【農地バンク法改正】集落からプラン描き 次世代へ農地引継ぐ 農林水産省経営局・依田學経営政策課長に聞く2019年6月25日
今国会で施行から5年経った農地バンク法(農地中間管理事業の推進に関する法律)が改正された。見直しのポイントは地域の関係者が一体となった人・農地プランの実質化と実践、農地バンクの手続の簡素化、中山間地域での対応の強化などだ。見直しの内容と今後の対応方針、JAに期待される役割などを農水省の依田経営政策課長に聞いた。
◆スマート農業にも不可欠
--改めて農地バンク法改正が制定された背景とこれまでの農地の利用集積の実績についてお聞かせください。
農地の分散状態を解消し、担い手に農地の集積・集約化を進めるため、県段階に設置された農地中間管理機構が出し手から農地を借り受け、それを担い手に集約するために転貸する仕組みとして平成26年に創設されました。これによって平成26年度は担い手への農地集積率は50%を超え、平成30年度は3.1万ha増加し、農地利用集積率は56.2%となっています。機構の累積転貸面積は22.2万haとなっていますが、2023年に担い手の農地利用率8割という目標を達成するにはさらに集積・集約を加速させる必要があります。
農業の人手不足の状況をみると、基幹的農業従事者は平成元年の324万人が30年には145万人と半数以下になっており、しかも40代以下は15.2万人と約1割にとどまるという世代間のアンバランスな就業構造となっています。労働力不足は深刻で、農畜産業の有効求人倍率は養畜作業員で2.8、農耕作業員で1.71と全産業平均の1.54を上回っています。
こうした状況のなか、農業の未来を切り拓いていくためのポイントとして、少ない人数でも生産性の高い農業が実現できるよう、AIやロボットを活用したスマート農業をすみやかに実装していくことが必要ですが、技術革新の効果を発揮させるためには生産基盤の農地が単に集積されているだけでなく、集約化し、担い手がまとまった農地を利用できるようにすることが重要と考えています。
◆地域の「設計図」描く
--見直しのポイントとなる人・農地プラン実質化とは?
人・農地プランは、平成24年に開始され、機構法第26条に農地バンク事業の円滑な推進を図るための手段として位置付けられましたが、これまでの取組は、市町村、農業委員会、JA、土地改良区、農地バンクなどの連携は必ずしも十分とはいえない状況でした。
今後はこれら地域のコーディネーター役を担う関係機関・団体が一体となって地域の未来の設計図である「人・農地プラン」の策定に取り組む必要があると考えており、その取組を国としても支援していきたいと考えています。
市町村の区域よりも小さい旧市長町村の区域を想定していますが、集落単位で10年後、担い手が不足する中山間地域などは5年後に、地域の農地を誰に集約化させ、農業生産力を維持していくのか、その地域の設計図を話合いによって描いていくということです。
そのために地域内の農業者の年代分布状況や後継者の有無等をアンケートにより把握し、その結果を地図で示して話合いを進めていくことを想定しています。その際に、これまでのように出し手の個人名等の記載は求めないこととしたいと考えています。一筆ごとに地図化することが困難な場合は、ある区域の8割が何歳以上で後継者がいないという示し方でもいいのではないかと思います。
農地の利用状況等を地図化することで対象地区の共通課題が関係者に認識され、話合いが真剣なものになるのではないかと考えています。
その地図をもとに5年先、10年先に農地を誰に担ってもらうかについて話し合ってもらいます。その話し合いに農業委員や農地利用最適化推進委員、JA、土地改良区などがコーディネーター役となって積極的に参加していただきます。
コーディネーター役の職員が不足している場合はJAのOBもコーディネーター役として期待されますが、それだけでなく現役の営農指導員も協力してもらえるよう工夫できないか考えています。
農水省としてはこうしたアンケートや地図づくり、コーディネーターの活動などを予算を確保して支援していきます。
こうした話し合いの結果、人・農地プランとして担い手への農地の集積・集約化の方針を決めるとともに、集落内では引き受けられない農地があるという見通しも出てくると思います。そこも重要な問題で他の集落との連携など、広域的な営農のあり方を考えるきっかけになることもあると思います。
--新たな人・農地プランはいつから取り組む必要がありますか。
今後2年程度で全集落で実質化の取組を行っていただきたいと考えています。すでに近い将来の担い手と農地の出し手を策定しているプランがある地域は改めて策定する必要はありませんが、プランで決めたことが実行されているかは検証していただきたいと思います。
◆JAの調整機能も重要
--農地バンクの手続きの簡素化の内容と、これまでのJAの農地利用集積円滑化の取り組みとの一体化とは?
農地の借り入れと転貸には、これまで市町村の集積計画だけでなく農地バンクの配分計画が必要でしたが、市町村の集積計画だけで出し手から受け手に転貸できるようになります。それから受け手が農地バンクに対して行っていた農地利用状況報告も廃止し農業委員会の利用状況調査に一本化します。
また、人・農地プランを核として、これまでの業務委託に加え、ブロックローテーションなど特色のある取り組みで実績のあるJA等が配分計画の原案の作成ができることによって、農地バンクを主体的に活用できる体制とすることで農地の集積、集約化を一体的に推進していきます。
手続は農地バンク法に基づくものですが、活発に活動を行ってきたJAなどは引き続き農地利用調整を主体的に行うことができます。
--中山間地域での農地集積が課題です。
地域集積協力金について、農地バンクへの農地の貸付割合が最低2割とされていますが、中山間地域ではこれを平地の5分の1(4%)にします。また、畦畔の除去や暗渠排水などの簡易な基盤整備について、担い手への農地集約の程度に応じて農業者の負担が実質ゼロとなる協力金も新設します。
そのほか中山間地域について高収益作物への転換や棚田保全の強化などを支援する中山間地域ルネッサンス事業や、中山間地域直接支払いなど日本型直接支払制度による支援も重要になります。
◆危機意識の共有を
--今後の農地バンクの役割についてお聞かせください。
地域に人が減っていくなかで、次世代に農地資源を引き継いでいくためには、農地利用の中間管理機関として、農地バンクの役割は一層重要となり、その機能をいかんなく発揮していかなければならないと思います。
一方、今回の見直しでは地域の農家に寄り添いながら農地利用を考えていくJAなどの共益的な取り組みを前提に農地バンクを活用していくということだと思います。県段階の広域な視点による集約の対象となる担い手の選定の取り組みと、各地域における人・農地プランのように地域の話し合いに基づく農地利用調整の取組の両方が必要だと思います。
このように関係者が一体となって農地を次世代に引き継ぐ準備ができているのか、各地域で危機意識を共有しながら人・農地プランの実質化に取り組むことが求められていると思います。
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