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【長屋 信博JF全漁連代表理事専務に聞く】漁業権管理は協同そのもの2017年6月21日

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「地域一体」が成長産業化の鍵

 規制改革推進会議は農業に続いて林業、そして漁業の改革を議論しようとしている。成長産業化が狙いだが、企業が参入できるような規制緩和が検討される可能性もあり、漁業では漁業権の見直しが再び議論される懸念もある。日本の沿岸漁業と漁業権、そして漁協の役割と最近の「浜プラン」の成果などについてJF全漁連の長屋信博代表理事専務に聞いた。

◆浜の生業営む権利

――これまでの漁業と水産業をめぐる議論についてどうお考えですか。

長屋  信博JF全漁連代表理事専務に聞く 漁業をめぐる議論には、漁業は衰退産業であるという決めつけがあると思います。たしかに漁獲量は世界トップだった昭和59年の1280万tから460万t程度まで半分以下に減少し、就業者もどんどん減って戦後の60万人から今やその3分の1以下になっています。
 しかし、漁獲量が減った理由のひとつはイワシの減少です。昭和50年代はイワシが450万t穫れましたから、今の全漁獲量とほぼ同じです。イワシやアジ、サバは何十年かの周期で増えたり減ったりしますから、それぞれの資源に特性があることを理解する必要があります。
 それから昭和50年代に200カイリ体制となって米国やロシアの海域では操業できず、それで350万tぐらい減りました。ほかに戦後の沿岸域の開発などの問題もあります。
 こうした要因にはまったく触れずに、漁獲量が半分以下になってしまった、だから漁業の改革が必要だという議論になっています。それに対してわれわれは正しい情報に基づいて議論をしなければならないと主張してきましたが、これまでに問題の多い意見が出されてきました。

――漁業権についての議論の問題点を改めてお願いします。

 最初は平成19年の日本経済調査会の水産業改革緊急提言です。
 そこで漁業権問題がとりあげられ、今の漁業者間の調整では水産業の発展は難しい、抜本的な法改正をしなければならないと提言しました。これを受けて当時の規制改革会議が沿岸漁業では漁業権によって意欲ある者の参入を妨げており、一定ルールの下で企業が対等に参入できる環境を早急に整備する必要があるという意見をまとめました。しかし、水産庁も反論しこれまで漁業権の見直しは行われていません。
 ただし、いちばん勘違いがあるのは、農地の問題と漁業権の問題を同一視して、漁業権があるために企業が参入できないのではないかという主張です。
 しかし、そこはまったく違い、一部上場企業の子会社が漁業権に基づく養殖や定置網漁業にすでに参入しています。最近のマグロの養殖では名だたる大手企業が子会社をつくって漁協の組合員になって参入しているという実態があります。
 それから漁協が漁業権という権利を与えられてそれにあぐらをかいてメシを食っているのではないかという言い方もありますが、それも間違っています。
 漁業権とは土地の権利と違い、ある漁業を優先的に行っていくための営業権のようなものです。権利といっても土地を所有しているというような権利ではありません。
 漁業権がなければどの漁業もできないというものではなく、漁業権に基づくのは沿岸域で行う養殖や採貝採藻などの漁業です。つまり、水産資源の保護、漁業者間の調整の必要がある漁業について、一定の期間、一定の水面において、排他的に特定の漁業を営む権利が漁業権です。「場」の権利ではなく「生業」として営む権利です。

◆漁協の調整 地域が発展

――これをなぜ漁協が免許を与えられて管理しているのでしょうか。

 実は明治時代、新政府は海面の国有化論を唱え、ここで営む漁業はすべて国の許可を受けなければならないとする方針を打ち出しました。しかし、その後、国は撤回したという歴史があります。
 というのも、大勢の漁師がそれぞれの浜でいろいろな漁業を営んでいるのは、話し合いで決めてきたからですが、それを国が全部管理し漁場を割り当てると宣言したものだから、大変な数の漁業者が手を上げ、結局、その希望を捌ききれずに暴動まで起きてしまったからです。戦後もGHQは最初、官が管理すべきだといいましたが、やはりそれはできないということから今の漁業法ができました。
 そこで定められた漁業権のなかでも、共同漁業権とはその浜で全員が採貝採藻する権利を持つというものです。そのうえで定置網を設置したいというのであれば、全員の了解を得る必要があります。浜のために、ここに定置網を入れてみんなで利益を上げようではないか、といった話し合いをして納得をして海面利用を決めていく。そこは農地と違って立体的に使っていく調整もしなければならないのです。
 こうした区画漁業権は5年ごとに更新しますから、その度に浜全体をどう使うかについて漁業者どうし話し合い、漁場計画をつくって県知事がそれを決定します。そしてその先は漁協に任されます。漁協は何をするかといえば、たとえばここで牡蠣の養殖はだれにやらせようか、ということをそれぞれ決めていくということです。あるいはノリ養殖では、だれもが栄養分の多い河口域を望みますが、それも話し合いをしてもらうなり、地域によっては抽選をしているところもあります。
 生活がかかった漁業者どうしの言い分を調整しながら何とか割り振っていくのが漁協の役割です。そうした漁業権の管理をするために漁協には職員が必要でその人件費を組合員みんなで負担しようということですが、多くはそれでは十分ではなく漁協として行っている経済事業の利益で補っているというのが実態です。こうした実態についての認識を欠いたまま、企業の参入を阻んでいるというような指摘は心外です。
 法制定から70年経って、何も手をつけていないのはおかしいではないか、というのが今回の議論の背景にあるようですが、漁業をしっかり理解してもらい、どのような管理のやり方が合理的なのか検討していただくことが重要だと思います。

――ただ、一部特区で例外が認められています。問題点はどこでしょうか。

 震災後に宮城県で企業の力がなければ復興はなかなか進まず、そのためには企業に漁業権を直接免許しなければいけないという、これもまた勘違いから知事が特区を設置しようとしました。
 そのときに指摘したのは、地元の漁業者と企業が一緒になって合同会社をつくって牡蠣の養殖を行うという構想に何も反対しているわけではない、ということでした。地元漁協も合同会社を組合員にしましたし、実際に養殖ができるよう行使規則というルールも作りました。ですから何も漁業権を直接に免許することなどしなくても、漁協の組合員として漁業に参入はできたわけです。
 しかし、結局は特区を設置し直接漁業権を免許しました。それまでは先ほどから強調しているように、全体を調整しながら、どこでだれがどんな漁業をするのかを決めてきたのに、その一部をまるで天領のように知事が直轄するというかたちにしてしまった。そうすると周りからは今まで話し合いで決めてきたのに、あの企業だけなぜそこで牡蠣の養殖をやれるのか、ということになり、実際に地元との軋轢を生んでいます。このような地元の漁業者を追い出し、強引に参入していくということが本当に地方創生になるのでしょうか。一方では、地元の漁協としっかりと話し合いをして調整して参入している事例はあるわけです。
 漁業にとっても企業の力を借りなければいけないのは大切なことで、しっかりと連携し販売、加工、そして生産面にも関わってもらうということは大切です。それを浜の漁業者たちと話し合いながら進めていこうということです。

◆7割の浜 所得向上

――「浜プラン」の位置づけと成果についてお聞かせください。

 大型の巻き網漁船や底曳き船などは規模拡大をして世界で競争していかなければなりません。そういう規模拡大をすべき漁業はありますが、沿岸漁業は違います。そこをしっかり仕分けして、それぞれの浜は獲れる魚も漁法も違うので、それぞれが生き残っていくために何をするかを自分たちで考えようと、市町村を巻き込んで取り組んだのが浜プランです。まさにどう地域を守っていくか、農業や林業と同じです。
 プランづくりから実践段階に入って2年経ちましたが、所得は7割の地域で向上したということです。評価されるのは、これまで漁業者は船に揚がった魚をそのまま市場に運んでいましたが、血抜きや神経締めをしたりなど、鮮度を保つため一手間、二手間をかけることによって所得が増えたということです。陸との一体感も実感できたので漁業者もさらに工夫をしようと議論をはじめています。浜プランは全国で639できています。
 取り組みのなかには、漁業者がばらばらに出荷していたのが自分たちで競り場をつくって取引を開始した大阪南部の岸和田地区の取り組みもあります。水揚げの集約化で魚価も向上し、互いの品質意識も高まってさらにいろんな工夫をすることで魚価がもっと上がったということです。
 ポイントは地域の漁業者の結集です。この浜プランの取り組みを県域等で支えていこうというのが広域浜プランで、現在118地区で作成されており、複数の漁協が連携して市場統合や中核的に担い手の育成などに取り組んでいます。
 地域全体で取り組んでいく。それが漁業の成長産業化を実現していくわれわれのやり方だと思っています。

(ながや・のぶひろ)昭和24年8月生まれ。53年3月北里大学大学院水産学研究科修士課程修了。同年4月全国漁業協同組合連合会入会、平成13年漁政部長、18年参事、20年常務理事、25年代表理事専務。

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