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【トランプ大統領と日本】権威主義めざし民主主義にも挑戦2017年2月7日

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問われる日本の国家理念
インタビュー:中岡望東洋英和女学院大学客員教授

 トランプ新大統領が就任した。TPP離脱、NAFTA再交渉、特定の国からの入国禁止など次々と大統領権限を行使している。トランプ大統領とその政権をどうみるのか。日本はどう対応すべきか。中岡望・東洋英和女学院大学客員教授に聞いた。

◆戦後体制への挑戦

中岡望東洋英和女学院大学客員教授 就任演説は、評価は別にしてメッセージは非常に明確でした。彼は今回の権力の移行は、一つの政府から次の政府に移行するのではなく、ワシントンから人々に権力が移行することなのだと言いました。ポピュリズムの最大の特徴であるエスタブリッシュメント対反エスタブリッシュメントという図式を打ち出したわけです。
 もともとアメリカには反エリート主義の考え方があり、それをうまく踏襲した。厳しい経済状態にある白人労働者の保守層に対して、その原因は新自由主義政策なのに、不法移民だなど分かりやすく扇動的な選挙で支持を得た。その人々をワシントンから忘れられた人だとして、就任演説では「私は皆さんのメッセンジャー、もう皆さんは忘れられることはない」と言っています。
 就任後に次々に打ち出しているのは議会を通さずに発揮できる大統領権限です。大統領令、大統領覚書、大統領声明の3つです。日本でいえば通達にあたり各省庁に向けての指示です。TPPからの離脱を表明した大統領令は米通商代表部(USTR)代表に対して出されたもの。TPPからの離脱を関係国に通知しなさいとも書かれており、それをUSTRはすぐに実施しました。
 まさにこれはポピュリズム的な政治手法で、私は就任演説を「ポピュリスト革命宣言」だと名づけました。要するに権力をワシントンから奪い人々のもとに戻すということです。その意味は戦後70年間に作りあげてきた枠組みそのものに対する一つの挑戦だと思います。 戦後はアメリカを軸にした安全保障体制がずっと続いてきた。冷戦終了後に多少の変化はあったものの、基本的には自由貿易体制であり、それはガット(GATT)、IMF体制であり今はWTO体制のもと、それをベースに地域的な自由貿易協定を結ぶというものです。
 安全保障の面でもアメリカが枠組みを提供してきました。今は中国とロシアが対抗軸として出てきましたが、これに対してトランプは従来型の枠組みではだめだと言っています。安全保障は自分で考えるべき、経済においても個別、個別でそれぞれ自分の利益を最大限にするように交渉しようということです。大統領令のなかで貿易は二国間交渉で行うと指示もしています。

◆支持集める米国第一

 これらはいずれも選挙運動中に「アメリカ国民との契約」という公約で掲げていた最初の100日に実行する政策で、今のところそれをそのまま実行しています。大統領覚書では途上国などで活動するNPOに国の支援を中止することにも署名しています。途上国などで避妊や妊娠中絶を支援する非営利団体がありますが、支援中止の表明は保守的、宗教的な人々に対するアピールです。
 それからワシントンの肥大化を阻止するとして連邦公務員の採用凍結も大統領令で指示しました。
 これらは驚くような政策ですが、選挙期間中から主張してきたことですし、TPPからの離脱は民主党も賛成しています。一方、自由貿易を推進してきた共和党からは、たとえば重鎮のマケイン上院議員がこれは間違いだと批判しています。
 ですから、非常にエキセントリックな考え方かといえばそうでもありません。メキシコに壁を作ると主張していますが、実はブッシュ政権のときにすでにフェンスを作る法律は成立しています。ですからトランプの主張は一般的なアメリカ人の意識から大きく逸脱したものではありません。世論調査でも、40%以上の人が壁を作ることに賛成しています。NAFTAの再交渉も指示しましたが、国民のなかにこれを見直せという人は半分ほどいます。

◆権威主義国家へ

 しかし、やり方は問題です。彼のビジネス成功のプロセスを見ていると競争相手が出てくると、訴訟するなど徹底的に脅威を与えて攻撃する。大統領が特定の企業に対して制裁を加えることなど不可能ですが、お前が悪いと名指しする。
 就任からこれまでをみると独裁者的に大統領の権限を発揮しようとしており、はっきりしてきたのはトランプは「権威主義の国家」をつくろうとしていることです。かたちのうえではロシアと中国と似た国家です。要するに政府が命令してやらせる。民主主義といいながらも反発する人間は全部排除していく。話し合って妥協点を見つけてということはありません。政策の説明もしない。ツイッターで発信はするが、自分で説明し説得し了解を求めるというプロセスはとらない。
 したがって国際的な枠組みだけではなく、アメリカ政府のあり方も変わってくるかもしれません。公務員の削減だけでなく国会議員の多選禁止も主張していますから、アメリカ民主主義に対する挑戦もしてくるかもしれません。
 それに対して各国がどう対応するのか。国際的にこれでいいのかという声が出てこなければなりません。
 たとえば、TPPに関しても安倍首相は米国を説得すると言ってきましたが、既にアメリカはTPPからの離脱を各国に通知しました。これに対して豪州やNZからはアメリカ抜きでTPPを成立させようと言っています。ところが日本政府はアメリカ抜きでは意味がない、自由貿易の重要性を説得するといっていますが、現実を知らない発言で、笑止千万です。信頼関係を築くことが重要などというのは素人の議論です。
 大事なことは彼のビジネスのやり方をみれば分かるように屈してはだめだということです。日本は自由貿易が大事という基本的理念は変わらないのならアメリカ抜きで再構築する。中国、韓国も含めた自由貿易体制をつくる。われわれは二国間交渉には応じませんと強い態度をとらないといけない。ただ安部首相は二国間交渉に応じると発言しています。
 日本のなかにはトランプは80年代の日米関係を念頭に置いた間違った対日観を持っているとの批判がありますが、それはまったく違います。基地負担の問題でも、日本はすでにこれだけ負担していると主張したら、「そうかそれは知らなかった、それなら全部負担させろ」と言ったというエピソードがあります。自動車も80年代と違ってすでに5割は現地生産になっていると理解を求めても、それなら全部作れといい出しかねません。トランプは古い対日認識なのだ、説明すれば変わるなどという指摘はまったく頓珍漢な話です。
 要するに無知だから主張しているのではない。確かに最新の情報は持っていないかも知れませんが原則は持っているわけです。それがまさに「バイ・アメリカン、ハイヤー・アメリカン」(アメリカのものを買い、アメリカ人を雇う)です。

◆安全保障と切り離せ 
 
 日本も国家としての理念的な立場を明確にすることが迫られてくるのではないでしょうか。今までの自民党政権はアメリカとともに歩むということでした。安全保障のベースは日米安全保障条約だとの考えですから、アメリカとの関係を維持することがすべて。そのプロセスで貿易も日米交渉で妥協に妥協を重ねてきた。その背景には安全保障問題があります。
 しかし、トランプ大統領はどうなのか。各国とも自分の国は自分で安全保障を考えればいいのではないかと言っています。通商交渉ではバイ・アメリカンと主張していますから、日本に対してさまざまな市場開放要求が出てくることも考えられます。これに対して日本政府はどう対応するか、理論武装ができているのでしょうか。
 それは最終的に安全保障問題に帰結する。場合によってはある程度の期間は日米関係が緊張しても構わないというぐらいの問題として長期的に考えるのか、短期間の緊張も避けようと考えるのか。私はもうあまり安全保障問題を前面に出してはいけないと思います。現実問題として安全保障問題はフィクションであって、楽観的だと言われるかもしれませんが実際に戦争は起こらないと思います。国家を守らなければならないというが戦争は総破壊です。
 それを考えるとあまりにも安全保障のことを考えて貿易交渉で妥協をするというのは問題です。安全保障は安全保障問題として考え、通商政策は別に考えるという姿勢が今こそ求められると思います。

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