【クローズアップ:気候危機】次世代にツケを回してはならない 気候変動に関する懇談会会長 花輪公雄・山形大学理事・副学長に聞く2021年6月24日
気象庁は昨年12月報告書『日本の気候変動2020』を発表した。日本はすでに1.24℃気温が上昇しており、今後、温暖化対策に取り組みパリ協定が目標とする2℃上昇に抑えたとしても、今世紀末には約1.4℃上昇し猛暑日や熱帯夜が増える。この報告書で示された日本の気候変動と私達に求めれていることを懇談会会長の山形大学の花輪公雄副学長に聞いた。
(聞き手・構成:編集委員 野沢聡)
(はなわ・きみお)1952年山形県生まれ。81年東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻博士課程後期単位取得修了。94年東北大学理学部教授。2021年山形大学理事・副学長。専門分野:海洋物理学。元日本海洋学会会長。
――今までにない豪雨や猛暑など毎年のように経験しています。これが「地球温暖化による気候変動」ということですか。
実は専門家の間では地球温暖化に対しては「気候変化」を使います。英語ではClimate Change(クライメート・チェンジ)です。これに対して「気候変動」はClimate Variation(クライメート・バリエーション)。だから、気候変動とは暖かくなったり寒くなったり、つまり、行ったり来たりということですね。
これに対して温暖化のなかで起きている「気候変化」とは右肩上がりの変化のことです。IPCCは「国連の気候変動に関する政府間パネル」と訳されていますが、Intergovernmental Panel on Climate Changeの略です。
つまり、正確に訳せば、"気候変化"に関する政府間パネルという意味ですが、気候変動と訳してしまったことから、多くの人が行ったり来たりする気候変動が最近は激しくなった、といった理解をしているかもしれません。
しかし、そうではなく、年による幅はあるにせよ、気温が右肩上がりで上昇している、一方向の変化が進んでいるということです。雨が降り、そして晴れるという気象の変化はもちろん今後も起きますが、そのバックグラウンドの気温が上がってしまったのです。
――何が起きているのでしょうか。
空気は水蒸気を含みますが、1℃上昇するごとに7%ずつ余計に水蒸気を持つことができます。水が熱をもらうと水蒸気になりますが、それが結露、つまり、水に戻るときには熱を出します。これを凝結熱といいます。
したがって、1℃につき7%ずつ水蒸気が増えるわけですから、気温が3℃も4℃も上がれば、水蒸気が20%から30%も多くなります。それが結露すれば、気温上昇前にくらべて大量の熱と水が放出されるようになる。つまり、気象現象が極端化してきます。
雨の降り方も昔と違ってかなりザーザー降るようになったという印象があると思いますが、これはもともと空気の持っている水蒸気が増えているため。降れば土砂降り、これが頻繁に起こるようになったということです。
――『日本の気候変動2020』では、1898~2019年の間に、100年あたり1.24℃の割合で上昇し、真夏日、猛暑日、熱帯夜の日数は増加、冬日は減少している、と報告しています。私たちは、この一方向の変化のなかにいると認識しなければならないということですね。
日本は中緯度で温帯にある国とよく言っていました。端的に言うと、これが亜熱帯化してしまうということです。
それは夏と冬に二季節化していくということです。春夏秋冬という四季はありますが、夏がすごく長くなり秋がすぐに終わって冬になり、春も短くなってすぐ夏になる、と。『小さい秋見つけた』という歌がありますが、秋ってこんなに短かった? というのがみなさんの実感ではないでしょうか。
――あの歌のイメージは、これから秋が深まっていく兆しを自然のなかに見つけた、ということだと思いますが、最近では深まることなく、いきなり冬に......。
気温がゆっくりゆっくり下がっていくのではなく、ある日まではずっと暑く、そしてストーンと冬に行ってしまう。これが端的に表わしています。
もう1つは台風も爆弾低気圧も集中豪雨も全部、極端化、巨大化していく。繰り返しますが、空気全体が暖まっていますから、水蒸気をたくさん含む。大量の水蒸気からドーンとエネルギーが出るということです。
今回の報告書でも台風の数は変わらないけれども、強い台風が増えるのではないかということや、極端な集中豪雨も増えていくだろうと予測しています。
いちばんの特徴はすべての予測に「確からしさ」(確信度)を付けたことです。研究者は自分の研究に従いますから予測にばらつきがあります。それに対して、この予測は確実だと意見が一致した、あるいはこれは意見がばらばらで確からしさはそれほど高くはないということを示しました。そのなかで確信度が高いのはやはり気温の上昇は確実だということです。
――「パリ協定」の2℃に気温を抑制する目標が達成された場合と、何もしなかった場合の予測した結果も報告されています。これはどう受けとめればいいのでしょうか。
4℃シナリオは、何も対策をしなければ今世紀末には気温が4℃上昇するというものです。大陸に近く緯度が高い地域は気温上昇度合いが大きく、日本は約4.5℃も上昇するという予測です。
では、2℃目標の意味は何かです。これは100年足らずの短い間に気温が2℃も上昇すれば生態系が壊れてしまうという数字です。よく譬えるのが、煮えたぎったお湯に常温で置いてあるコップを入れれば瞬時に割れるが、水にコップを入れてゆっくり温めていけば壊れないということです。
これと同じで1000年、2000年かけて2℃上昇するのなら生態系も追いついていく。たとえば寒いところが好きな植物は寒い地方にじわじわと移動していきます。ところが、100年、200年という瞬間とも言える期間で2℃も温度が高くなると環境についていけなくて生態系が壊れてしまう。
Point of No Return、帰還不能点が、2℃だと言われてきました。もちろん2℃上昇でもいろいろな変化が起きますが、4℃よりはかなりましです。そこで2℃目標が世界的な合意になったということです。菅総理が2050年までにカーボンニュートラルを達成すると表明しましたが、できるかどうかはともかく、この2℃目標を守るための温室効果ガスのゼロエミッションが必要だということです。
――地球温暖化と私たちはどう向き合うべきでしょうか。
哲学の加藤尚武氏の言葉に「世代間倫理」があります。私たちの子ども、その子どもにツケを押し付けていいのかということです。原発も恩恵を受けていましたが、廃炉になったとたん1000年、1万年と面倒を見てくれと次の世代に押し付けることになる。
温暖化も便利な社会を作ろうと化石燃料を使い、そのツケ、つまり、温まった地球を後世に残すということです。ツケを残さないと考えるなら行動を変えるべきだと思います。農業もCO2を出さないような農業にしていくと同時に、吸収源でもある農地を農地としてきちんと使っていくことが大事です。もちろん品種改良などは農家ではなく国がしっかり対応して乗り越えていくべきです。
温暖化は私たちみんなが被害を受けますが、実はみんなが加害者です。今のままでは私たちが活動するとどうしてもCO2を出してしまいます。
同時にこれは南北問題でもあります。先進諸国が今までたくさんCO2を出してきました。いちばん被害を受けているのはツバルなど南洋諸島の人々や、イヌイット、あるいは大陸氷河が溶けて被害を受けている山岳地帯の人々です。ツバルは海抜1.5メートルの9つの島に1万人ぐらい住んでいますが、人々は温暖化の要因を何も作り出しておらず、非常につつましやかに暮らしてきました。ところが今は国が無くなろうとしている。
富める国が加害者であり、貧しい国が被害者でもある。それもふまえると自ずと今のままではいけないということが分かると思います。
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