初の国政選挙『全敗』-〈政局〉直結の「政治とカネ」直撃 農政ジャーナリスト・伊本克宜【検証:菅政権14】2021年4月26日
菅政権初国政選挙である4月25日の北海道、長野、広島の3選挙は、自民『全敗』に。「政治とカネ」が逆風となった。五輪、コロナ、景気の政権3点セットはどれもうまくいかない。選挙結果は今後、「政局」に発展しかねない。
(写真:首相官邸より)
解散巡り会期末に向け緊迫
25日は縁起の悪い〈仏滅〉だった。そんな日に大事な国政選挙をせざるを得ないほど、政権は追い込まれた。今後の政治日程は以下の通り。菅首相による解散・総選挙の選択の幅はさらに狭まった。菅はカードをいつ切るのか。当面は国会最終盤での野党側の内閣不信任案提出を巡り、解散・総選挙の有無を含め緊迫した政治情勢が続く。
・6月16日 通常国会会期末
・7月4日 東京都議選
・9月5日 東京五輪・パラリンピック閉会
・9月末 自民党総裁任期
・10月21日 衆院議員任期満了
〈仏滅選挙〉広島でも与党冷水
3選挙のうち、もっとも注目されたのは参院広島の再選挙の行方だ。「政治とカネ」疑惑の象徴とされたからだ。広島の敗北は、単なる一選挙区の負けにとどまらない。
25日の三つの国政選挙は、在宅起訴となった吉川貴盛元農相の議員辞職伴う衆院北海道2区、立憲民主党参院幹事長だった羽田雄一郎コロナ感染での急逝による参院長野の衆参補選。参院広島は公選法違反の有罪判決が確定した河井案里(自民離党)の当選無効による再選挙。北海道は自民が候補者を立てず不戦敗、長野は立憲の弔い合戦のため勝敗は決まっていた。問題は残る広島の行方だった。
広島は分厚い保守層で池田、宮沢ら歴代首相も輩出した自民党の牙城の一つ。次期総裁選有力候補の岸田前政調会長が地元の広島ということもあり、陣頭指揮を執り自民議席死守の背水の陣を敷いた。だが、「政治とカネ」の逆風はこの厚い保守地盤でも止むことはなかった。
広島敗北は、まず地元責任者の岸田への批判となる。つまりは次期総裁選に大きな疑問符が付いた。次に選挙を仕切った二階自民幹事長への批判、さらには菅政権初の国政選挙ということで、無敗神話を持つ先の安倍と比べた〈選挙に弱い菅〉との烙印が自民党内で広がりかねない。ただ人柄の良さからか、岸田には同情論もある。
数日前から「全敗」情報流れる
実は25日投開票の数日前から「広島敗北」の見方が広がっていた。朝日新聞は1週間前の4月19日付1面で〈広島 野党系やや先行〉と打った。読売は〈横一線〉としたが見出しで名前は野党系を先に出した。マスコミ業界では〈横一線の〉場合に先に名前を出した方がわずかに有利との判断がある。共同通信は全くの互角との見方を示していた。
投開票の数日前、筆者は毎日新聞の論説幹部と選挙情勢で話を交わした。すると「野党系の背中を自民新顔が迫っている。8対2の確率で自民が負け」と分析し、大きな要因として、集票マシーンの自民県会議員が「政治とカネ」の影響で動けないと説いた。
結果はその通りになった。
1週間前の18日付、地元紙・中国新聞に岸田の写真を大きく扱った自民の全面広告が出た。このことは、逆に自民党が追い詰められている緊急事態との見方も広がった。
菅原前経産相と〈豪腕〉西川引退
「政治とカネ」と絡め二つの話題も。補選、再選挙直前の先週末に菅原一秀前経産相が地元で現金提供の疑惑が浮上し、東京地検特捜部が再捜査に入ったとの情報が流れた。自民党関係者からは「選挙戦に影響しかねない。最悪のタイミングだ」との恨み節が相次いだ。
もう一つ。吉川元農相と共に鶏卵金銭授受疑惑などもあり内閣参与をやめた西川公也が週末23日に次期衆院選の不出馬を表明した。〈豪腕〉農林族として知られ、反対派を押し切ってTPP参加、急進的な農協改革を主導したが、事実上の政界引退だ。ただ、地元・栃木の県畜産協会会長の続投などには意欲を示した。何らかの政治の〈足場〉を引き続き維持したいとの思惑がにじむ。
コロナ死者1万人の大台
今回の国政3選挙〈全敗〉はコロナ対策への政権批判とも受け止められている。
菅政権はコロナ禍の行方で大きく揺さぶられてきた。ワクチン接種も後手に回り、順調に進んでいない。感染は首都圏、関西圏を中心に変異株が広がり、収束のメドが一層不透明感を増す。
大きなニュースは全国のコロナ死者がついに1万人の大台を超す。米国が南北戦争と並び60万人に迫る史上最悪の死者数を数えていることから比べれば桁違いだが、病床数の逼迫は死者、重傷者が一段と増えかねない医療緊急事態を裏付ける。
コロナ死者1万人は、有効な対策を打てない菅政権への批判となって政権にさらなる打撃を与えかねない。
「菅で戦えるのか」
今回の〈全敗〉で出てくるのは「菅で次期衆院選は果たして大丈夫なのか」と言う声だ。
まずは負けた要因を求める〈戦犯〉捜し。
広島選挙区は菅、二階とも選挙応援に入らない異例の展開となった。一方で憲政史上最長の政権を記録した安倍晋三はキングメーカーを狙い自らの派閥・細田派から下村自民政調会長らを広島入りさせた。岸田派からは林芳正元農相が広島各地を精力的に回った。山口出身の林は、次期選挙で参院から衆院のくら替えを目指す。広島を舞台に、自民内の各派閥、議員個人の複雑な思惑が交錯する選挙模様は見て取れる。
ただ地元選挙を落とした岸田への批判は、菅にとってもある思惑がある。岸田は次期総裁選を目指す。その有力ライバルの一人が総裁選レースからの脱落を意味する。それだけ、9月末が任期の自民総裁選で菅再選の確率が増す。
野党に追い風は見当違い
今回の3国政選挙は実は野党にとっても、解散が迫る次期衆院選の〈試金石〉の意味合いが強かった。野党統一候補でなければ、とても自公与党候補には歯が立たない。反自民を旗印にした野党統一戦線がうまく機能するのか。特に問われたのが、野党第一党・立憲民主党の枝野幸男代表の役割だ。
結果的に、焦点の広島でどうにか野党系勝利となった。それが早晩行われる解散・総選挙の〈追い風〉になると考えるのは早計だろう。全く野党の支持率が上がっていない。特に立憲は一桁台が続く。今回の3選挙は「政治とカネ」「コロナ失政」による『敵失』で勝利を得たに過ぎないと見た方がいい。
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