政権発足3カ月 〈GoTo〉目的地はどこか――〈コロナ敗戦〉足下揺らぐ【検証:菅政権7】2020年12月18日
菅政権は16日、発足から3カ月を迎えた。〈Go Toトラベル〉の混乱は支持率急落となって表面化した。加えて〈密会食〉への批判。〈Go To政権〉はどこに行くのか。このままでは〈Go Toトランジット〉、途中下車、乗り換えの動きも出かねない。(敬称略)
写真は首相官邸HPより
寒風が肌刺す年の瀬
〈何事も思うほどには悪くはない。翌朝には状況が改善しているはずだ〉。菅は昨晩、愛読書『リーダーを目指す人の心得』(コリン・パウエル元米国務長官著)を読み直しているはずだ。そして、こう自問したにの違いない。「なぜこうも裏目に出るのか」と。
政権の足下が揺らぐ。根本は〈菅政権には「菅官房長官がいない」ことだ〉。危機管理を束ねる調整役が不在だ。
例年ならこの時期は、自民党本部のある永田町周辺は予算関連関係者の出入りで活況を呈す。カネこそ力。予算編成権こそ政権党の源泉だからだ。27年前の1993年、非自民8党派細川連立政権の誕生で、自民党は野党の悲哀をいやというほど身に染みた。当時の年末の次年度予算案決定時、党本部には閑古鳥が鳴いた。何としても一刻も早く政権に復帰したい。だからこそ、なりふり構わぬ自社さ連立政権の〈奇手〉を使ってでも政権に戻ったのだ。
あれから四半世紀。今年の永田町も様子が一変した。新型コロナウイルス感染拡大で、菅政権の足下が揺らいでいる。菅首相は、健康と気分転換を兼ね早朝の散歩を欠かさない。政権への世論の冷たさも加わり、今朝の冷え込みは一層こたえたはずだ。〈西高東低〉の冬型の気圧配置が強まり日本海側の降雪も続く。北国・秋田出身だけに菅氏はふるさとの雪害も心配しているはずだ。政権発足から3カ月、90日あまり。一方で取り巻く政治は〈西高東低〉を言い換えた〈政高党低〉ならぬ、〈党高政低〉へ切り替わりつつある。
「多人数忘年会」自ら失態
それにしても、「Go Toトラベル」全国一斉停止を公表したその夜に、二階俊博自民党幹事長ら5人以上と東京・銀座の高級ステーキ店で会食したのは失態だった。与党内も含め世論の批判を浴び「真摯に反省している」と述べた。それ以降、17日に予定していた二階派、岸田派の忘年会など相次ぎ、取りやめ、自粛することになる。国民に我慢を強いている以上、当然だろう。
ただ、菅氏は政治手法として朝や夜の「会食」などを通じ、経済界などの様々な意見を吸い上げ、政策に生かしてきた。それ事態は悪いことではない。菅氏は仲間内での付き合いを好んだ安倍晋三前首相とは違い、意見の異なる人物も含め多様な接点を求める。
JA全農の山崎周二理事長も16日の会見で、11月27日の首相との45分間の懇談内容の一部を明かした。その1週間前に官邸で農産物輸出関連の関係閣僚会議があり、終了後に首相から「輸出でゆっくり話を聞かせてほしい」と請われ、昼食会が実現したのだという。菅氏には、こうした立場を越え実際に相手の話を聞く姿勢がある。
新聞各紙には政治欄の最下段に毎日、分刻みの「首相動静」が載る。政治のプロたちはここを見逃さない。実際は政権内の手の内が分かるため、ここに載っていないケースも多い。
さて、注目の「首相動静」は12月15日付。前日が新聞休刊日だったため13日と14日の2日分が載った。ここで明らかに官邸内の〈異変〉を読み解ける。
13日は日曜日にもかかわらずあわただしい。昼にお気に入りの官邸近くザ・キャピトルホテル東急のレストラン「ORIGAMI」で秘書官と昼食。その後党本部に移り16時過ぎからは官邸に官房長官、厚労相らを呼び寄せる。〈Go Toトラベル〉停止に向けた最終調整をしたはずだ。翌14日。官邸は朝9時前から関係閣僚の出入りが続く。その後、夕方の感染症対策本部を経て、期限を区切っての全国一律停止表明。そして懇親会場に向かう。
2つの懇親会に出席
実は問題となった二階幹事長らとの会食の前に、「首相動静」によると都内ホテルで先約の経済人との懇談を19時41分から行っている。注目したのはメンバー。出雲充ユーグレナ社長の名が見える。ベンチャー企業でユーグレナはミドリムシのこと。太陽光で増える藻の一種で、今後の食料や燃料としても有望視される。菅氏はグリーン社会実現へ、ユーグレナ活用なども考えているのだろう。
その後、20時50分から問題となった二階幹事長ら「5人以上」の会食、つまりは忘年会に出向く。ここでもメンバーが気になる。王貞治、俳優の杉良太郎、政治評論家・森田実ら各氏。野球談義に花が咲いたというが事実だろう。なぜ森田氏が加わったのか。東大時代に反日共系の全学連やブントを立ち上げ、60年安保闘争を主導。評論家に転じてからは活発な政治論評を行う一方で『公共事業必要論』を著わす。公共事業重視は二階氏との共通点だ。互いは今、親密な関係を保つ。同席した理由かもしれない。
メルケルと「ガースー」
国際政治雑誌「ニューズウィーク」日本語版は、コロナ対応での日独宰相の違いを探った「メルケル演説が示した知性と『ガースー』の知性の欠如」と題したドイツ思想史学者の記事を載せた。確かに、タイトルが示すように的を射た内容を含む。
メルケル首相は12月9日、ドイツ連邦議会の演説で感染に伴う死者を減らすためにコロナ禍の危機感を情熱と感情をあらわに訴えたのだ。物理学者であり普段、冷静沈着な彼女にとっては珍しい。その〈勇姿〉はSNSで世界中に拡散し反響を呼ぶ。「私は啓蒙の力と科学的知見を信じている」と知性への誇りと可能性を説いた。
一方で日本。東京の感染者数が初めて600人を超えた12月11日、菅首相は「ニコニコ動画」の生放送に出演し「こんにちは、ガースーです」と笑顔を見せた。菅氏にしてみれば親近感を持たせる演出だったろう。だが、両宰相の緊張感の差は歴然とした。
支持率急落の「先」へ
総選挙の足音が高まる。当連載「検証 菅政権」第6回でも触れたが、菅政権は選挙の洗礼を受けていない〈暫定政権〉に過ぎない。菅が当初模索した年明け解散はコロナ拡大で消えた。解散の時期は来春以降、9月初めの東京五輪後がさらに強まってきた。衆院議員任期満了まであと10カ月あまり。
内閣支持率が急落している。政治は二階幹事長が牽引する〈党高政低〉の構図が強まる。このままでは「菅で選挙戦を戦えるのか」との声が高まりかねない。コロナ禍次第で〈Go Toトラベル〉転じて〈Go Toトランジット〉へ。政治は一寸先は闇である。二階はその闇を渡り歩いてきた。トランジット=途中下車し乗り換える。「選挙の顔」を代える動きにも注視が必要だ。
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