本当に復興したのか-農業復興の進捗状況を取りまとめ 農水省2020年3月4日
東日本大震災から9年経つなかで農林水産省は「東日本大震災からの農林水産業の復旧の進捗状況等」を取りまとめ、3月2日公表した。
イメージ(東日本大震災の写真)
◆農地の復旧は93% 福島県が平均値を引き下げる
─地震・津波災害からの復旧・復興─
農地の復旧の過去3年の進捗を見ると次のようになっている。
▽平成30年1月末では89%(1万7630ha/1万9800ha※津波被災農地面積<農地転用が行われたもの[見込みを含む]を除く>に占める復旧農地面積の割合。以下同じ)
▽平成31年1月末では92%(1万8150ha/1万9760ha)
▽令和2年1月末では93%(1万8390ha/1万9760ha)
この令和2年1月末の農地の復旧状況(93%)の内訳を県別に見ると次のようになっている。原子力被災12市町村がある福島県における進捗率が71%と低いことが平均値を下げている要因であることが分かる。
○青森県▽津波被災農地面積80ha▽農地転用等を除く津波被災農地面積80ha▽令和元年度中の営農再開可能面積80ha▽進捗率100%
○岩手県▽同730ha▽同550ha▽同550ha▽進捗率100%
○宮城県▽同1万4340ha▽同1万3710ha▽同1万3640ha▽進捗率99%
○福島県▽同5460ha▽同4550ha▽同3250ha▽進捗率71%
○茨城県▽同210ha▽同210ha▽同210ha▽進捗率100%
○千葉県▽同660ha▽同660ha▽同660ha▽進捗率100%
◆二極化進む原発被災地の営農再開
─原子力災害からの復旧・復興─
原子力被災12市町村※の経営耕地総面積2万869haのうち、営農休止面積は、田村市、南相馬市、川俣町の一部面積を除いた1万7298haとなっている。この営農休止面積には帰還困難区域2040haが含まれている。
営農休止面積のうち、営農再開面積は約3割の5038haとなった。
しかしながら避難指示解除の時期により営農再開率の格差が生まれて、二極化が進んでいるという。営農再開割合の高い市町村は、人・農地プランの作成や農業委員会の活動が進んでいる。他方、営農再開割合の低い市町村は、人・農地プランの作成や農業委員会の活動など農業振興のベースが不足している。
原子力被災12市町村の農業者のうち、認定農業者は、すでに多くが営農再開(61.7%)しており、加えて営農再開の意向がある農業者(23.4%)も多く、両方の合計は85.1%に上る。
一方で、認定農業者以外の農業者は、多くが営農再開未定または再開の意向なし(56.9%)となっており、担い手の確保が極めて重要な課題だという。
これら地域の農地除染は帰還困難区域以外は完了しているという。その対象面積は次のとおり。なお、進捗率はそれぞれ100%である。
▽田村市140ha▽楢葉町830ha▽川内村130ha▽大熊町170ha▽葛尾村570ha▽川俣町610ha▽飯館村2400ha▽南相馬市1600ha▽浪江町1400ha▽富岡町750ha▽双葉町100ha。
この除染は、現地のほ場で行った実証試験で、表土の削り取りにより土壌の放射性セシウム濃度が8~9割減少するなどの効果を確認し、この結果を踏まえ、環境省が各省庁と連携して、土壌の放射性セシウム濃度に応じてそれぞれ技術を適用して農地を除染したという。
○福島相双復興官民合同チーム(営農再開グループ)による支援
平成27年8月に設立された福島相双復興官民合同チーム(営農再開グループ)に農水省東北農政局と福島県(農業普及組織)が参加し、地域農業の将来像の策定や農業者の営農再開などの取り組みを支援している。
また、平成29年4月からは、営農再開グループに(公社)福島相双復興推進機構が参加して活動が強化され、農業者への個別訪問とその支援・フォローアップ、販路確保などの支援にも取り組んでいる。
今でも被災地産の食品の購入をためらう消費者が一定程度存在している。
消費者庁「風評被害に関する消費者意識の実態調査(第12回)」による。
◆依然根強い風評被害
─食品についての風評払拭・リスクコミュニケーション強化─
被災地産の食品の購入をためらう消費者が一定程度存在している。とくに、福島県産の食品についてその割合が高い。
消費者庁「風評被害に関する消費者意識の実態調査(第12回)」によると、平成31年2月でも、「産地を気にする人が放射性物質を理由に購入をためらう産地として回答した産地の割合」は次のようになっている。▽福島県(12.5%)▽岩手県・宮城県・福島県(7.7%)▽茨城県・栃木県・群馬県(3.6%)▽東北6県(3.4%)▽東日本全域(2.0%)となっている。
科学的根拠に基づかない風評や偏見・差別が今なお残っていることから、政府は、伝えるべき対象、内容、取り組むべき具体的施策などを示した「風評払拭・リスクコミュニケーション強化戦略」を平成29年12月に策定(復興大臣の下、関係省庁局長クラスを構成員とするタスクフォースで決定)し、政府一体となって風評の払拭に取り組んでいるという。
「食べて応援しよう!」のキャッチフレーズの下、
被災地産食品の販売フェアや社内食堂で、被災地産食品の利用が行われている。
◆ ◆
農水省がまとめた「東日本大震災からの農林水産業の復興支援のための取組」(平成2年2月)には、以上のほか、被災地域での取り組み状況をコンパクトにまとめた様々な取り組み事例がお紹介されている。
この資料は、農水省のWebサイトから入手できる。
【東日本大震災からの農林水産省の復興支援のための取組(令和2年2月 農林水産省)】
(※)12市町村は、広野町、田村市、楢葉町、葛尾村、川内村、南相馬市、川俣町、飯館村、浪江町、富岡町、大熊町、双葉町
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(119) -改正食料・農業・農村基本法(5)-2024年11月23日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践 (36) 【防除学習帖】第275回2024年11月23日
-
農薬の正しい使い方(9)【今さら聞けない営農情報】第275回2024年11月23日
-
コメ作りを担うイタリア女性【イタリア通信】2024年11月23日
-
新しい内閣に期待する【原田 康・目明き千人】2024年11月23日
-
基本法施行後初の予算増確保へ JAグループ基本農政確立全国大会に4000人 生産者から切実な訴え2024年11月22日
-
「適正な価格形成」国関与で実効的に JA群馬中央会・林会長の意見表明 基本農政確立全国大会2024年11月22日
-
JAグループ重点要望実現に全力 森山自民党幹事長が表明 基本農政確立全国大会2024年11月22日
-
農林水産省 エン・ジャパンで「総合職」の公募開始2024年11月22日
-
鳥インフル 米モンタナ州、ワシントン州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年11月22日
-
鳥インフル オランダからの生きた家きん等 輸入を一時停止 農水省2024年11月22日
-
11月29日「ノウフクの日」に制定 全国でイベント開催 農水省2024年11月22日
-
(411)「豚ホテル」の異なるベクトル【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年11月22日
-
名産品のキャベツを身近に「キャベツ狩り選手権」開催 JA遠州中央2024年11月22日
-
無人で水田抑草「アイガモロボ」NEWGREENと資本業務提携 JA三井リース2024年11月22日
-
みのるダイニング名古屋店開業2周年「松阪牛ステーキ定食」特別価格で提供 JA全農2024年11月22日
-
【スマート農業の風】農業アプリと地図データと筆ポリゴン・eMAFF農地ナビ2024年11月22日
-
自動運転とコスト【消費者の目・花ちゃん】2024年11月22日
-
イチゴ優良苗の大量培養技術 埼玉農業大賞「革新的農業技術部門」で大賞受賞 第一実業2024年11月22日
-
「AGRIST Aiサミット 2024」産官学金オープンイノベーションで開催2024年11月22日