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【クローズアップ:WTO】15日にも新事務局長 機能不全の解消なるか2021年2月12日

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難航していた世界貿易機関(WTO)の新事務局長が15日にも確定する。WTO機能不全から脱せるのか。日本は、これを機会に通商協議の多国間主義復活を主導すべきだ。(敬称略)

初のアフリカ出身女性

WTOトップとなるのは、ナイジェリアのオコンジョイウェアラ元財務相だ。WTO史上初のアフリカ出身、初の女性就任となる。約半年間に及ぶトップ不在がようやく解消する。

164の加盟国・地域の同意を得て就任する。

同氏は経済や開発の専門家だ。外相や財務相、世界銀行専務理事も務め国際的な知名度は高い。直近は、予防接種を支援する国際組織の理事長として新型コロナウイルス対策に尽力してきた。重要な国際機関の重責を果たすキャリアは十分だ。自由貿易の推進派として知られるが、通商分野の経験は少なく、複雑な国際利害が絡み合うWTO運営で実際に手腕が発揮できるかは未知数だ。

中国の影響どう解消

事務局長選がここまで長引いたのは、トランプ政権下で中国の影響力強化を警戒したためだ。人事レースで最後まで残った二人はオコンジョイウェアラと韓国の候補・愈明希(ユ・ミョンヒ)通商交渉本部長。韓国候補を米国が支持し、アフリカ候補をWTOが推薦し日本、中国、EUなどが賛同していた。最終的に愈が立候補辞退で決着した。

ただバイデン大統領になっても米中対立は解消していない。トランプ前政権は、WTOが中国など新興国に有利なルールを先進国に押しつけていると批判。非協力的な態度を続けてきた。米新政権はそこまで露骨な妨害はしないだろうが、WTOを中国寄りとみているのは同じ。新事務局長が就任会見でどういった発言をするのか。さらに米中貿易紛争にまで言及するのかに注目が集まる。

期待外れのWTO四半世紀

通商推進の司令塔WTOは1995年発足から四半世紀を過ぎた。だが機能不全が続き、世界は2国間協議に軸足を移した。新体制を早急に確立し、食料安全保障を担保する輸出規制の透明化など改革を通じて指導力を回復すべきだ。

WTOは今、存亡の危機に立っていると言っていい。深刻な機能不全に陥った背景には、「新冷戦」とも称される米中経済紛争の影響が大きい。新型コロナで打撃を受けた世界経済の回復には、国際的な視野に立ったWTOの指導力が欠かせない。

コロナ禍の新ルール必要

WTO加盟の有志13カ国・地域による昨年の共同声明に注目したい。日本やカナダなど改革に前向きな通称「オタワグループ」が閣僚会合を開いた。声明では農業貿易の悪影響のある緊急措置撤回など貿易規制の透明性確保など6項目の行動を盛り込んだ。新型コロナの世界的な感染拡大で、農産物の輸出規制に踏み切る国もあり、食料安全保障の危うさが改めて浮き彫りになった事を直視したい。

米中対立の中でコロナ禍が襲い世界の貿易秩序は乱れる一方だ。自国最優先の保護主義や管理貿易の防波堤となるべきWTOの責務は、二つの側面で一段と重くなる。

紛争処理の「司法」動くか

一つは世界共通の通商ルールを築く「立法」である。その中心である貿易交渉ドーハ・ラウンドは先進国と途上国の対立で漂流し続けている。そこで、2国間や複数国間の自由貿易協定(FTA)が相次ぐ。メガFTAである環太平洋連携協定(TPP)での合意事項を世界に広げ、WTO機能を代替させるとの考えもある。だが本末転倒な議論だろう。TPPもFTAの一部に過ぎない。

いま一つは貿易紛争を解決する「司法」である。直近の動きでは日韓紛争に伴い韓国が日本の輸出管理を不当だとして裁判の一審に当たる紛争処理小委員会(パネル)の設置を求めた。議論中の案件で韓国の態度は一方的と言わざるを得ない。だが「司法」の役割も果たせない状況だ。最高裁に当たる常設上訴機関の上級委員会で、米国が次期委員の選出を拒み機能停止となっている。

WTO再起動には、指導力を備えた新事務局長が鍵を握る。任期途中で辞任したアゼベド事務局長はブラジル出身で、中国など新興国の支持を得て8年前に就任した。しかし、ドーハ・ラウンド(多角的貿易交渉)はその後も難航を極め、目立った成果は出せなかった。コロナ禍の今、中国の国際機関への過度の影響力に警戒が強まっている。その延長で、今回の新事務局長選でも水面下で米中の激しい対立が続いた。

日本は存在感発揮を

WTO機能不全の現状は、逆に言えば持続可能な世界経済に向け新たな国際秩序形成の機会でもある。日本は食料安全保障の確立を念頭に輸出規制の透明化などを求め、WTO改革に積極的に関与し存在感を発揮すべきだ。

それにしても国際機関で日本の存在感は薄い。いつの間にか中国が多くの分野で人材を配している。今回のWTO事務局長選でも浮き彫りになったのは韓国の国際戦略だ。韓国は潘基文(パン・ギムン)が国連事務総長を務めるなど、着実に成果を収めている。

こんな実態では、国際舞台で日本の主張は通らなくなる。世界3位の経済大国として、WTO改革で食料安保を念頭に力を発揮すべきだ。

バイデンの力も問われる

トランプ政権下で、実質的に国際協調の主導的役割を担う20カ国・地域(G20)も米中激突の影響で機能不全に陥っていた。G20の結束力弱体化は世界の「分断」を示す。これはWTO機能低下と連動したものだ。そこで、新事務局長就任を機に、WTO改革を断行し、多国間協議の原点回帰を目指すべきだ。

G20は、当時の民主党・オバマ米政権が音頭を取り、2008年のリーマン・ショックに伴う世界的な経済破たん回避を狙い、先進国に加え中国など新興国が参加して始まった。世界全体の国内総生産(GDP)の約9割、人口も約45億人と6割を占める。中東、南米、アフリカと広範囲に及ぶ。〈分断〉トランプ時代を経て、米国は再び民主党・バイデン政権に政治の振り子が揺れ戻った。

G20の協調姿勢は取り戻せるのか。〈分断〉から〈協調〉へ。そうなれば、当面の課題解決へ大きく前進する。一方で、利害対立が表面化すれば議論は空中分解し、G20の存在感そのものが問われるだろう。WTOと実質的に世界を牽引するG20。それが機能するかどうかは、バイデン大統領の実力も試されているのだ。

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