【クローズアップ・消費税って何?】中小事業者に負担増 輸出大企業に還付金2019年10月29日
消費税は事業者が支払う税金
10月1日に消費税が8%から10%に引き上げらてまもなく1か月になる。今回は食料品など8%に据え置くなど軽減税率を実施したほか、政府は景気落ち込みを防ぐためクレジットカードで買い物をすると来年の6月までは店によっては5%のポイント還元するという制度も導入し、国民の増税ショックを和らげるような政策を実施している。しかし、そもそも消費税とはどのような税金なのか? 本質を探っていくと日米貿易交渉の問題にもたどり着くという。「消費税は悪税。世の中からなくすべき税金」と長年主張し、本紙でも問題点を解説している元静岡大学教授で税理士の湖東京至氏とともに改めて考えた。
◇消費税は誰が払う?
そもそも消費税とはどのような税金なのか。
「消費税はモノにかかる税金ではありません。一個一個のモノに10%の税金を乗せ、それがそっくり税務署に行っているだろう、という錯覚に陥らせる説明を政府はしますが、間違いです。消費税を払っているのは事業者であり、事業者に支払う義務がある事業税のようなものです。消費者に消費税を支払う義務はありません」と湖東氏は指摘する。
消費税は事業者が納める税金で、モノにかかる間接税ではなく事業者が支払う直接税である--。これがもっとも基本的な点だ。
量販店や外食店などでレシートをみれば本体価格とは別に消費税分が印字してある。たしかにこうした外税方式だと消費者は消費税分を自分が支払うようにみえるが、消費税を納める仕組みは次の式で示される。
<消費税の年間納税額=年間売上高×10%-年間仕入高等×10%>→仕入税額控除方式
つまり、消費税の税率10%は一個一個の商品にかける税率ではなく、事業者が年間納税額を計算するときの規定なのである。私たちが買い物をしている量販店も、この「仕入税額控除方式」で納税額を計算して納税をしている。
また、仕入高等に「等」には商品の仕入れのほか、外注費、派遣会社への支払い、工場の建設・修繕費、事務所の家賃、光熱費なども含まれる。一個一個のモノにかかる税金ではないことはこれでも明らかだが、さらにこの「等」には給料は含まれない。つまり、給料が多いと消費税納税額が増えてしまうという仕組みになっている。そのあおりを受けて正社員を雇わず、企業はこの「等」に含めることができる派遣や外注を増やすという行動をとり、そのために正社員の給料は上がらず景気がよくならないといった根本的な問題も指摘されている。
「政府や税務署は、消費税は原材料、メーカー、卸、小売業者と次々に転嫁し、最終的に消費者が負担する間接税だと説明していますが、この宣伝に惑わされてはなりません」。
(写真)湖東京至氏
◇軽減税率で本質露わに
こうした消費税の本質が今回の軽減税率の導入で逆に露わになった。
軽減税率の対象となったのは飲食料品と定期購読新聞などである。これらの対象品の多くで今年10月1日以前に、すでに次々と値上げが行われた。新聞大手4紙のうち、2紙は一昨年から今年にかけて先取り値上げを実施している。
理由はまさに消費税の本質にある。
たとえば軽減税率の対象となったペットボトル入りのジュースを考えてみる。ジュースを詰めるペットボトルやラベルなど、あるいは自動販売機へのトラック代など周辺取引にはこの10月から消費税率10%が適用され、ジュース製造販売企業の仕入価格が上がることになる。しかし、消費者へのジュース販売は8%に据え置かれたままとなるから、そのままでは年間の資金繰りが苦しくなる。
こうした事態がはじめから想定されたため、軽減税率対象商品の多くで事前に値上げが行われた。価格の決定権は企業にあるから、物の値上げを止めることはできない。
逆に値上げができなかった場合はどうなるのか? 新聞大手4紙のうち2紙は値上げしなかった。購読者にとってはメリットだが、新聞販売店にとっては大変だ。仕入れには10%かかるが、販売品(新聞)の売値は同じだからだ。湖東氏は新聞販売店で潰れる店が出てきはしないか、と心配する。
つまり、消費者の暮らしに影響を与えないように食料品など軽減税率の対象にしても、それは値段操作が自由にできる企業による事前値上げというかたちになったし、一方で事前値上げできなかった立場の弱い事業者は仕入れなどが上がり、今後苦境に陥る事態になりかねない状況だといえる。
「取引先に対して値上げが実現できる事業者はいいですが、そうでない事業者も多い。弱肉強食の税制です」と湖東氏。農業者にとって同じことが指摘できるだろう。
さらに軽減税率について「本当に国民生活に打撃を与えないようにするなら公共料金を軽減税率の対象にすべきです。しかし、電気、ガス、水道、電車、バスなどは対象ではない。軽減税率は何の役に立っているのでしょうか?」
◇企業のための補助金?
湖東氏は、このように導入されたばかりの軽減税率制度について何の役に立っているのかと批判しながら、実は日本と同じ仕入税額控除方式の付加価値税(消費税)を導入しているEUでは軽減税率の廃止論が出ているという。
ドイツでは標準税率が19%だが、食品のテイクアウトには7%の軽減税率が適用されている。しかし、同国のマクドナルドは店内で食べてもテイクアウトでも同じ価格で販売している。つまり内税方式なのだ。
それが問題を引き起こした。先に示した仕入税額控除方式の計算式でドイツのマクドナルドのテイクアウト分の納税額を計算すると
<年間納税額=年間売上高×7%-年間仕入高等×19%>
となるが、税率に12%もの差があるために納税額がマイナス、つまり、国から還付金を受け取るケースも出てくる。つまり、軽減税率制度は対象企業への補助金を生み出す仕組みであり、それによって国の歳入が減ることにもなる。
こうした問題点を指摘しEU委員会は軽減税率制度の廃止を検討しているという。
日本はまだ税率の差が2%と小さいため、外食チェーン店がテイクアウト部分で還付金を受けとるなどという事態はありそうにないが、いずれ標準税率をドイツのように引き上げていけばあり得ない話ではない。計算式はまったく同じ税制だからだ。
◇輸出企業に巨額還付金
消費税の最大の不公平は輸出大企業に巨額の還付金が戻ってくること-。これは湖東氏が繰り返し批判してきたことだ。
もう一度、10月1日からの基本的な計算式を振り返っておくと、事業者の納める消費税は
<年間売上高×10%-年間仕入高等×10%>
である。
今回は複数税率が導入されたため、品目によっては税率は8%のこともある。しかし、問題は実は約30年前の消費税導入時から標準税率のほかにもう一つの税率が存在していたことだ。
それが「ゼロ」税率である。
政府や税務署が説明してきた消費税は、原材料、メーカー、卸、小売業者と次々に転嫁し、最終的に消費者が負担する間接税だというもの。すでに指摘したようにこの説明は間違っているのだが、その流れに即して輸出を考えると輸出した相手国からは日本の消費税をもらうことはできない、したがって輸出売上高にかかる税率はゼロにする、という仕組みである。
かりに大手輸出企業の年間売上高12兆円のうち、輸出売上高8兆円、国内売上高4兆円だとする。コストの年間仕入高等は全体で8兆円だとする。
そうすると、
<売上に係る消費税=年間輸出売上高8兆円×ゼロ+国内売上高4兆円×10%=4000億円>
と売上ににかかる消費税は4000億円となる。
一方、
<仕入に係る消費税=年間仕入高8兆円×10%=8000億円>
となるから
<年間納税額=4000億円ー8000億円=▲4000億円>→年間還付金
となり、4000億円が還付金としてその企業に戻ってくる。
実際、湖東氏の推計によると2017事業年度でトヨタ自動車への還付金は3500億円ほどとなっている。消費税8%のときに巨大輸出企業には、全事業者が納めた消費税の2割、約4兆8000億円が還付されているという。しかも税率が上がれば上がるほど受け取る還付金は増える。
さらに、湖東氏が指摘するのは還付を受け取っている大手輸出企業は税務署に消費税を払ったことはないという点だ。還付税額というのは自分が払いすぎた場合に戻される税金を言う。しかし、大手輸出企業は消費税を税務署に払ってはいない。では、だれが税務署に払っているのかといえば、大手輸出企業から部品などの代金として支払いを受けている下請け企業群である。
「輸出還付金とは下請け企業が税務署に払った消費税分が税務署を経由して輸出大企業に支払われるもの。還付などではなく、他人が納めた税金の横どりと言ってもよいいと思います」と湖東氏は手厳しく批判する。
◇欧州で見直しの動き
「ゼロ税率」による還付金の仕組みを考え出したのは50年以上前のフランスだ。理由は企業が競争力を持つよう、ガットで禁止された輸出補助金に代わる仕組みとして企んだ。
しかし、今、その本家のEUで軽減税率と同じように輸出還付金制度の廃止が提起され始めているという。理由は不正還付が続出しているからだという。
「たとえば時計などを国外に持ち出し輸出証明を受け還付金をもらう。しかし、実際、現物は国内に取りもどしているなどです。こうしたニセ還付を摘発しようとしてもとっくに雲隠れ、という話です。すでに不正還付は日本でも起きており、今後、税率が上がれば不届き者がもっと出てくるかも知れません」。
EUでは2013年度で1700億ユーロ(約22兆円)がニセ還付によって国に入らなかったという。そこでEU委員会はゼロ税率制度を廃止し、輸出企業に還付金を渡さない仕組みを検討している。
どうするかというと、輸出相手国の税率で課税し、税務署は相手国の税金を預かって一定期間に互いに精算する仕組みを考えているという。自国への輸入が多ければ相手国へ支払い、その逆なら相手国からもらう。こうした国家間精算制度をEU委員会は2022年から実施すると発表している。だが、EUでも財界・輸出企業の抵抗は強い。それでも何十年にも渡った不公正な税制にメスが入れられようとしている動きが出てきたといえる。
◇米国の思惑 世界の動き
現在、米国はトランプ政権になってから各国と貿易摩擦を引き起こしている。それは米国の輸出企業には輸出還付金制度がないからである。つまり、EUや日本のような消費税(付加価値税)がないことも一因だと言う。
米国の企業が日本に輸出するとどんなに安く輸出しても税関で日本の消費税10%がかかる。一方、米国が日本から輸入すると、先ほどからみたように日本企業は莫大な還付金が入る。トランプ大統領に限らず米国政府はこの消費税の仕組みを問題視しており、そのため米国企業を守るには法人税の引き下げと「高関税をかける以外にない」という姿勢となっている。
日本車に25%の追加関税を課すのは保護主義に走り貿易戦争を招くといわれるが、米国からすれば消費税を上げるのであれば、こちらは関税で対抗するしかないというのも分からないでもない、ということになる。消費税のさらなる値上げがあれば黙ってみているはずはないだろう。
一方、消費税を廃止した国もある。2018年、マレーシアはマハティール元首相を軸とした野党連合が選挙に勝利して、公約にしていた2015年導入の6%の消費税を廃止した。選挙は5月、6月1日に6%の消費税をゼロ税率にしたという。こうすることによって事業者に還付金が戻ってくるという手法を使った。
これをきっかけに景気が回復し法人税収も増大するなどの好循環が生まれたという。国営の石油企業も経営内容が上昇し国に対する配当金が増えた。一方では新幹線工事の延期を決めるなど歳出を削減した。
湖東氏はこうしたマレーシアを分析し、消費税をなくして経済の好循環を実現しつつある動向に注目している。
日本では消費税の引き下げ、あるいは廃止の主張には相変わらず非現実的との批判もある。しかし、消費税とはどのような税制なのかを改めて認識し、世界にはどのような動きがあるのか、そこをしっかり見ていきたい。
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