報道の裏にある現実を見極める眼を 堤 未果 国際ジャーナリスト 【クローズアップ:米国大統領選と情報戦争】2020年12月28日
2020年を振り返ると、真実とそうでない情報が,世界規模で錯綜した一年だったと言えるだろう。
新型コロナウィルスに始まり、各国政府が実施したロックダウンとそれに伴う世界的な景気後退と失業率の拡大、アメリカ大統領選挙の不正疑惑まで、今まで信じてきたものがことごとく崩れてゆく中、言論の自由にまで疑問符がついた。
第二の南北戦争-米国史上最大の混乱
「ニュースを見ても、何が起きているかよくわからない」
日米の主要マスコミが、バイデン勝利で決着がついた前提で本質を伏せた報道を続けているアメリカ大統領選などは、その典型的なケースだろう。
1月20日の就任式まで最終結果は確定されないが、今や現地では「第二の南北戦争」と呼ばれるほど、米国は史上最大の混乱に突入している。
テレビや新聞は繰り返し、敗北を認めないトランプ大統領を「民主主義を冒涜している」と批判する。あるコメンテーターはこう言った。
「今まで散々フェイクニュースを撒き散らし、嘘をついてきたトランプが、今度も世界を騙しているのだ」と。
だが本当にそうだろうか。
壮絶なサイバー・情報戦争
日本の私たちはこの問題を、単に「トランプ対バイデン」という構図でとらえるべきではない。何故ならこれは単にアメリカ一国の問題でなく、わが国と周辺国にとって決して他人事でない、米中間で進行中の、壮絶なサイバー・情報戦争だからだ。
今回の選挙で世界が見せつけられた最大の衝撃は、グーグルやフェイスブック、ツイッターなどのソーシャルメディア企業が、いつのまにか政府や伝統的なメディアを遥かに超える力を持ってしまった現実だろう。
アメリカの上院司法委員会は11月に公聴会を開き、フェイスブックとツイッター、グーグル社のCEOを、選挙期間中の不当な検閲や特定のアカウントを理由なく凍結した行為について批判した。
ツイッターとフェイスブックは、バイデン側のスキャンダル報道を閲覧不可にする一方で、トランプ大統領と共和党支持者のアカウントを凍結し、拡散を阻止した事を追求されている。また、米国行動科学研究所がアリゾナ、フロリダ、ノースカロライナの3州で大規模な有権者調査をした結果、グーグルがバイデン側に有利になるよう検索結果の順番を操作し、民主党支持者のネット画面にのみ「投票を促す表示」を出していたことが明らかになった。
常軌を逸したテック企業の言論統制は、以前から各国で問題になっていた巨大テック企業のやりたい放題を、国家安全保障問題にまで引き上げた。
今回の不正疑惑については、国内だけでなく外国政府が関わっている証拠が当局に提出されたからだ。
12月17日。ピーターナヴァロホワイトハウス大統領補佐官が発表した、接戦6州における大統領選挙の調査報告は、民主党陣営の大規模な不正を明らかにした。50の訴訟と関係者(郵便局員や投票所職員、選挙監視スタッフ、民主党員、共和党員ら)数千人が自ら署名した宣誓供述書を元に、州の公聴会での証言や異議申し立て、実名入りの証拠映像、法律家の分析、投開票や統計データなどが詳細に検証された結果、不正が断定され、裁判所に徹底調査が要求されたのだ。
この6州は1月6日までに、選挙結果の合法性を証明するか、再集計した合法票を出さなければならない。
検証項目の中でも、全米28州で有権者の20%が利用した電子投票機に関する箇所は、安全保障問題を激しく炎上させた。部品の大半が中国製の上、当該企業が2018年に中国系企業が出資する投資会社に買収され、大統領選の1ヶ月前にも4億ドル(400億円)の融資を受けていた事で、今回の不正の数々に、外国政府が深く関わっている事が明らかになったからだ。
加速する米中戦争
世界中どこでも、外国勢力による選挙介入は国際法(不介入原則違反)で禁止されている。特に近年はデジタル技術の進化によって、候補者のイメージ作りや有権者の意思決定、投開票に至るまで、一度介入されればその影響は大規模だ。
これは日本も他人事ではない。例えば憲法改正の国民投票の際、デジタルプラットフォーム企業や外国勢力の意図的な介入を阻止できる体制が、果たして今の政府にあるだろうか?
過去何度も不正選挙が繰り返されている上に、野放しのソーシャルメディアが年々その影響力を拡大するアメリカで、2期目の選挙戦を警戒していたトランプ大統領は先手を打った。2018年に「選挙への干渉が明らかになった外国企業及び個人に制裁を課す」ための「大統領令13848」に署名しておいたのだ。
11月12日、トランプ大統領は中国による国防の脅威を理由に「国家緊急事態」を宣言、それを受けて12月3日に国務省は、最大10年だった中国共産党員とその家族の米国入国ビザを1ヶ月に短縮した。続いて18日に商務省が、米国内で中国のための軍事開発を行なう5大学(国防七子と呼ばれる)を含む、60の組織と企業を「制裁リスト」に加え、実質的な禁輸措置を開始している。
大統領選の陰に隠れた米中間戦争が加速するにつれ、自国の知見や技術が軍事利用される事への警戒が強化されているのだ。(日本にも国防七子と学術協定を結ぶ大学が45校あるが、見直しを検討しているのは16校のみと、危機感は緩い)
SNSが国家の脅威に
12月23日。トランプ大統領は通信品位法230条が、国家安全保障と選挙制度への脅威になっているとして、国防権限法に拒否権を発動した。
230条はSNS上の言論に関し、企業側には一切責任を問わないという企業保護のルールだが、これを廃止する方向で進めるという。
今までは、SNSはメディアではなくプラットフォームだからという理由で規制されずにいられたが、世論を自在に動かせるほどの存在に(ツイッター登録者数1.7億人、フェイスブック登録者数27.4億人、グーグル検索件数35億件/日)なった上、外国政府との深い繋がりが明らかになった今では、国家の脅威になるからだ。
廃止されれば書き込み内容について責任を取らされるので、今回の言論統制は「国家反逆罪」に該当する可能性が高い。反逆罪は極刑だ。そうなれば当局はSNS企業に対し、営業停止と資産凍結、財産没収を実行するだろう。この動きを警戒してか、フェイスブックのCEOマークザッカーバーグ氏は保有する2億8000万ドル分(280億円)の自社株を売却、その後も毎日1210万ドル(12億円)売り続けている。
米国の混乱は日本の近未来
日米マスコミは12月18日に全米の州が選挙人結果を政府に提出した時点で「バイデン勝利確定」を流しているが、矮小化された報道には注意が必要だろう。結果が出るのはまだ先だ。2021年1月6日の開票結果に対し上院議員1名と下院議員1名が二人で異議を申し立てると、すべての選挙結果は無効になる。その場合各州議会が1名ずつ選んだ新しい選挙人が、大統領と副大統領を選ばねばならない。例えバイデンになったとしても、トランプが「反乱法」を発動すれば舞台は軍事法廷に移るため、まだまだ混乱は続くだろう。
中国の脅威と、言論を支配するテック企業の暴走によって、アメリカが事実上のサイバー・情報戦争の真っ只中にあることは、1月20日に誰が大統領に就任しようが変わらない。そしてそれは日本を含む、多くの国の近未来になりうるだろう。
社会のデジタル化が加速するほどに、矮小化された報道の裏で起きている現実を見極める眼が、私たちに求められている。
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