております。""いかにして国を守り、国民の食を守るかということに私たちはもう一度謙虚に向き合わなければなりません。"
石破氏の発言は重い。こういう人にこそ政治の中枢、就中、農政の中核にいてもらいたい、と思うのは私ばかりではないだろう。(梶井)
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