【クローズアップ・都市農業】北限ぎりぎりでレモン栽培 千葉・松戸市の鵜殿さん2020年4月15日
市街地で地産地消の農業営農継続できる税制を
千葉県の松戸市新松戸地区の住宅に囲まれた市街地内にレモン園がある。同市横須賀の鵜殿敏弘さん(67)の「鵜殿シトラスファーム」だ。ハウスや鑑賞用に栽培しているところはあるが、冬は氷点下にもなるところで、路地によるレモンを経営として軌道に乗せているのは珍しく、温暖な南関東の沿岸部を除き、降霜地帯の関東中部以北では他に例がない。周辺が宅地化するなかで鵜殿さんは、失敗を重ねながら自力で栽培法を確立し、「新松戸レモン」として知られるようになった。鵜殿さんのレモン栽培は、〝北限のレモン〟として、また、市街化区域内の果実が市の特産として期待されている。
オレンジ色が鮮やかなマイヤーレモン
レモンは温暖な気候に育つ果実で、温州ミカンよりも寒さに弱い。日本では広島県や愛媛県の瀬戸内海沿岸が産地で、この2県で全国の8割以上を生産する。降霜や氷点下の気温にも、ある程度は耐えられるが、下がりすぎたり、長時間寒さにさらされたりすると枯れることが多い。それでも鵜殿さんはレモンに目を付けた。
鵜殿さんの畑のある松戸市新松戸地区はもともと、江戸時代の新田開発による水田地帯だったが、東京の通勤圏内として、1960年代から始まった土地区画整理で宅地化が進んだ。鵜殿さんの家では、父の亘さん(96)の強い意向で畑作農家として農業を続けてきた。
当初、洋花のランやブロッコリー、トマト、ソラマメなどの野菜を作っていたが、連作障害で収量が上がらなくなった。土壌の入れ替えには手間と経費がかかるため、新しい品目を探していたところ、鵜殿さんの弟が運営していた花屋で売れ残った鉢植えのレモンの木3本を、亘さんが畑に移植していたものに実が成っていた。鑑賞用としては珍しくないが、松戸でも露地でレモンができているところをみて、経営的に成り立つのではないかと考え、鵜殿さんのレモンへの挑戦が始まった。
最初、ポピュラーな品種の「リスボンレモン」や「ユーレカレモン」を植えたが低温に耐えられなかった。ただ一緒に植えていた「マイヤーレモン」だけは育ち、実がついた。何度か栽培を繰り返し、2011年から本格的に植え付けを始めた。「マイヤーレモン」は暖かい気候でよく生育するが、適度な耐寒性も持っている。寒風にさらされると、その方向の樹皮が枯れても、樹そのものは枯死しないことなど、育ててみて初めて分かることも多かったと言う。
このため、土地の高低差や風の向き、防風の役割を果たす住宅の位置などが微妙に影響する。気象条件の違いから瀬戸内のレモン産地は参考にならない。「相談しようと思っても、近くにレモン栽培の経験者はおらず、すべてが手探りの試行錯誤だった」と鵜殿さんは振り返る。それでも枯死することを想定し、通常の2倍の苗木を植えた。鵜殿さんは、冗談で瀬戸内ならぬ「瀬戸際レモン」と自嘲気味に言うが、〝北限〟ならではの苦労も多かった。3回に分けて植え付け、現在、主に3か所、80aの畑に約500本のレモンがある。
「マイヤーレモン」は、害虫には比較的強いが、かいよう病には弱い。だが、住宅地に囲まれた鵜殿さんのレモン園では、ドリフトの恐れから薬剤防除が難しい。このためレモンは無農薬栽培となり、これが安全な「新松戸レモン」としての評判につながっている。
「マイヤーレモン」は中国で発見された品種で、レモンとオレンジの自然交配でできたものではないかと考えられ、果実はコンパクトな大きさで、オレンジがかった色から観賞用として親しまれてきた。日本では三重県南部で全国の9割が生産されている。
レモンは収穫できるようになるまで3~4年、本格的に出荷できるようになるまで10年かかる。最終的には15tの生産を見込んでいるが、最初に植えた木がそろそろ10年を迎えることから、「来年以降は目標に達するのではないか」と、気候変動による温暖化の後押しもあり、鵜殿さんはレモン栽培に自信を深めている。
直売所「MONOPE」で地産地消
販売も独自に開拓。2018年に、JR新松戸駅から徒歩10分ほどのところにかんきつ直売
所「MONPE(もんぺ)」を開店した。鵜殿さんはレモンだけでなく、甘夏や「はるみ」などのかんきつ類も栽培しており、通常、レモンは10月から1月一杯、かんきつ類は1月から3月まで販売する。
ほとんどの輸入レモンに使われている防カビ剤・ワックスを使っておらず、皮まで安心して食べることができ、マイヤーレモンはまろやかな味でほのかな甘みがあることから、地元でとれた「新松戸レモン」として人気がある。地元の食材としてケーキ屋などでも重宝されている。
松戸市は「二十世紀梨」発祥の地として知られ、首都圏の住宅地だが梨だけでなく枝豆、ネギなどのブランド農産物がある。市は、新しいブランドとして「新松戸レモン」の保存方法や、おすすめレシピを広報で紹介するなど支援している。
後継者も確保し、鵜殿さんは将来もレモン栽培を続ける考えだが、所有する畑は全て生産緑地で、相続税が大きな負担になる。鵜殿さんの農地はかつての半分になっている。残りは貸し出しており、その賃貸料でぎりぎり固定資産税をカバーしているが、将来発生する相続税負担に耐え、農業を続けていけるか不安がある。鵜殿さんは、2015年にできた都市農業振興基本法は評価するが、「ただ農業をやらせておけばいいと言うのでは、都市の農業はつぶれる。本当に農業を守ろうとするなら、土地税制を根本的に変える必要がある」と訴える。
宅地に囲まれたレモン園
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