【クローズアップ バイデン外交始動】G7でワクチンと対中2021年2月22日
米新政権発足から1カ月。先進7カ国のG7でバイデン外交が本格始動した。柱は、新型コロナウイルス禍でのワクチン対応と対中戦略の強化だ。「分断」から「協調」へ。実行力が試されるのはこれからだ。(敬称略)
![バイデン氏](https://www.jacom.or.jp/nousei/images/seri20082531_1.jpg)
まず先進国G7主導
先週末19日の先進7カ国首脳会談、G7は主要国のトップ交代が相次ぐ中で一堂に会す重要な会議となった。議長国は英国だ。コロナ禍でオンラインとなったが、(1)コロナ対応(2)経済危機対策(3)気候変動の三つを主要テーマに議論を深め「2021年を多国間主義のための転換点とする」と宣言した。
ちょうどバイデン米政権発足から1カ月の節目と重なり、新顔となる日本・菅首相、イタリア・ドラギ首相も初顔合わせ。G7の前身は1970年代前半の石油ショック後の世界経済混乱を脱するための西側主要国の集まり。だが、二つの意味で、存在感に疑問符が付いていた。
もっとも大きいのは中国の台頭。やがて中国など新興国5カ国はBRICSをつくる。主要国会議は、2008年のリーマンショックに直面し、先進国に新興国も加えた20カ国・地域によるG20が実質的な主導権を担うようになる。
逆風のもう一つは、4年前のトランプ米政権誕生以降の「自国第一主義」の横行。G7は2019年、20年と事実上の機能不全に陥った。今回のバイデンの国際舞台への米復帰は、まずは今回の首脳会議で内外にアピールした。特にコロナ対策で先進国の姿勢を示したことは意義深い。
だが、G7の役割を再考すべき段階だ。日米は当然としても、英独仏の欧州主要3カ国に加え、GDPでも割合が大きくないカナダ、イタリアが加わる意味が薄れている。
米コロナ感染死50万人超え
喫緊の国際的な課題はコロナ対策だ。世界のコロナ感染は1億1000万人を超え、死者は250万人に迫る。特に深刻なのは、トランプ政権下で初動対応の遅れが致命的となっている米国だ。感染者は2800万人に迫る。毎日7万人前後が新たに感染している。今週中に国際ニュースになるのは、ついに米国のコロナ感染死が50万人の大台と突破することだろう。死者50万人は、米国史上、今から160年前に始まり4年続いた悲劇的な内戦、南北戦争以外にはない。
コロナ禍は米大統領選にも大きな影響を及ぼした。トランプはコロナ敗戦で再選を阻まれたが、得票数は7400万票と前回を大幅に上回り、米国内の根強いトランプ人気を裏付けた。
バイデンはコロナ封じ込めに政権の浮沈がかかる。1年半後の2022年11月には米国議会中間選挙も待つ。大きな切り札は迅速なワクチン接種だ。G7は、世界保健機関(WHO)が進めるCOVAX(コバックス)と呼ばれるワクチン共同購入・分配の国際的枠組みへの巨額な資金支援を決めた。今後の対応が注目される。
〈パンデミック〉から〈エンデミック〉へ
3月11日でWHOパンデミック宣言から1年を迎える。世界的大流行は、ワクチン接種が進むにしたがって下火となるだろう。問題はその期間だ。途上国までワクチンが行き届くまでには数年かかるとの見方さえある。
そうなると、新型コロナの流行は何年も続き、恒常的に社会に存在する〈エンデミック〉になる。経済格差に伴う、ワクチン接種の有無を迅速に解消しない限り、この〈エンデミック〉はなかなか収まりそうにない。
対中4カ国「クワッド」確立
G7での主要な議論の一つが対中国問題だ。既にバイデン、習近平米中首脳電話会談では2時間に及んだが、互いの主張は平行線をたどっていた。
膨脹主義を続ける中国は、1年前のマスク外交に続き、今度はワクチン外交で対外的影響力、特にワクチンがなかなか行き届かない途上国に照準を合わせ、独自のワクチン供給を進めている。これに西側が有効な対抗策を示さなければ、格差問題は先進国への不満となって向かってくるのは間違いない。
今後の経済成長エリアはインド太平洋だ。国家独裁資本主義で台頭する中国とどう対峙するのか。ここでカギを握るのが英語で4を意味するQUAD(クアッド)と称される日米豪印4カ国による対中包囲の枠組みだ。安全保障、経済的な利害確保にも欠かせない。
今後、この「クワッド」の4字が頻繁に国際用語として登場することになるだろう。一方で中国は3月5日から国会にあたる全人代で、コロナ克服と経済再生を国内外に誇るはずだ。国際イベントの北京冬季五輪開催も1年を切った。コロナの行方は、日米豪印vs中にも大きな影響を及ぼす。こうした中で今回、やや時代遅れとなったG7の役割、実行力が問われた。
菅「五輪開催」国際公約
菅はG7で7月下旬の東京夏季五輪開催の決意を示し、首脳共同声明でも「安全・安心な形で開催するという日本の決意を支持する」ことが盛り込まれた。これは日本政府の国際公約でもある。
菅は開催有無の退路を断った。では〈安全・安心〉が担保されなかったらどうなるのか。まずは国内のワクチン接種が遅すぎる。世界でも特定の先進国のみが先行している。パンデミックが去っても、先の〈エンデミック〉つまりはウイズ・コロナが続く。菅政権による薄氷の政権運営はいよいよ正念場を迎える。
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