韓国で新自由主義に反旗 大統領退陣へ大規模デモ2016年12月21日
韓国では毎週週末に、大規模ロウソクデモが行われている。農民や市民の1500団体で作る「朴槿惠政権を退陣させる非常国民行動」(以下、行動本部)の呼びかけで、時には200万人を超える規模で世界の注目を集めている。その現場を追った。
◆延べ800万人参加
「朴槿惠よ、即刻に退陣しろ」「朴槿惠を拘束しろ」。12月17日にも赤いブラカードを手にソウルや地方各地域で80万人規模のデモが行われた。朴大統領側が前日、「(国会の)弾劾理由を一切認めない」との答弁書を憲法裁判所に提出し、改めて民衆の怒りを買ったからだ。朴大統領が企業家の崔順実さん(チェ・シュンシル)に機密情報を流出したと報じた10月24日を契機に、行動本部は10月29日、朴政権の退陣を求める大規模ロウソクデモを行った。以来、毎週土曜日に行われ、12月3日には230万人と過去最大規模となった。行動本部によると、8回のデモに延べ820万人以上が参加したという。
先頭を切っているのは約300万人の農民でつくる全国農民会総連盟(全農)だ。米韓FTA(自由貿易協定)などの新自由主義が蔓延(はびこ)り、都市と農村の格差が拡大し、米価も暴落する被害を肌で感じるからだ。
韓国統計庁の1世帯の平均所得をみると2015年、農家が3722万ウォン(1ウォン0.1円)、サラリーマン世帯が5780万ウォンだ。農家所得は、サラリーマンの64%と、10年前の06年に比べ14ポイント下がった。90年代前半までは、農家とサラリーマン世帯の所得が肩を並べたが、93年のウルグアイラウンドの農業開放を皮切りに、農家経営がますます難しく、都市と農村の格差は広がるばかりだ。
そして、米価の暴落だ。統計庁は13年7月から精米の産地出荷価格を公表したが、米価は下がる一方で12月5日現在、80kg当たり12万8328ウォンと前年同期に比べ1割安く、公表開始以来の最低価格となった。現地では、1995年10月25日の11万5875ウォン以来の最低価格と報じた。全羅北道全州市からソウルのデモに参加した米農家・徐秉化さん(ソ・ビョンファ、53歳)は、「これだけ米価が安いのは初めて。今年は豊作だがまったく喜べない」と肩を落とす。特に、朴大統領が12年、大統領選挙の時に80kg17万ウォン台だった米価を21万ウォンに引き上げると公約したことに対し「憤りを抑えきれない」と怒る。
農民はトラクターで
◆農民から死亡者も
現状を踏まえ全農は15年11月14日、ソウルで農民総決起集会を開いた。悲劇は、さらにそこで起きた。全羅南道宝城郡の米農家の白南基さん(ベク・ナムキ、69歳)に警察の水砲が命中し、意識不明となった。ソウル病院に運ばれたがそれきりで、今年9月25日に他界した。全農は、断続的に集会を開き、政府の謝罪などを求めた。しかし、政府からは何の補償も説明もなかった。農民の怒りは頂点に達した。金榮鎬(キム・ヨンホ)議長は「このままの破片的な戦いでは、農民の声が抹殺してしまう。労働者、農民、貧民が共闘しなければいけない」と主張し、市民団体などとの連携を呼びかけた。
市民も不満が溜まっていた。都市民の中でも貧富格差が拡大し、社会不安がくすぶっていた。例えば、所得に支出をひいた残額。所得層を10等分にした場合、所得が最も高い10分位の15年の残額は年間、3922万ウォンと03年に比べ8割増えた。半面、所得が最も低い1分位は、161万ウォンの赤字を掲げ、03年に比べ半減したものの、赤字から抜けることなく、10分位との格差も拡大し続けている。政府が90年代、企業が自由に雇用者を解雇できるよう規制を緩和し、非正規雇用者が増えたことが一因だ。
全農は、国民の理解を深めるため、新たな戦略を打ち出した。トラクターデモ隊を結成し、全国各地を回りながらセミナーやロウソクデモを開いた。トラクターデモ隊の正式名称は、中央や地方の権力者の腐敗を是正するために1894年に蜂起した農民運動家の名前を借り、ゾン・ボンジュン闘争団とした。金議長はトラクターデモの狙いについて「腐敗した青瓦台の畑を耕し、新たな種を撒くため」と意気込む。
闘争団は、第1弾のデモ行進として26日ソウルで行う大規模デモに合わせ、全羅南道から11月15日に出発した西軍と、慶尚南道から11月16日に出発した東軍の2軍に分け、金議長が司令官を務めた。西軍は、全羅南道から忠清南道、京畿道経由でソウルに、東軍は、慶尚南道から江原道経由でソウルに向かった。
しかし、順調だったデモ行進は25日、急変する。ソウルから南に1時間程度の京畿道安城市でトラクターをトラックに積み替え、ソウル向けに再出発を図ったところ、警察が高速入り口を封鎖した。12時半から、警察と強くぶつかりあい10時間ほど突破を図ったがわずか1割しかソウルに到着することができなかった。それも、ソウル近辺の高速出口で再度、警察によって遮られた。警察とのもみあいは一層激化し、36人の農民が拘束され、金議長ら3人も怪我を負い救急車で病院に運ばれた。26日のデモには、トラクターが出場することができなかった。全農の趙炳玉(ジョ・ビョンオク)事務総長は同日「闘争団は再度トラクターデモを行う」と宣言した。
そして、12月8日、闘争団は第2弾のトラクターデモを敢行した。トラクター27台を動員し、9日のソウルデモに参加する計画だった。しかし再度、警察によって遮られ、大規模デモ会場に辿りついたのは1台だけ。ちょうどその頃、国会で朴槿惠大統領の弾劾の投票を行い、在籍300人の国会議員の中で299人が出席し、賛成234人、反対56人、2人棄権、7人無効の無記名投票で、朴槿惠大統領の弾劾が決まった。
行動本部の政策企画部の朱帝俊(ジュ・ゼジュン)部長は「民衆が求めるのは弾劾ではない。即刻の退陣だ」とデモの継続を示唆する。(フリーライター・森泉)
(写真・上)11月12日、ソウルで朴大統領の退陣を求める農民デモ。横断幕には「白南基農民の暴力殺人、朴槿惠は退陣しろ」、手には「朴槿惠退陣」のブラカード。(全国農民会総連盟提供)
(写真・下)11月25日、ソウルに向かうトラクターデモ隊。トラクターには「朴槿惠退陣」の看板を掲げている(全国農民会総連盟提供)
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