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【クローズアップ・豚コレラ問題・2】豚コレラ抑え込めるか ベルト地帯の構築必要2019年10月28日

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新予防的ワクチン方式の課題
東京大学名誉教授谷口信和

 昨年9月に26年ぶりに発生が確認された豚コレラは野生イノシシの感染拡大がおもな原因となって発生区域が広まった。これに対して国は防疫指針を改定し、予防的ワクチンの接種が実施されはじめた。改定された防疫指針の問題点と豚コレラ封じ込めに向けた課題は何か。谷口信和東大名誉教授が提起する。

野生のイノシシ野生のイノシシ

◇始まったワクチン接種

 10月25日、今回の豚コレラ問題発生の起点となった岐阜県などの東海3県(愛知・三重)と北陸3県(福井・石川・富山)を第一陣として、対象地域の全ての飼養豚への予防的な豚コレラワクチンの接種が開始された。これに滋賀、長野、埼玉、群馬までの計10県が続き、10月18日に新たに野生イノシシの感染が確認された静岡県が加わることになる。遅きに失したとの批判はあるものの、現場はひとまずホッとしているのが実情だ。
 10県までのワクチン初回接種頭数は123.4万頭の見込みであり、本年2月1日現在の全国の総飼養頭数915.6万頭の13.5%に及ぶが、背後に792.2万頭もの膨大な非接種群が存在していることを看過してはならないだろう。

◇どこまで来たのか

 昨年9月9日から年末までは感染が岐阜県内に限定され、殺処分頭数も9.2千頭程度に止まっていた。しかし、本年2月に愛知県に拡散してから頭数の直線的かつ飛躍的な拡大が始まり、1年目までに7県、40事例(54農場)、殺処分頭数13.3万頭に達するに至った。
 しかし、問題は9月13日以降10月25日までに新たに関東地方の埼玉県の3事例が加わり、長野県では疫学関連農場ではなく畜産試験場と個別農場の独自の2事例で感染が確認されたほか、飼養頭数63万頭の群馬県や10万頭の静岡県など、既発生県に隣接する有数の畜産県への野生イノシシの感染拡大に歯止めがかからず、終息の気配が全くみえないことだろう。

◇新たな事態の危険性

 こうした中で、農水省は10月9日にそれまでの「豚コレラ防疫対策本部」を「豚コレラ・アフリカ豚コレラ防疫対策本部」に格上げするとともに、24日にはアフリカ豚コレラASF対策の本格的検討を始め、現行「家畜伝染病予防法」の改正を議論する検討会を立ち上げるに至った。
 実は韓国ではワクチンも治療法も存在していないASFが9月17日に飼養豚で初発生してから、10月9日には14例目が発生するなど、猛烈な勢いで拡散しているだけでなく、野生イノシシもまた10月3日の初感染確認から、10月24日の14例目の確認まで、猛スピードで感染拡大が進んでいる。
 その際、10月23日には中国人旅行客携帯畜産物からASFウイルスが確認されるなど、中国からのウイルス侵入を強く指摘するところにまできている点が注目される。なぜなら、日本もまた、そうした危険性と隣り合わせだということを改めて確認せざるをえないからである。換言すれば、開始された「予防的ワクチン対策」などがどこまで豚コレラ封じ込めに効果的なのかを吟味する必要性があることになる。

◇ワクチン 条件付き承認

 9月20日の江藤拓農水大臣の表明によって始まった「豚コレラに関する特定家畜伝染病防疫指針」の改正を通じた予防的ワクチン接種の解禁は「衛生部会」での答申(10月10日)を踏まえ、10月15日の官報での公示を経て実施段階に移された。
 改正指針は、(1)豚コレラの防疫措置は早期発見と患畜及び疑似患畜の迅速なと殺を原則とし、ワクチンの使用については慎重に判断する従来の方針を継承しつつも、(2)予防的なワクチンの接種は「行わない」とする従来の方針を修正して「原則行わない」に変更し、(3)野生イノシシにおける感染が継続的に確認され、衛生管理の徹底のみによっては感染防止が困難な場合に限定して、国ではなく都道府県知事の責任において予防的ワクチン接種を認めることにし、(4)野生イノシシの豚コレラ感染状況や農場周辺の環境要因(野生イノシシの生息状況、周辺農場数、豚の飼養密度、山河などの地理的条件)を考慮して農水省が「ワクチン接種推奨地域」に設定した都道府県はワクチン接種プログラム(全頭接種)を作成して農水省に承認を得ることにした。

◇どうなる家畜の移動制限

 生産者が最も関心をもっている接種農場の家畜のと畜場への出荷は原則として接種区域内のと畜場への移動に限定されるが、区域外でも出荷先のと畜場が立地する都道府県が交差汚染防止対策の実施を確認すれば可能とされる。逆に、と畜場は適切な交差汚染対策が講じられている接種農場の豚の搬入を拒否できないとされ、全体的に適切な交差汚染対策の実施を前提にして接種区域外への移動を認めようとする、当初予想されていたよりも弾力的な方針が採用されているといえる。

◇注目したい新判断

 しかし、これと並んで注目したいのは改正指針では「前文」が大幅に書き改められ、こうした方針転換の背景に豚コレラの感染ルートに関する判断に重要な変化がみられることである。
 つまり、今回の豚コレラにおいては、
 (1)中国またはその周辺諸国から侵入したウイルスが飼養豚(家畜)に先行して野生イノシシ(動物)で浸潤し、それが飼養豚に伝播したこと(2010年の宮崎の口蹄疫では飼養豚だけが感染し、ウイルスは野生イノシシなどには浸潤しなかったことが今回とは異なっている)、
 (2)したがって、飼養豚だけでなく野生イノシシにおける感染を封じ込めない限り、飼養豚への感染の不断の危険性を排除できないことが特徴であり、
 (3)ウイルスの侵入にあたっては通常の輸入貿易に対応した輸入検疫だけでなく、とくに発生国からの入国者・帰国者の靴底消毒、質問、携行品の検査・消毒の徹底が重視されるとともに、海外由来の食品残渣(豚肉や豚肉製品など)は適切な処分を実施すること、
 (4)食品残渣を介したウイルスの野生イノシシへの伝播を防止するため、不特定多数の人が出入りする公園、キャンプ場、観光施設などにおけるごみの放置禁止、ごみ置き場などにおける野生動物の接触防止などのごみ対策を徹底することが是非とも必要だと指摘されていることが重要であろう。

◇発生予防の基本

 したがって、発生予防にあたっては、
 (1)動物検疫などの水際対策を重視し、海外からの旅行者、外国人労働者、外国人技能実習生、留学生、獣医畜産系大学関係者、消費者などに最新の発生状況や必要な情報を周知すること(携行品を通じたウイルス持ち込みをシャットアウトすること)、
 (2)外国人労働者、外国人技能実習生、留学生を農場が受け入れる場合にはとくに「飼養衛生管理基準」の周知と遵守の徹底を図り、ウイルス侵入ルートの遮断を図ること、
 (3)野生イノシシの捕獲を強化するとともに、有効性評価に基づきながら野生イノシシに対する経口ワクチン散布の決定を国が行うことを重要事項として提起している。

◇ワクチンのセット対応

 ところで、岐阜・愛知県では3月から、他の感染野生イノシシ発生県(静岡県が加わる)などでは7月以降、野生イノシシに対する経口ワクチンの散布が行われている。したがって、豚コレラ発生件数が多く、いち早く経口ワクチン散布に取り組んでいる岐阜・愛知県の現在までの豚コレラ発生状況を検討することによって、予防ワクチン接種をめぐる課題を吟味してみたい。
 図1、図2によると、(1)愛知県では本年6月以降豚の殺処分頭数(累計)は停滞的となり、新たな感染の拡大が沈静化しつつあるようにもみえるが、野生イノシシ感染頭数は依然として増加局面にあるといわざるをえず、検査頭数に占める感染率は高くはないものの、捕獲数の増大にかかわらず低下していないことから、農場へのウイルス侵入防止に失敗すれば、いつでも飼養豚の感染が拡大する危険性を封じ込めているとはいえないだろう。
 (2)野生イノシシが多数生息する岐阜県の場合は野生感染イノシシ頭数と豚の殺処分頭数は相関をもちながら依然として増加局面にあるとみるべきであり、野生イノシシの感染率も40%超と高く、飼養豚の感染封じ込めには依然として遠い状況にある。

豚コレラ発生頭数

◇ワクチンの効能

 こうした状態のところに飼養豚への予防的な注射ワクチン接種が始まるわけである。豚に抗体が形成されれば、抗原をもつ感染野生イノシシを通じた豚の発症の可能性は低下することが期待される。ただし、その効果は野生イノシシの感染率と頭数の多さに比例する形でのウイルスの農場への侵入可能性によって減殺されることが予想されるだろう。
 つまり、予防的ワクチンによって畜舎内での豚同士の感染・発症は大幅に抑制されるが、感染野生イノシシからの感染可能性の低下は野生イノシシの感染率・感染頭数の低下に依存する側面を否定できないと思われる。つまり、野生イノシシの感染封じ込めに成功しない限り、飼養豚の感染可能性を抑え込むことは難しいといえるのではないか。この点では岐阜県の方により大きな困難があるといわざるをえないだろう。

◇イノシシが先か 飼養豚が先か?

 予防的ワクチンは豚コレラの既発生県への効果だけでなく、それらの隣接県への影響も合わせて考えるべきであろう。この点で大きな疑問が存在している。それは予防的ワクチンの接種推奨地域がもっぱら野生イノシシの感染発生地域を前提にして制度設計されていることである。つまり、野生イノシシの感染が確認できた地域に対してのみ、飼養豚へのワクチン接種が認められることになっているからである。
 しかし、今回の豚コレラの発生の第1号となった岐阜県でも、飼養豚での感染が確認されたのが昨年9月9日であったのに対して、野生イノシシに感染が確認されたのは9月13日である。また、最近時に飼養豚の感染が確認された埼玉県の場合でも、豚の感染確認は本年9月17日だったが、野生イノシシの感染確認は9月20日であって、飼養豚の感染を防ごうとするならば、野生イノシシの感染確認に先立って、野生イノシシの感染可能性が予測できる時点で飼養豚への予防的ワクチンの接種が必要だということである。

◇ワクチンベルト構築へ

 こうした視点からすれば、野生イノシシ・飼養豚に関わりなく感染が確認された地域の隣接地域には予防的ワクチンの接種ベルトを構築し、それを超えた地域への拡散を防止することが不可欠の政策的対応となるのではないか。群馬県にまで野生イノシシの感染が広がっている現状では栃木・茨城・千葉・新潟・福島県でのベルト構築が課題となるだろう。2010年の口蹄疫が畜舎と堆肥舎・飼料会社・と畜場などの点と点を結ぶ線上で感染が発生したことに対応した対策で封じ込めに成功したのに対して、今般の豚コレラでは野生イノシシという面を自由に動き回るウイルス源に感染が拡大してしまった以上、面的な封じ込め対策が不可欠とならざるをえないといえよう。そうした微調整が急務である。


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