【クローズアップ:初の日米首脳会談】「中国」「脱炭素」菅に覚悟迫る 農政ジャーナリスト・伊本克宜2021年4月19日
初の日米首脳会談は同盟関係深化を確認した。対中、気候変動など、軍事に加え経済安全保障問題に焦点が当たった。トップ会談で一つの区切りが付いた。今後、牛肉など通商問題の論議は今夏以降に本格化する。
日米共同記者会見(写真:首相官邸)
「ヨシ」「ジョー」関係は本物か
外交不得手の菅義偉首相にとって、バイデン大統領との会談は、最重要かつ、越えなくてはならない大きな関門だった。
米国は綿密な情報、調査によって日本の首脳の好み、くせ、何を言えば喜ぶのかを調べ尽くす。典型はファーストネームで呼び合うことだ。会見でバイデン自ら「ヨシ」と菅の名前を親しみ込めて呼んだ。それは菅を個人的に友人として認めたこととは全く違う。日本の政治家がそう呼ばれるのを喜ぶ姿を知っているからだ。まず「前菜」で気分を良くさせ、メインディッシュで米国のペースに引き込めばいい。
ただ、共通点が多い2人の相性が良いのは確かだろう。地方議員出身、世襲でもない。地味で実務的。ナンバー2を長年こなしてきた。一方はパフォーマンス、経済政策に自分の名を付け悦にいった安倍晋三、方や屈指の演説家として名をはせたオバマの下で、裏方を務めたご両人である。
つまりは「ヨシ」「ジョー」関係はうわべの姿と言っていい。
米民主党政権時は要警戒
歴史的に見て、対米関係は共和党政権時に比較的に良好だった。典型はロン・ヤスのレーガン、中曽根康弘の関係だ。上背があり英語が堪能で頭脳明晰な中曽根は、得意の外交、防衛で思わず「日本は不沈空母」と米マスコミに口走る場面はあったものの、日米関係は蜜月となった。小泉純一郎、ブッシュ、さらには前任の安倍晋三、トランプと共和党大統領とは関係良好だった。
一方で民主党政権時には大きな通商交渉が動く。日本農業の分水嶺、コメ部分開放を迫られたクリントン時の1993年のガット農業交渉、オバマ大統領時の環太平洋連携協定(TPP)参加、合意などがある。日米首脳共同声明では2013年に安倍、オバマで、TPP参加の場合は、全ての物品が交渉対象となるとした。
それにしても、「とても生産的な話ができた」とする共同会見でのバイデンの笑みが気にかかる。対中で日米の同盟深化、「台湾」の明記、日本は応分の防衛負担を明言した。バイデンはトランプと違いトップダウン型ではない。優秀なスタッフが振り付けをするのに従う。ただ、老練な政治家であり、トップとしてのメリハリはつける。日米共同声明の具体化はこれからだが、お膳立ては整った。後は「約束したではないか」と対日攻勢に出かねない。
キーストーン沖縄と台湾
共同会見でバイデンは「我々は中国からの挑戦に共に対応し、21世紀も競争に勝つことを証明する」と語気を強めた。むろん、中国は猛反発している。切り離しを意味する米中デカップリングに入りつつあるのかも知れない。
対中警戒を改めて世界の経済大国・日米で明らかにする中で、かつてのオバマ政権時に米側が使った礎石を意味する"キーストーン"の表現を思い出した。膨脹主義の中国に対し南シナ海、東シナ海の安全保障は極めて重要だ。この場合の要石は地政学的にやはり沖縄の役割は大きい。もともと東南アジア有事の米側の重要軍事拠点の役割を担うが、これでますます沖縄県民の願いとは反対に、軍事的な要衝の位置づけが強まるのは間違いない。
そしてもう一つの要石は台湾だ。対中防衛のレッドラインとなる。台湾有事は一挙に、アジアでの米中軍事バランスが崩れることを意味する。
中国でのケリー米特使
今回の首脳会談での大きなテーマは二つ。対中国と絡めた「経済安全保障」と「気候変動」だ。今週22日には米主催の気候変動サミット。米政権は「脱炭素」へ2030年削減目標を早く出すように迫った。これに応じ日本は、同サミットまでに具体的数値を示すと約束した。むろん、農業分野も農水省の「みどりの食料システム戦略」の一環で数字だけが独り歩きするようになりかねない。
ワシントンでの日米首脳会談の同じ頃、もう一つの重要な外交ミッションが動いていた。オバマ政権で国務長官を務めたケリー特使が訪中し、気候変動で米中協調の道を探っていた。気候変動サミットへの習近平主席の参加を求めるためだ。米中会談の陰の主役が中国だという象徴的な出来事でもある。ただ、国連を軸に最大の国際的な課題である気候変動を巡り、米中の主導権争いは激しさを増し、習は先の気候変動への参加をいまだに明らかにしていない。
日米農産物交渉、牛肉SGの行方
日米首脳会談の同じ頃、日米農業問題も一つの変化を迎えていた。日米貿易協定に基づき米国産牛肉に発動していた緊急輸入制限措置(セーフガード=SG)は1カ月の発動期限を終えた。
関税は38.5%から新年度の関税基準25%に一挙に13.5ポイントも下がる。輸入牛肉は日本市場を舞台に米豪で争う構図だが、豪州の干ばつを尻目に今後、米国は一気に対日輸出攻勢に出るだろう。
日米首脳会談では「中国」「脱炭素」などの重要なテーマに時間を割かれ、農業問題は俎上に上らなかった。だが、首脳会談終了と共に、SG発動基準の見直し協議が本格化する。日米両政府は6月中旬までの合意を目指す。通商問題を担当する米通商代表部(USTR)のスタッフも順次決まり、交渉体制も整う中で、日米通商再協議の準備も夏以降、本格化する見通しだ。農業問題で日米交渉はこれからが本番だ。今回の菅、バイデン会談はその"号砲"とも見ていい。
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