【クローズアップ:生乳需給激変】中酪、協同の力で「廃棄回避」 農政ジャーナリスト 伊本克宜2021年7月7日
コロナ禍で農畜産物の需給は大きく揺さぶられた。中でも数時間で劣化する生乳は典型だ。生乳廃棄の懸念も迫ったが、中央酪農会議は結集力で難局を乗り切った。6月末の総会に示した事業実績で明らかになった。
最大危機は昨春の学給停止
2020年春以降、コロナ禍で生乳廃棄の危機が何度も襲った。
最もピンチだったのが昨春の突然の小中学校休校とそれに伴う、学校給食の停止だ。給食がなくなればセットで出される牛乳の提供もない。
首都圏をはじめとした大都市圏の緊急事態宣言に伴う外食、ホテルなどの牛乳・乳製品の需要急減も加わる「ダブルパンチ」に見舞われる。
学乳と外食という大きな二つの需要がなくなった。2時間ほどで変質し商品価値がなくなる生乳の行き場はどこに。バター、脱脂粉乳を中心に保存の利く乳製品へ加工仕向けで処理するしかない。そうでなければ生乳は廃棄を迫られる。
国の支援事業17億円活用
中酪は6月末の総会で20年度事業実績の了承を得た。柱はコロナ禍での緊急対応の中身だ。コロナ禍、中酪が取った対応で効果が大きかったのは国の支援事業の活用だ。
学乳停止で飲用牛乳から加工へ用途変更を行う。用途別乳価は飲用が高く乳製品は低い。その差は生乳キロ当たり20円以上もある。用途変更で生乳廃棄との最悪の事態は免れても、そのままでは酪農家の所得減につながる。
価格差補填は学乳停止の20年4月から6月の3カ月で16億5700万円。加えて、用途変更で乳業メーカーの乳製品工場に運ぶ指定生乳生産者団体による生乳広域輸送経費掛かり増し補填4300万円の合計17億円を有効活用した。
独自に乳価下落防止策
コロナ禍での生乳需給激変を踏まえ、中酪は二重、三重のセーフティーネットを敷く。財政的な事情からむろん柱は国の事業活用だが、加えて独自の対応も組んだ。
典型は乳価下落対策だ。飲用不需要期の冬場で乳製品在庫が積み上がる年末から翌年3月までの20年12月~21年3月に限定し、緊急措置を構えた。「加工リスク平準化緊急事業」だ。
想定超えた加工に対応
生乳不需要期に需給が予測以上に緩和した場合の救済だ。
具体的には、広域指定団体ごとにプール乳価とバター、脱粉等向けの乳価格差を補填する仕組み。対象は、東北、北陸、近畿、中国、四国の5者で、合計4700万円を助成した。中酪は当初、万が一に備え加工リスク対応に総額2億円の予算を組んだが、想定の4分の1以内に収まり、残金はそれぞれの拠出に応じ返還する。
酪農家需要拡大を促す
酪農家自らの生乳需要拡大努力も欠かせない。
そこで、指定団体では春先の学乳停止時や冬場の生乳需給緩和時に、コロナ禍で奮闘する医療、福祉施設へ牛乳、ヨーグルトなどの無償提供を実施した。こうした需要拡大対応にも助成を実施した。
一滴の生乳廃棄もなく
これらの結果、20年度の生乳廃棄は回避できた。
むろん、Jミルクをはじめ原料乳を受け入れ処理する乳業メーカーの協力も大きい。だが、根本は乳業に計画的に生乳を配乳する指定団体に酪農家が結集したからだ。いわば、「一滴の生乳廃棄もなかった」のは協同の力の発揮と言っていい。
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