【クローズアップ:韓国の「農村ユートピア」条例】『身土不二』に文明難民の「桃源郷」を求めて NPO・韓日農業農村文化研究所 玄 義松(ヒョン イソン) (元韓国農協中央会常務、元農民新聞社社長)2020年12月16日
自然災害の頻発、新型コロナウイルスの蔓延から、生活の価値観が変わり、韓国でも「農山村に新しい生活の場を求める動きが強まっている。人間の身体と土地は切り離せないという「身土不二」の思想が広まっている韓国から、NPO・韓日農業農村文化研究所の玄義松氏(元韓国農協中央会常務・元信連代表理事・元韓国農民新聞社社長)に農村と農業の価値を語ってもらった。
今年、韓半島は史上類を見ない長い梅雨と頻繁な台風によって農作物や農業施設に多大な被害を被った。地球温暖化による気候変動と災害が頻発するという話はよく聞いていたが、2020年には全国民が気候変動による地球の危機を体で実感するきっかけとなった。
さらに、今年初めからコロナ19(新型コロナウイルス)感染による世界各地の国境封鎖措置などでグローバル経済と流通システムが機能しない状態が発生した。
このような混乱も気候変化によるものであることを認知しながら、生活の変化が随所で感知される。農山村の価値を再評価する動きだ。農山村でユートピアを探そうという動きだ。 一部の地方自治体は農山村ユートピア条例を制定し、地方政策で支援しており、国策研究機関の韓国農村経済研究院は「農村ユートピア」という研究資料を発表した。
しかし、東洋の桃源郷は現実の生活の中に桃源郷があるという自然順応的な思想で、人間の精神世界に大きな慰めを与えていると思われる。陶淵明が400年代の武陵桃源を歌った『詩歌図画院記』にある。彼は田舎に隠居し,鍬(くわ)とシャベルを持って農業をした。一生、貧しさと病魔に苦しめられたが、権力と妥協せず、屈せずに生きてきた。直接労働しながら貧しい農民たちと一緒に暮らしたため、彼の作品世界も日常生活の中から出る純粋さそのものだった。
1500年代のトーマスモアのユートピアは語源から見て「ない場所」「いい場所」の意味を持っていた。ないところだが、人間の能動的開拓精神で良い場所としての理想社会の実現が可能だと考えた。これを見れば、西洋の積極的なユートピア思想は、その目標とは違って、今日の気候危機、環境危機、コロナ19など大きな災いを招くものと思われる。
東洋思想の桃源郷であれ西洋のユートピアであれ、人類の理想的な舞台は明らかに農山村だ。
気候変動で食料危機
人類の暮らしは科学技術文明の発達によって豊かで便利になった。しかし、金科玉条のように考えていた科学技術文明は環境危機に直面している。地球全体的な巨大危機だ。人類の生の存在基盤である地球村の環境は、人間の無分別な生と攻撃で滅亡寸前と言っても過言ではない。むしろ環境が人類の暮らしを攻撃する格好だ。まさに今のコロナ19の攻撃だ。これは現生人類の自縄自縛だ。
気候変動が最も恐ろしいのは食糧危機を招きかねないからだ。金融危機もコロナ19危機も生活には問題がなかった。しかし、食べる食料がマートに行ってみると、なかったとしたらどうなるだろうか? 想像がつかない。韓国は食糧自給率が46%で、資源とエネルギーも外国から輸入する国だ。私たちが食糧難民に転落する可能性もある。
2019年初め、オーストラリアで安保戦略家が気候変動枠組み条約を作成した。アジアの降水量に一部変化があれば、数億人が飢餓に苦しむ恐れがある。アジア人がオーストラリアに船に乗ってくれば、オーストラリア軍隊はどのように阻止しなければならないかのという報告書だ。これは気候科学者ではなく、安保戦略家たちが書いた報告書の内容だ。当事者である我々は気候危機にあまりにも鈍感になっているのではないか。
韓国は「気候悪党(climate villain)」と呼ばれるほど、二酸化炭素排出量世界7位、大気汚染35位、気候変動対策指数58位など、ほぼ全ての指数で最下位の水準だ。
パリ気候変動枠組み条約は2015年12月、フランスのパリで開かれた第21回国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)の締約国会議(COP21)で採択されたもので、2020年以降の新たな気候変動枠組みの樹立に向けた最終合意文だ。
2015年のパリ総会を控え、韓国を含む187カ国は2025年または2030年までに温室効果ガス削減目標(寄与方策INDC)を国連に提出した。韓国も2030年の排出展望値比37%減らすという内容の削減目標を2015年6月に提出した。
現世の私たちは気候危機を認識した最初の世代であり、これを防ぐことができる最後の世代という点を皆が共有し実践しなければならない。
いま我々人類はどこへ行くべきか。 まさに今日の私たちは21世紀の世界文明の難民になっている。
人類の帰巣本能・帰村本能
地球が健康な時は都市の繁栄が魅力的だが、都市が疲弊した今は、人々がストレスを解消するために安心して帰れる場所を探していて、今はまさに農村と自然だという事実を認識し始めた。必ずしも地方移住でなくても、都市でも農村や農業と近づけば、心の安定を取り戻すことができると感じた。現代人が最も切実に追求するのは心身の健康だ。コロナ19の危険の根本原因である密接、密集、密閉がない農空間は確かに桃源郷でありユートピアだ。
観光業界も、世界旅行よりは国内農村旅行、すなわちマイクロツーリズムへと切り替えなければならない。農山村体験旅行は森林ヨガ、収穫体験などヘルスツーリズムであるだけでなく、地域経済の循環につながる。このように新しい時代は農業・農村の強みが発揮される時代が到来している。農食品と食糧を生産・供給する役割だけでなく、都市部のすべての人々を母親の懐に抱え込み、人間らしさを回復できる包容的農業力を発揮できる。
しかし、これからの持続可能な循環型社会では、生産流通消費を地球全体はもちろん、その地域の環境容量と生態系の受容可能な限度内で行われなければならない。したがって、循環型社会の設計原理は小規模分散複合化地域内循環が優先される。地域社会ごとにそれぞれ特色ある環境と生態系の多様性に合致した活動展開が必要である。できるだけ地域内の近くで生産して消費する循環経済の構造は、まさに私たちが主張した「21世紀型身土不二的地域循環経済」だ。
農山村地域は、日常生活の中で生命を育て、安全な暮らしを維持する場所だ。生命を育て、感謝し、これを摂取したり、他人に与えたりすることもできる日常だ。育てることが可能な農的生活は人間の精神を謙虚に豊かにする。
産業革命の発祥地である英国では19世紀後半、アートクラフト運動が起きた。画一的な工業製品に囲まれた生活に疑問を感じ、自然と伝統文化の価値を再発見しながら手作業労働を重要視する素朴で美しい生活をしようという主張だ。この運動に賛成した人たちが、自分の生活の舞台を農山村だと思って移住を始めた。すなわち都会人の農山村運動だった。
コロナ19によって大都市の過疎化進行とともに、農山村にも追い風が来るという予言もある。 農山村地域循環型経済の活性化が地方都市を生かし、国を生かす道だと思う。コロナ19以降の人類には身土不二的な暮らしが正解だ。
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