地方創生の新たな方向を現場から提示 JCAがシンポ開催2019年8月28日
(一社)日本協同組合連携機構(JCA)は、8月27日の13時30分から17時に、東京大学本郷キャンパスの伊藤謝恩ホールで、「令和元年度 JCAシンポジウム 地方創生の新たな方向─農村の現場から─」を開催した。JA全中、(一社)家の光協会、(株)日本農業新聞、NPO法人ふるさと回帰支援センターが後援した。
シンポジウムで「総括報告」する小田切教授
同シンポジウムは、JCAの基礎研究部が、明治大学の小田切徳美教授を座長とする研究会を設置して取り組んできた「都市・農村共生社会創造に関する調査研究」の成果を発表する場でもある。
シンポジウムの参加者数は約180人で、自治体や内閣府などからの参加のほか、農協や生協の関係者、大学などの研究者やジャーナリストなどが参加した。「地方創生」という重要な課題への関心の高さがうかがえた。
シンポジウムは3部構成で進行。鳥取大学の筒井一伸教授の「シンポジウムの進め方」の説明に続き、第1部は「動き始めた新しい担い手~その実態と課題~」をテーマに、法政大学の図司直也教授が「就村からなりわい就農へ─田園回帰時代の新規就農アプローチ」と題し現場の就農の定着プロセスなどを紹介しながら報告。
ローカルジャーナリストの田中輝美氏は「進化する『関係人口』」と題して、移住者などばかりでなく、「関係人口」(地方部に関心を持って関与する都市部に住む人々)を生かした地域再生の大切さを語った。
日本農業新聞記者の尾原浩子氏は「多様な『しごと』づくり」で、小さな起業が増加していることを指摘。「仕事」とは違う、自分の得意を生かして月数万円ほどの小さく稼ぐ「しごと」という切り口で新しい動きを報告した。
第2部は「地方創生の新たな実践~新しい動きとそのプロセス~」をテーマに、現場の取り組みでのプロセスに焦点を当てた。弘前大学大学院の平井太郎准教授による「各報告の位置づけ」の紹介の後、2つの実践報告が行われた。
まず、大分大学の山浦陽一准教授が「RMO(※地域運営組織)の新しい展開─深見地区のその後─」という題で大分県宇佐市の深見地区の変化のプロセスから対応の方向性を探った。次にJAにいがた南蒲の広報戦略室の小師達也課長が「なんかん育ちの魅力で地域をゲンキに」と題して、広報戦略室の役割と若手職員が発信する"なんかん育ち"ブランドの展開プロセスと成果を報告した。
その後、弘前大学大学院の平井准教授と、神戸大学大学院の中塚雅也准教授が、研究者の視点で各報告のポイントを整理。それに基づいて実践報告者と研究者による「各報告の深掘り」を行った。JAにいがた南蒲の広報戦略室の須佐麻依子さんも加わり、2010年にJAが農産物のブランド化を目的として女性メンバーを中心に若手職員のプロジェクトを設置。そのメンバーとなった当時の率直な思いなどを含めてプロセスを検証した。
第3部の「総括セッション」では、明治大学の小田切徳美教授が「プロセス視点の地方創生」を報告。2020年度から始まる地方創生・第2期対策では、「人口目標」を「人材目標」にし、関係人口を重視すること、また、促迫(おいたて)手法ではなく、プロセス重視手法に代えるべきだと語った。「地方消滅論」によって、「人口減少で大変だ...」「時間がない...」とあおり・おいたてる「時間の暴力」といった手法では地方創生は実現しないという説明には強い説得力があった。
また、「人材」について、第1部の「担い手」をめぐる3つの報告の共通する特徴から、20世紀的価値観である「分ける・専門化・固定化」とは異なる「分かち合い・ごちゃまぜ・流動化」にも可能性を見出したと指摘。
また、第2部の「プロセス」について、地域づくりにおけるプロセス重視の意味を、現状を変えるためには「政策」のインパクトではなく、恒常的な関わりを必要とするプロセスが重要であることを示し、KPI(主要業績評価指標)重視による成果主義の弊害について、経営学ではすでに「プロセスデザイン論」が登場していること。さらに「時間はコストではなく投資」「課題解決より『主体形成』」「多様なプレイヤーの協働」が必要といったことを挙げた。
また、小田切教授は、これまでの地方創生では、「成長戦略(体が大きくなる)」を重視し、「促迫・政策インパクト重視・人口・専門性(分ける)」を追求していた。しかし、これからの新しい地方創生の姿では、「発展戦略(新しい力を身につける)」として「内発・プロセス重視・人材・関係性(分かち合う)」に切り替えることが重要。このシンポジウムで取り上げた「プロセス重視」はその一局面である。そしてこれを実現する持続的な地方創生が必要だと指摘し、シンポジウムを総括した。
なお、研究成果の詳細は、参加している研究者のテーマごとに『JCA研究ブックレット』(旧『JC総研ブックレット』)として、筑波書房から刊行されている。
(関連記事)
・地方創生の新たな方向をテーマにシンポ JCA(19.06.21)
重要な記事
最新の記事
-
【特殊報】ホウレンソウにクロテンコナカイガラムシ 県内で初めて確認 神奈川県2024年12月23日
-
【注意報】カンキツ類にミカンナガタマムシ 県内全域で多発 神奈川県2024年12月23日
-
24年産新米、手堅い売れ行き 中食・外食も好調 スーパーは売り場づくりに苦労も2024年12月23日
-
「両正条植え」、「アイガモロボ」 2024農業技術10大ニュース(トピック1~5) 農水省2024年12月23日
-
多収米でコメの安定生産・供給体制を 業務用米セミナー&交流会 農水省補助事業でグレイン・エス・ピー ①2024年12月23日
-
多収米でコメの安定生産・供給体制を 業務用米セミナー&交流会 農水省補助事業でグレイン・エス・ピー ②2024年12月23日
-
香港向け家きん由来製品 島根県、新潟県、香川県からの輸出再開 農水省2024年12月23日
-
農泊 食文化海外発信地域「SAVOR JAPAN」長野、山梨の2地域を認定 農水省2024年12月23日
-
鳥インフル 米アイダホ州、ネブラスカ州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年12月23日
-
農林中金 当座預金口座規定を改正2024年12月23日
-
農林中金 変動金利定期預金と譲渡性預金の取り扱い終了2024年12月23日
-
「JA全農チビリンピック2024」小学生カーリング日本一は「札幌CA」2024年12月23日
-
秋元真夏の「ゆるふわたいむ」栃木県で三ツ星いちご「スカイベリー」を収穫 JAタウン2024年12月23日
-
秋元真夏の「ゆるふわたいむ」大分県で「地獄めぐり」満喫 JAタウン2024年12月23日
-
「全農親子料理教室」横浜で開催 国産農畜産物で冬の料理作り JA全農2024年12月23日
-
「愛知のうずら」食べて応援「あいちゴコロ」で販売中 JAタウン2024年12月23日
-
Dow Jones Sustainability Asia Pacific Indexの構成銘柄7年連続で選定 日産化学2024年12月23日
-
「東北地域タマネギ栽培セミナー2025」1月に開催 農研機構2024年12月23日
-
NTTグループの開発した農業用国産ドローンの取り扱い開始 井関農機2024年12月23日
-
北海道立北の森づくり専門学院 令和7年度の生徒を募集2024年12月23日