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【日米経済対話】トランプ政権 中枢で路線闘争2017年4月27日

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「米国ファースト」後退
やっぱり強欲資本主義
対日要求TPP以上

 日米関係をより強固にするとの目的で、4月18日に日米経済対話が東京で行われた。実質的な協議はなかったが、日本は麻生副総理がTPP協定(環太平洋連携協定)の発効をめざす姿勢を強調したのに対し、米国のペンス副大統領は「TPPは米国にとって過去のもの」と強調し将来的な日米FTA交渉の可能性も指摘した。今後の協議を注視する必要があるが、実は今回のペンス副大統領の発言の裏には経済・軍事路線をめぐる「ホワイトハウスの闘い」があるという。その動向次第では今後の協議も大きく変容する。孫崎享氏(元イラン大使)に聞いた。

4月7日にホワイトハウスが発表したシリア空爆の報告を受けるトランプ政権の会議。テーブル中央に陣取る(左から2人め)のが大統領上級顧問で娘婿のクシュナー氏。ドアの右側の椅子に座っているのがバノン首席戦略官。政権内の力関係を象徴する写真として注目された。 日米経済対話は大々的に取り上げられましたが、よく報道を見ると非常に興味深いことが分かります。それは今回の対話が「予定より約15分短い約1時間行われた」ということです。通訳が入っての会談が1時間ということは実質30分ということです。つまり、基本的には実質的な協議がなかったとみていいと思います。
 日本側の感想として米国側は必ずしも十分な準備をしてこなかったという報道もあったように、現在は日米の経済問題を協議できるような米国の体制ではない。実は米国では貿易政策をめぐってホワイトハウスなかで大変な闘争状態にあります。それを考えるには大統領選挙を振り返らなければなりません。

 ◆    ◆

右が日米経済対話のために来日したペンス副大統領。 これまでは技術革新や貿易の拡大で人々の生活はよくなると思っていたわけですが、現実をみると米国では1970年代、80年代よりも人々の生活は悪くなっていた。ところが米国全体の経済は上向いていて、それは大資本が暴利をむさぼり一部の人たちだけが儲けているからだという実感が広がってきたのが昨年の大統領選でした。
 そこで体制を変えなければならないという不満がトランプ大統領を誕生させ、貿易政策を見直しアメリカ・ファーストの経済政策を実施していく方針を打ち出しました。
 これを推進していたのがトランプ陣営の選挙戦略を担当したバノン首席戦略官兼上級顧問です。バノンがアメリカ・ファーストの象徴でした。
 しかし、ここに来て、とくに経済問題と中東政策をめぐってホワイトハウスのなかで大変な闘いが起こった。アメリカ・ファーストに対する、いわゆるグローバリストの巻き返しです。
 それは米中首脳会議を前にして起きました。
 たとえば、米国が外国から車を輸入しようとすると関税は2.5%ですが、一方、中国へ米国車を輸出しようとすると25%から30%の関税がかかる。そのため外国企業は自国で生産した車を輸出するのではなくて、中国国内に工場を進出させてそこで製造して販売するようになったわけですね。
 これにアメリカ・ファーストの人たちはこんな馬鹿なことはない、米国の雇用が奪われるではないか、外国からの輸入品には高関税をかけろ、などと主張してきたわけです。それで中国に対して激しい攻撃が行われるのではないかと想定されていました。
 ところが、米自動車大手のジェネラル・モーターズ(GM)をみると、昨年の自動車販売台数は米国国内が300万台、中国での販売が390万台でした。つまり、GMという企業自体、もう米国内で製造したものを中国に売るというインセンティブはなくなっているわけです。
 そこで、中国国内で製造したものが売れているのであればそれでいいではないか-、という考えが出てくる。これがグローバリストです。中国でうまく生産、販売して、その利益が米国本土に戻ってくるというシステムを作ればいい。何も米国本土で作らなくていいではないかという主張が大きくなってきたわけです。

 ◆    ◆

孫崎享氏 このホワイトハウスの闘いでいちばん影響力を持ったのは、トランプ大統領の娘のイバンカと娘婿のクシュナーです。とくにクシュナーという人物が非常に大きな役割を果たしています。
 彼は大統領上級顧問であるだけではなくて大変な富豪です。ニューヨークを本拠に数千億円単位の不動産売買をするような実業家であると同時に一時はメディアも買収したりしていました。
 一般的に言えることは米国の不動産業界で成功している経済人は基本的にウォール街の住人です。つまり、ウォール街代表として主張するクシュナーがバノンと対立しているというのがホワイトハウスの構図です。
 バノンと対立し何をやったかといえば中東への積極的な攻撃です。それはつまり、軍産複合体とグローバリストの利益追求路線が復活したということです。
 問題は最終決着がまだついていないということです。それはバノンは大統領選挙の功労者だからです。功労者だというのは、昨年の選挙戦で彼自身の発言でアメリカの不満層が大変なトランプ支持に回ったからです。だから、ここでバノンが政権から離脱するということになると、今度はトランプを支持した人たちから猛反発を受けるという危機を抱えることになります。現実にミシガン州でトランプ政権はわれわれを裏切ったというデモも起こってきています。
 実はペンス副大統領はこの闘いとは関係がなく政策決定にはほとんど影響力はありません。今回の日米経済対話でTPPは米国にとって過去のものだと発言しましたが、それはこの闘いの外にいるからです。トランプ大統領が就任していちばん最初にTPPから離脱することを表明しましたが、その体制から今は変わりつつあるということです。
 ですから、TPPは終わったという言い方をしていると、かなり危険なところがあって、名前はどうなるかはともかくとして、TPPの発想と同じものを実現しようとして貿易政策を打ち出してくる可能性がある。
 路線対立の決着はまだついていませんが、トランプ自身もアメリカ・ファーストの象徴だったバノンを切る動きも見せています。彼はある新聞のインタビューに答えて次のようなことを発言しています。
 バノンが自分の大統領選で戦略担当になったのは8月の後半だが、その前に自分は共和党の大統領候補者たちをみな破っていたのであって、しかもヒラリー・クリントンは初めから負ける候補だったのだ、と。バノンの功績はそんなにあるわけではない、ということを言っているわけです。ここまでバノン外し、そしてアメリカファーストを修正する流れになっている。
 そうなると今後、注視しなければならないのは米国は二国間交渉を要求してくるのでしょうが、それがどういう要求に基づくものになるのかということです。二国間でさまざまな分野の交渉をし、何を取った、何が取られたという協議で終わるだろうと思っているとそれは違うということもあり得ます。その様相はグローバリスト的な二国間協議になるのではないか。つまり、アメリカ・ファーストの立場でアメリカ本土で作ったものが日本でたくさん売れるようにするという交渉になると多くは思っていますが、狙いは米国企業の日本市場、社会への参入、これがより重視されるのではないかと思います。
 もちろん交渉のなかでは米国の農産物を日本にもっと売れという面も強調されると思いますが、それは貿易交渉を動かす主体的な力ではないということです。むしろ日本の市場に参入してアメリカ企業が日本社会に根づくための規制緩和などが大きな問題になるということです。その点ではTPPと同じ発想であることをしっかり考えなければなりません。
(写真上から)
4月7日にホワイトハウスが発表したシリア空爆の報告を受けるトランプ政権の会議。テーブル中央に陣取る(左から2人め)のが大統領上級顧問で娘婿のクシュナー氏。ドアの右側の椅子に座っているのがバノン首席戦略官。政権内の力関係を象徴する写真として注目された。
右が日米経済対話のために来日したペンス副大統領。
孫崎享氏

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