【クローズアップ・基本計画の見直し】食の安定供給に危機感 中小・家族経営も重視2020年2月6日
農水省が「基本的考え方」
農林水産省は1月29日、次期基本計画の作成を検討している食料・農業・農村政策審議会企画部会に、これまでの議論をふまえ「次期基本計画の検討に向けての基本的な考え方」と経営政策、農村政策について論点と対応方向を示した。「基本的考え方」では農業者の減少と中山間地域の人口減少などで農業生産が維持できず、国民への食料の安定供給が損なわれる事態となりかねないと危機感を示し、新たな基本計画は、こうした状況のなかでも農業の持続可能性を確保していく指針とすることがテーマとの考え方を示した。
◆農業は持続可能か?
農水省は昨年9月6日の審議会に現行基本計画の見直しを諮問、昨年末までに8回の企画部会と全国10都市での地方意見交換会を開いた。
昨年末の企画部会で課題を整理し、29日の企画部会で「基本的な考え方」として提示した。
農業を取り巻く状況の日本と世界の変化(クリックで拡大)
そこでは、わが国農政について、農業所得の向上や、新規就農者の増加、輸出増大などの成果を上げてきたとの認識を示すと同時に、▽TPPをはじめとする国際化、▽大規模災害の多発、▽CFSなど家畜疾病の発生、▽気候変動への対応が迫られているとした。
しかし、日本の人口は2020年の1億2500万人が30年後には1億200万人へと2割減少し、そのなかでこのままでは2040年にはは農業者は半数以下に、農地は約2割減少することを指摘。また、農業産出額の4割を占める中山間地域では人口減少から地域社会の維持も困難になる地域も増えると予想され、「このままでは農業生産が維持できず、国民への食料の安定供給が損なわれる事態となりかねない」と危機感を示した。
農村地域人口の減少と農業集落の変化(クリックで拡大)
そのうえで、こうした状況のなかで将来にわたって食を安定供給できるよう「わが国農業・農村の持続可能性を確保していく指針」を示すことが次期基本計画のテーマだとした。今回は「持続可能性」がキーワードになったといえる。
◆多様な人材の確保
そのための政策方向として4つを提示。1つは「効率的かつ安定的な農業経営が農業生産の相当部分を担う農業構造」という基本法の理念に即して「人・農地プラン」の「実質化」によって、担い手への農地を集積・集約する方針を従来どおり掲げた。ただ、今回は経営規模や法人・家族の別など経営形態にかかわらず、「将来にわたり農業を継続する者」に経営が継承されることも推進するとして、小規模・家族農業も重視する方向も示した。
そのほか、新規就農者、女性参画、高齢者、障がい者など多様な人材の確保などによる農業就業者の確保も進める。また、スマート農業、データ駆動型農業といった先端技術の生産現場への導入も図る。
2つめは農地の利用についての考え方。土地持ち非農家の農地も含めた有効活用、中山間地域では放牧など粗放的な利用についても検討していく考えを示した。
3つめは変化する消費への対応で、高収益作物の生産拡大や高付加価値とともに、業務用需要への対応と機械化体系の導入によるコスト低減などの推進も上げた。流通面では共同配送、消費面では食育の推進による国産農畜産物の消費拡大への取り組みを挙げた。
4つめが農村政策で、とくに中山間地域での農業経営モデルを示すことや、定住条件の整備、非農家も参加した地域資源の保全などの推進を挙げ、農水省が農村振興を主導し関係府省と連携していく考えを強調している。
こうした施策の基本方向を示したうえで、基本的考え方では、「基本となるのは消費者の理解と行動」だとして、消費者が農業・農村への理解を深め、国産消費拡大等に主体的に取り組む国民運動を展開することも明記する方針だ。
農業経営体に占める家族経営体の割合
◆地域農業どう支える?
同日に示された経営政策の方向では、農業の担い手について「家族農業・小規模農業などをどのように支援していくのか」、「人手不足のなか人材確保をどのように進めるのか」などの論点を示した。
そのうえで対応方向として、現行基本法が掲げている「効率的かつ安定的な農業経営」が農業生産の相当部分を担う姿をめざすものの、今回は多様な経営体が農業を支えている現状をふまえ、経営規模や法人か、家族経営かといった経営形態に関わらず、「経営改善をめざす農業者」の育成・確保を進めるとの方針を打ち出した。
同時に、農村政策の論点でも「地域政策として小規模農家や家族経営の位置づけをどのように考えていくのか」を挙げた。
対応方向としては、多様な農家が地域で重要な役割を果たしていることをふまえ、地域特性を活かした作物の導入の推進とともに、稲作、野菜、果樹、畜産、林業などとの複合経営といった「営農条件に応じた農業経営の確立」を推進する考えを示した。
これまでの規模拡大路線一辺倒ではなく、小規模・家族経営も重視する方向を改めて打ち出そうとしているといえる。
ただ、企画部会の議論では「大規模だけでは(農業生産全体を)フォローできないということであり、中小・家族農業中心への揺り戻しではないとのメッセージが必要だ」、「基本は担い手への施策の集中」、「さらなる成長産業化に向かうことが大事だ」などと釘を刺す意見も相次いだ。政策支援の対象を経営形態に関わらず「経営改善をめざす農業者」とする考え方についても「改善ではなくより発展させる、などと(規定)すべきだ」といった指摘もあった。
販売金額規模別、経営耕地面積規模別の経営体の推移
◆のぞましい姿は?
一方、自民党で基本計画の見直しを議論している農業基本政策検討委員会の場では、兼業農家の協力なくして地域農業は成り立たないとして、「経営改善をめざす農業者」ではなく、農家の「経営継続」を支援すべきとの意見や「家族経営も車の両輪として支援すべき」との審議会委員の意見とは逆の主張も出ている。
将来の農業構造や政策の支援対象についてまだ議論する必要があるのはもちろんだが、今回は「地域全体の農業の持続性をどう確保するのか」という論点は打ち出されている。具体策としては地域で話し合い、中心的な担い手へ農地の集積・集約化を図るビジョンづくりをする「人・農地プラン」の「実質化」を推進することを強調するが、農地の引き受け手がいない地域や法人化したものの次世代がいない集落営農組織など、経営継承策をどう打ち出すかも課題となる。
JAグループは基本計画の見直しについて昨年11月に決めた政策提案のなかで「多様な農業経営が維持・発展する将来像を具体化すること」としており、そのために画一的に担い手に農地を8割集積させるといった展望を描くのではなく、地域ごとや作目ごとに「アクションプランを作っていくべきではないか」と主張している。
◆農村の価値発信
「基本的考え方」では農業の持続性確保のためには産業政策とともに、「地域政策で農村を支えていくことが重要」と強調した。
対応方向は、住民間で集落の将来像を共有する話し合いや、「小さな拠点」づくりなどを行政が支援することや、都市からの移住者による副業や兼業(半農半X)的な農への関わり方を実現する環境整備など。また、そうした農村への関心の高まりふまえて、農村地域の新たな魅力として国民に発信することなども強調する。農産物だけでなくバイオマス・再生エネルギーの地産地消も含め、地域外への所得流出を防ぐ循環型経済の実現も掲げる。
わが国で「農村」をどう位置づけ、振興するかは国のかたちに関わることであり、具体策の議論が今後期待される。
JAグループは中山間地域をはじめ農村地域振興対策について、中山間地域直接支払いと新規就農策を統合し、就農者に交付金を加算するなどの制度の確立を提起している。
◆課題は政策具体化
企画部会は2月中旬に食料自給率の目標などを議論し、農水省は3月に基本計画を決定する。次期計画のなかでは農業振興だけなく地域の維持に重要な役割を果たしているJAなどの適切な位置づけも必要だ。
日本が高齢化と人口減少に向かう節目の時期の基本計画となる。また、計画づくりはもとより、その実践が大事だとJA全中の中家会長は強調し「具体的な実践の道筋を示し、進捗や課題をフォローする仕組みをどう作っていくかを求めていきたい」と話す。
【スケジュール】
○企画部会(1月29日)
・「基本的な考え方」
・経営政策、農村政策の論点と対応方向
・新しい「農業構造の展望」の考え方
・新しい「農地面積の見通し」の考え方
○企画部会(2月中旬)
・食料自給率目標等の考え方
・品目ごとの生産のあり方
○企画部会(2月下旬)
基本計画骨子案
○企画部会(3月上旬)
基本計画本文原案①
○企画部会(3月下旬)
基本計画本文原案②
○本審議会(3月下旬)
基本計画(案)→答申
○閣議決定(3月中)
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