【ゲノム編集技術を知る】ハサミを作るため遺伝子組換えを利用?2021年2月2日
遺伝子組み換えは外から新たな遺伝子を入れる技術で、その農産物が持っていない新たな機能を利用する「足し算」の技術であり、一方、ゲノム編集は特定の位置のDNAを切断し、一部のDNAを失わせることによる突然変異を利用して品種改良を行う「引き算」の技術だと言われる。ただし、前回紹介した農水省のリーフレット「ゲノム編集」では、植物でのゲノム編集では遺伝子組換え技術が使われているとある。一体どういうことなのだろうか。
ゲノム編集技術には、標的とするDNAを切断し自然修復の過程で起きた突然変異を利用する「タイプ1」と、切断後に変異させたい手本として短いDNAを導入する「タイプ2」と、別の生物種の遺伝子を挿入する「タイプ3」に分かれる。
タイプ2と3は遺伝子を挿入するため、ゲノム編集であっても外来遺伝子を組み込む遺伝子組換え技術だとして安全性審査が必要とされている。
一方、タイプ1は切断するところを決めて切っただけで、その後に起きる変異は自然界と同じであるとして、厚生労働省は「従来の育種技術でも起こりえるリスクにとどまる」として安全性審査は必要ないとした。ただし、開発者による届け出と公表が必要だとされた。
現在実用化に向けて研究が進められているのは、この「タイプ1」である。研究者によるとタイプ2や3による品種改良はまだ先になるとの見方が有力だという。
ところで、農水省のリーフレットによれば植物は細胞壁という硬い組織をもっているため「植物のゲノム編集では、はさみの役割を果たすタンパク質やmRNAを直接細胞に入れるのは現在のところ困難です」と説明されている。mRNAとはゲノム中の遺伝情報を写しとった物質であり、CRISPR/Cas9(クリスパー・キャスナイン)であればCRISPRである。つまり、植物の細胞にはクリスパー・キャスナインを直接入れることはできないということであり、ではどうするのかというと「遺伝子組換え技術を使ってはさみの役割を果たすタンパク質の遺伝子を一旦ゲノム上に導入するのが一般的です」と説明している。
そのうえで、この遺伝子が植物のゲノムに組み込まれた後、ここからはさみの役割を果たすタンパク質が作られ目的の遺伝子を切断する、という流れになると説明している。
ここはこれだけでは分かりにくいので同省ウェブサイトでの奥崎文子玉川大准教授の説明(ゲノム編集技術を解説:あなたの疑問に答えます)を参考にすると、動物細胞には細胞壁がないのでクリスパー・キャスナインを細胞膜を通してダイレクトに入れることができる。しかし、植物では「細胞壁が邪魔」(奥崎准教授)となるため、クリスパーとキャスナインそれぞれの遺伝子を目的とする植物細胞内に遺伝子組換えの手法で入れ込むのだという。
そうすると、組み込まれた遺伝子が発現して対象とする植物細胞内でクリスパー・キャスナインが作られ、それが標的とする部分にくっつく。そして、DNAを切断して変異を起こし、期待された機能が得られるということになる。
つまり、植物のゲノム編集では、ハサミの役割を果たすタンパク質の遺伝子などを導入するという技術で行われており、その時点では「遺伝子組み換え体」ということになる。ただし、クリスパー・キャスナインは切断という役目を終えたら不要になるため除去される。
その方法は交配による。ゲノム編集が成功した植物と従来の植物を交配させれば、図のように後代ではクリスパー・キャス9の遺伝子は含まず、ゲノム編集によって起きた変異だけが残るというものが4分の1の確率で出てくる。メンデルの法則である。これをしっかり選べばいいのだという。
奥崎准教授は「ゲノム編集作物を商品化する際には、クリスパー・キャス9の遺伝子が残っていないことはしっかりと調べます」と強調している。農林水産省の12月のシンポジウムでも移入したDNAが残っていないかの検査はどのように行っているのか、といった質問が出た。厚労省や農水省の担当者のよると、PCR検査やサザンハイブリダイゼーション法といった少なくとも2つの異なる方法で確認しているという。
(関連記事)
【ゲノム編集技術を知る】
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(119) -改正食料・農業・農村基本法(5)-2024年11月23日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践 (36) 【防除学習帖】第275回2024年11月23日
-
農薬の正しい使い方(9)【今さら聞けない営農情報】第275回2024年11月23日
-
コメ作りを担うイタリア女性【イタリア通信】2024年11月23日
-
新しい内閣に期待する【原田 康・目明き千人】2024年11月23日
-
基本法施行後初の予算増確保へ JAグループ基本農政確立全国大会に4000人 生産者から切実な訴え2024年11月22日
-
「適正な価格形成」国関与で実効的に JA群馬中央会・林会長の意見表明 基本農政確立全国大会2024年11月22日
-
JAグループ重点要望実現に全力 森山自民党幹事長が表明 基本農政確立全国大会2024年11月22日
-
農林水産省 エン・ジャパンで「総合職」の公募開始2024年11月22日
-
鳥インフル 米モンタナ州、ワシントン州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年11月22日
-
鳥インフル オランダからの生きた家きん等 輸入を一時停止 農水省2024年11月22日
-
11月29日「ノウフクの日」に制定 全国でイベント開催 農水省2024年11月22日
-
(411)「豚ホテル」の異なるベクトル【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年11月22日
-
名産品のキャベツを身近に「キャベツ狩り選手権」開催 JA遠州中央2024年11月22日
-
無人で水田抑草「アイガモロボ」NEWGREENと資本業務提携 JA三井リース2024年11月22日
-
みのるダイニング名古屋店開業2周年「松阪牛ステーキ定食」特別価格で提供 JA全農2024年11月22日
-
【スマート農業の風】農業アプリと地図データと筆ポリゴン・eMAFF農地ナビ2024年11月22日
-
自動運転とコスト【消費者の目・花ちゃん】2024年11月22日
-
イチゴ優良苗の大量培養技術 埼玉農業大賞「革新的農業技術部門」で大賞受賞 第一実業2024年11月22日
-
「AGRIST Aiサミット 2024」産官学金オープンイノベーションで開催2024年11月22日