【農林水産省 新3局長に聞く】(1)畜産局 森健局長 畜産酪農の意義 国民に発信(上)2021年8月6日
農林水産省は7月1日に組織再編し新たに「輸出・国際局」、「農産局」、「畜産局」が発足した。組織設置の狙いと新たな農政課題にどう取り組むのか、新局長にインタビューする。今回は森健畜産局長に聞いた。
畜産局 森健局長
--新たな畜産局の局長として就任の抱負をお願いします。
2001年に当時の畜産局が生産局畜産部になって以来、20年ぶりの復活となりました。この間、畜産物の総産出額は2.4兆円から2019年に3.2兆円まで拡大しています。農産物全体に占めるシェアも27%から36%に増えるなど、農業生産全体が少しずつシュリンクするなかで畜産は逆に伸びてきました。また輸出も2020年に600億円と日本の畜産物は世界のマーケットで拡大しています。
畜産局の復活は、まさにこれまでの生産者や関連業界をはじめとした関係者の尽力の成果と受け止めています。局長としては、これまでのみなさんの取り組みを汚すことがないようにしっかり取り組んでいきたいと思っています。
そもそも今回の局再編の課題は、日本農業の発展の方向である農畜産物の輸出の主翼に畜産がなるということで、その生産基盤を強化して畜産が持続的に行われるように支えていくことが課題だと考えています。
--6月24日に「持続的な畜産物生産のあり方検討会」が中間とりまとめを行いました。ポイントはどこでしょうか。
これはみどりの食料システム戦略の決定をふまえ、畜産においてもどのような取り組みを進めていく必要があるかという観点から検討されたものです。
具体的な方策としては家畜改良、飼料の開発、効率的な飼養管理などによる畜産による環境負荷の軽減、飼料の生産と流通、堆肥の利用の促進等による資源循環の促進、それから輸入飼料への過度の依存から脱却し自給飼料を拡大していこうということです。
その一方、中間とりまとめは畜産に対する消費者の理解醸成も重視しています。
国際的な議論には、ともすれば極端な議論もあって、畜産について人が食べるべき穀物を大量消費し飢餓を生んでいるのではないか、あるいは熱帯雨林を開発して飼料作物を生産しているのではないかといった畜産悪者論のような議論や規制強化を求める声もあります。
もちろん日本の消費者が、そうした議論に与するとは考えていませんが、世界の畜産物の貿易量はここ10年で2倍に増えており、そのなかで量販店や消費者などに畜産物生産のあり方について関心が高まる可能性はありますし、そういう傾向も見えてきていると思っています。
それに対し、畜産は人が食べないような草資源を飼料として家畜に食べさせて食料に変えていく、ある意味で環境を有効に活用して価値あるものを生み出していく産業であることや、条件不利地域も活用して食料を生み出し、幅広い関連産業とともに地域の経済社会を支えているということを伝えていく必要があると思います。
さらに環境負荷を軽減し、より輸入に頼らず地域の資源を活かした産業になろうとしているんだという姿も見せていくことが必要ではないかと思っています。
中間とりまとめでもこうした日本での畜産・酪農の意義を強調していますが、それを消費者に訴えていくことが重要だと考えています。
--生産努力目標の達成に向けてはスマート化、機械化も求められていると思います。
先日、北海道で搾乳ロボットを視察しました。労働力の軽減と同時に生産量も増え、データに基づいて1頭1頭の飼養管理もできるようになったと聞きました。
畜産の持続性とは環境面だけの問題ではなく、働く人にとって畜産が魅力ある産業でなければいけませんから、こうしたスマート化、機械化はキーになっていくと思いますし、それが増頭増産につながると思います。
一方で、昨年3月に策定した酪肉近(酪肉近代化基本方針)の目標である2030年に牛肉生産40万t、生乳生産780万tの達成に向けては、マーケットに評価される畜産物を作っていくことも前提です。作ればいいというのではなく需要の拡大も含めて関係者が一体となって取り組むことが重要で、引き続き支援を行いながら目標達成に向かっていきたいと思います。
需要の変化捉え輸出拡大
--輸出拡大には当面は何が課題ですか。
輸出はコロナの影響を受けた昨年も前年比111%と増加し、今年に入ってからは牛肉について5月までで対前年比233%と伸びており大変好調です。この動きをさらに伸ばしていくことが重要だと思っています。
畜産物輸出を拡大させていくためにはいわゆるオールジャパンのプロモーションの取り組みに加えて、実際にある国への商流を持っている輸出事業者と、生産者、食肉事業者が連携してコンソーシアムを設立して海外マーケットに求められる製品を継続的に生産、輸出、販売していくという取り組みを太くしていくことが重要だと思っています。
それからコロナ禍のなかで世界的に内食化の傾向がみられますから、たとえば牛肉についてもブロックで輸出するだけでなくスライス肉や食肉加工品など店頭に並べられるような輸出促進をしていくということも必要だと思いますし、eコマースへの対応も必要だと思います。
一方、中国の牛肉市場にはブラジル、アルゼンチンなどの中南米からの輸出が拡大していますが、そこに隣の日本が輸出できないのは非常に忸怩たるものがあります。
輸出解禁については日中の政府間で継続的に協議を行ってきたところで、2019年12月に中国政府からBSE、口蹄疫についての解禁令の公告が発出されましたが、その後具体的な進展が見られていません。今、中国側で日本の食品安全システムの評価が行われていて今後、具体的な家畜衛生条件の設定や、輸出施設の認定登録というステップが進めば輸出が可能となるという状況です。具体的にいつ進展するかということは見通せない状況にあることは事実ですが、当然、日本としては輸出再開に向けてあらゆる機会を通じて働きかけていくということです。
また、TPP11や日EU・EPAなどの発効で新しい国際環境に入り、牛肉の関税38%が今年度は25%になり、さらにこれからも下がっていくということです。ただ、さまざまなEPA協定で相手国の市場も開かせてきていますから、国際環境に対応できるような国内生産の体制をつくっていくことをしっかり後押ししていきたいと思っています。米国産牛肉のSG発動基準の見直しについては引き続き事務レベルで断続的にやり取りを行っている状況です。
以下、畜産酪農の意義 国民に発信(下)に続く
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