【クローズアップ:国連食料システムサミット】酪農団体は栄養貢献で共同声明 実態は生産と環境両立に苦慮 農政ジャーナリスト・伊本克宜2021年4月1日
9月開催の国連食料システムサミットに向け、具体的動きが加速してきた。国際酪農団体の共同声明にJミルクも支持を表明。農水省「みどりの食料システム戦略」も進む。だが生産維持と環境保全の両立に苦慮しているのが実態だ。
まずスケジュールありき
2050年の脱炭素社会、「カーボンニュートラル」実現に向け、国際的な動きが一気に進む。ここで、今後の国際スケジュールを見てみよう。
・4月 米国主催の気候サミット
・5月 農水省「みどり食料システム戦略」まとめ
・6月 主要7カ国G7でも気候変動問題論議
・7月 国連食料システムサミット閣僚級プレ会合
・8月 生物多様性 新目標交渉
・9月 国連食料システムサミット
・10月主要20カ国G20サミット 生物多様性条約COP15
・11月気候変動枠組み条約COP26
・12月東京栄養サミット
あらためて驚くのは、一気呵成で気候変動、国連持続可能な開発目標(SDGs)関連の国際重要会議が、まさに階段を上がるように毎月設定されていることだ。むろん、経済大国・日本の発言は国際公約として記され着実な実行義務を負う。
SDGsは当初、日本の農業分野ではぴんとこなかったが、ここに来てにわかに具体的な対応が迫られている。最大の要因は米国が、経済成長重視のトランプから環境保全のバイデンへ政権交代が大きい。これで世界が一挙に環境重視で経済成長を目指すグリーン社会に進み出した。日本は菅政権誕生で、世界の潮流を踏まえた脱炭素社会へ経済政策の舵を切った。
まずSDGs2030年までの目標
脱炭素社会へ2050年は30年もある。まだまだ先のことだと考えがちだが、まずは2030年のSDGs目標年次の対応が問われる。既に10年を切り、年時ごとに何をどうやるのかが迫られる。
食料首脳会議の肝は〈システム〉の名称
勘違いしない方がいい。世界の飢餓問題解決へ1995年のカナダ・ケベックシティーでの国連食糧農業機関(FAO)設立50周年記念式典をキックオフに、翌1996年に世界で初めて開いた世界食料サミット。8億人の飢餓人口の半減を目指した。それと今秋のニューヨークでの国連食料システムサミットとは"別物"と言うことだ。
ポイントは名称の〈システム〉。農業生産の持続可能性、気候変動と絡めながら、食料の生産から消費までの課程、在り方つまりは〈システム〉を検証し見直していこうというわけだ。当然、飢餓人口なども言及するが、重点は地球的視野の中で環境保全となる。
環境負荷〈戦犯〉畜酪の危機感
こうした文脈で、今回の国際酪農乳業の共同声明を読み解く必要がある。特に牛は糞尿の排出に伴うメタンガス、げっぷ、多くの穀物を消費し農地を有するなど、環境負荷の視点で〈戦犯〉として厳しい目が向けられる。供給面では食肉や牛乳が植物由来の代替ミート代替ミルク、細胞からの培養肉など、脱畜酪とも見られるフードテックの進化が進む。消費面ではベジタリアン、完全菜食主義者のビーガンも欧米を中心に増えつつある。
酪農は食料、栄養提供で不可欠
国連食料システムサミットを踏まえ、国際酪農乳業組織が3月末に共同声明を出し、国内の酪農団体と乳業メーカーなどで構成するJミルクも支持を表明した。
声明の中では、酪農はSDGsに関連し「飢餓ゼロ」「貧困の緩和」「ジェンダー平等」の面で大きく貢献していると強調。世界の人々に安全で栄養価の高い食品を日々提供しているとした。牧畜業は途上国をはじめ地域経済の自立を担い、「ジェンダー平等」に関連しては世界で8000万人の女性が酪農セクターに従事していると明示した。
日本型ローカーボン酪農の模索
脱炭素の農業分野では、畜酪の扱いが大きな焦点となるのは間違いない。
問題はSDGs実現や脱炭素社会が耕地の狭い日本の酪農で、環境保全と両立しながらどう実現するかという点だ。既にJミルクは持続可能な産業としての2030年目標の酪農乳業の長期戦略ビジョンを策定し、SDGs対応にも具体的に言及している。
ただ「総論賛成」の段階にとどまっているのが実態だ。2021年春にまとめた農水省の新酪肉近生産目標でも2030年生乳生産780万トンと現行より50万トン増産を明記した。
旺盛な国産牛乳乳製品の応じるため、増産こそ問われているのだ。しかも、北海道偏重の生産を転換し、家族酪農中心の都府県の生産基盤維持、拡充を最大の課題として掲げた。こうした中での、国連食料システムサミットへの対応だ。
あまりに環境保全を強調しすぎ、生乳生産にブレーキが掛かり、需要不足分を輸入乳製品で賄うとなれば、まさに"本末転倒"である。飼育密度が問われるアニマル・ウエルフェア(動物福祉)でも、あくまで〈日本型〉があるべきだ。
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