【クローズアップ:G7と中国包囲網】〈コロナ後とトランプ後〉を問う 農政ジャーナリスト・伊本克宜2021年6月14日
先進7カ国のトップが一堂に会したG7首脳会議は13日、当面の国際的課題の解決策を盛り込んだ首脳宣言を採択した。目立つのは膨脹主義への中国対抗措置だ。一方で気候変動では対中協調が欠かせないなど〈和戦両様〉は続く。
G7首脳との集合写真:外務省ホームページより
二つの〈その後〉
G7で問われたのは二つのアフターとポスト。つまりは〈その後〉である。
まずは〈コロナ後〉。ポスト・コロナにどんな社会を描くのか。新型コロナで停滞した世界経済をどう回復するのか。
そこで、切り札として打ち出したのが先進国主導でワクチン10億回提供。アフリカをはじめ最貧国、途上国になかなか行き渡らない新型コロナワクチンの提供を進める。
一方で、もう一つの〈その後〉。世界に亀裂と分断をもたらした〈トランプ後〉をどうするのか。政権交代で民主党バイデン米政権は国際協調路線に戻ってきた。だが、バイデン大統領の足元は盤石ではない。トランプ人気は一定徹底程度あり、共和党にも影響力を残す。来秋には議会選挙を控える。特に上院は与野党の議席数が僅差だ。ここで民主党が不振なら予算が通らず、政権は一気に勢いを失う。
〈G〉複数の意味合い
G7の〈G〉はいったい何を意味するのか。本来なら世界を代表する大国・グレートのはずだ。実際の英語の頭文字はグループの〈G〉に過ぎない。7カ国の集まりほどの意味だ。だからロシアが参加していたときはG8と呼ばれた。
しかし、〈G〉は意味深な頭文字と言っていい。
いま問われる〈G〉は米中経済戦争の引き金となった5Gや6G。この〈G〉はゼネレーション、世代のことでインターネットの大容量通信規格を表わす。今後は情報を制する者が世界を制する。次に気候変動の中でグリーン、環境の〈G〉。さらには全地球的な動き、グローバルの〈G〉も欠かせない。
このように〈G〉の一文字は、今後の世界を左右する大事なキーワードである。〈G〉は環境であり地球も表わし、次の経済へ飛躍する次世代をも包含する。
こうした中で肝心のG7はこのキーワードの〈G〉を十分に議論し、解決策を示したとはとても思えない。
80年ぶり新・大西洋憲章
米英首脳は両国主導の新たな行動目標をまとめた新・大西洋憲章で合意した。先の大西洋憲章は1941年8月、当時のチャーチル英首相、ルーズベルト米大統領が発表した共同宣言。第2次大戦後の国際秩序ついて構想をまとめた。
今の米英トップのバイデン、ジョンソンは80年前の出来事を意識した。特にバイデンは当時の民主党ルーズベルト大統領の大規模公共事業によるニューディール政策を意識し、巨額予算を伴う地球環境重視のグリーン・ニューディール政策を進める構えだ。
だが、80年前とは似て非なる部分が多い。当時の世界3リーダーはルーズベルト、チャーチル、さらにはソ連・スターリン。今、ソ連は消滅し代わりに異形国家・中国が立ちふさがる。米国の国内事情も異なる。当時は与党・民主党は圧倒的多数で巨額予算も議会の理解を得られた。現在は与野党の議席数が拮抗している。
そもそも「大西洋」の位置づけが大きく後退した。現在はアジアの世紀になりつつあり、海洋としては「インド太平洋」に軍事。経済ともに安全保障の重点が移る。
120年ぶり〈日英同盟〉
英国・ジョンソン首相は今回のG7議長国、さらには11月の第26回国連気候変動枠組み条約締結国会議(COP26)の議長も務める。
EU離脱の英国にとって、頼りにする国は日米だ。米国とは先の新・大西洋憲章を形にした。日本とは日英EPA締結を進める。さらにはTPP11への参加問題でも日本の理解が欠かせない。
明治時代、日本はアジア初の列強として帝国主義の荒波に乗りだした。そこでまず頼りにしたのが、産業革命を先導し世界の先頭を走っていた英国だ。約120年前の日英同盟再び。今回のG7も契機に、日英両国は今後、政治、経済的な結びつきをさらに強めていく。
陰の主役・習近平
それにしても、米国をはじめ、これほどの大国首脳らが集まってたった一国の扱いにつばぜり合いを演じること自体、中国の存在感の大きさを裏付けている。
その意味でG7の陰の主役は、出席していない中国の習近平主席と前述した世界に分断を持ち込んだトランプ前米大統領の二人だろう。
経済力ばかりでなく、軍事的にも空母建設、宇宙進出など急ピッチで軍事的な存在感を増す中国はやっかいだ。G7でも対中国包囲網が大きな議題となったのは当然だ。
ここまで中国膨脹を許したのは今回集まったG7の西側諸国、特に米国自身の責任は大きい。起点は二つ。1989年の天安門事件と2001年の中国WTO加盟だ。
32年前の中国人民軍の民衆鎮圧に、先進国は経済制裁で応じたが、経済関係を重視した隣国の日本は助けの手を差し伸べた。だが、この異論を強権で封じる中国執行部の体質は香港民主化運動制圧、チベット問題、さらには台湾への威嚇など、今も脈々と続き、国際秩序への波乱要因となる。
中国放置、20年間のツケ
もっと深刻なのは20年前の中国WTO加盟以降の先進国、特に米国の対中融和策の失敗だ。経済発展に伴い中国は民主化していくと見通した。だが、10億以上の民を束ねる核心は中国共産党の一党独裁、上意下達の決定手法以外にない。中国は経済大国と強権国家の二兎を追い、両立させていく。
G7で、中国の影響力を増す世界戦略「一帯一路」への対抗策も示した。中低所得国、途上国への数千億ドル(数十兆円)規模のインフラ投資を進める。しかし、その財政負担は各国がどのくらいするのか、具体策はこれからだ。既にG7各国はコロナ対策で多額の経済支援を実施し、財政事情は極めて厳しい。
対中包囲網と言ってもG7内は一枚岩ではない。特に欧州各国は対中貿易で恩恵を受ける。そんな構図を中国は見透かしている。
「『小グループ』の利益を目指すのは偽の多国間主義だ」とG7首脳宣言に反発するが、過剰反応はしていない。
気候変動対応などは中国抜きに進められない。つまりG7も中国とは「和戦両様」の対応が必然となる。
中国は〈小グループ〉としている中国など有力新興国も含む20カ国によるG20と比べている。確かに、実質はG20で地球規模の対応が決まる。
〈D11〉と〈QUAD〉
対中国の文脈の中で国際的な合従連衡では二つの枠組みに注目したい。〈D11〉と〈QUAD〉だ。
今回の首脳会議には7メンバー国以外に4カ国が招待された。インド、韓国、豪州、南アフリカだ。ジョンソン首相はG7に招待4カ国を加えた11カ国を「D(デモクラティック)11」と呼んだ。これは「アジア太平洋」の国際秩序と安全保障維持の〈QUAD〉とも重なる。〈クアッド〉と読み〈四つ〉を意味する。構成は日米豪印だ。
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