コロナ敗戦内閣の行方 「支持率」「横浜」「総裁選」3点セット 農政ジャーナリスト 伊本克宜【検証:菅政権23】2021年8月16日
菅政権の先行きは一段と混沌としてきた。五輪開催でも支持率は危険水域に入り、コロナ感染は広がる。一方で総選挙のタイムリミットは近づく。政権の差し迫った問題は「支持率」「横浜市長選」「総裁選」の行方だ。
写真:首相官邸HPより
13日金曜日の厄日
首相・菅にとって先週13日の金曜日はまさに厄日となった。そして「なぜこうも裏目に出るのか」とつぶやいたに違いない。
まず「第五波」コロナ禍で強行した東京五輪と絡む動き。同日、内閣官房参与で五輪・パラリンピック推進本部の平田竹男事務局長が辞任した。事実上の五輪事務方トップの不祥事。またぞろ「文春砲」でスキャンダルが暴かれた末の対応だ。公用車で高額ゴルフレッスンの無料受講が写真入りで載った。来週24日からはパラリンピックが始まる。辞任は、政権の傷口を最小限にするための官邸側の迅速対応の結果だろう。
コロナ対策問われ「僭越」
さらに同日夕方、菅は官邸ぶら下がり会見で一向に収まらないコロナ対策の総括や評価を問われ怒気を見せてしまう。
「自己評価することは僭越だと思う」とした上で、1日ワクチン100万回接種目標の達成を強調し「世界ではロックダウンし、外出禁止に罰金をかけてもなかなか守ることができなかったじゃないですか」と、こぶしを握り語気を強めた。前後の脈絡がない会話だが、要するに一所懸命にやっているのになぜ課題ばかり指摘するのか。少しは評価してほしいとも受け取れる。それがメディアへの不満とも重なり、テレビで感情が映し出された。それにしても冒頭の〈僭越〉は出過ぎたことを意味し、ここで使う言葉ではない。マスコミは国民のコロナ対策への不安を代弁したに過ぎないが、菅はいつものようにまともに質問に応じない中での不似合いな言葉を発した。
辞任は西川、高橋に続き3人目
先の辞任した平田の経歴は意味深だ。経産省出身で自民政権復帰の2013年第2次安倍政権時に内閣参与に。経産省重視の安倍晋三の一連の人事で官邸入りし、菅も継続し五輪対応を任せた。権力中枢にいた奢りが今回の失態を招いたとも言える。
これで政権での内閣参与の辞任は3人目。まずは当欄でも何度か取り上げた西川公也元農相。昨年12月に吉川貴盛元農相の鶏卵大手「アキタフーズ」金銭授受疑惑と絡み、同社とも親密な関係にあった。結局、西川は今春政界引退に追い込まれる。豪腕だが「政治とカネ」を象徴する政治家でもあった。農政全般、特にコメ、畜産に大きな影響を持った自民農林族の一人が政治の世界から退場したことを意味する。
もう一人は財務官僚出身の高橋洋一。元々放言タイプだが、5月にコロナ感染状況を「この程度の『さざ波』」とSNSで発し責任を問われた。〈コロナさざ波〉発言は国民の苦吟をよそに、官邸の危機意識なさを裏返したような発言とも受け止められた。
これら辞任のたびに、政権は打撃を受け支持率低下の一因ともなる。今回の五輪絡みの人物の辞任は、個人の問題とはいえ総裁選とも接近しており、菅にとっても悪材料となりかねない。
NHKさえ支持率3割割れ
政権の行方を左右する当面の3点セットの一つは「内閣支持率」の推移だ。
危険水域とされる3割ラインを前後している。深刻なのは各メディアの世論調査のたびに支持率が続落していることだ。菅自身が官房長官として支え長期政権となった安倍前政権は、問題が起きると経済対策などそれを打ち消す何らかの政策を示し支持率を維持してきた。現政権にはそれが見当たらない。
注目された五輪後の支持率だが、閉会式直後の9日付朝日新聞は28%と初めて3割を切った。直近の先週末14日付の時事通信も前月比0.3ポイント減の29%。「2カ月連続で政権維持の〈危険水域〉とされる20%台となるのは第2次安倍政権以降で初めて」と打った。朝日、時事は政権に厳しい評価が出る傾向が強い。だが、NHK調査でも同様に前回比4ポイント減の29%となったのは、政権内でも危機感を募らせる
総裁選求める声
月刊雑誌「文藝春秋」9月号で高市早苗前総務相が総裁選出馬を表明した。中身は取り立てて目新しくないが、一つ的を射た指摘をしていた。
菅はまともな選挙の洗礼を受けていないというのだ。確かに、1年前の安倍の突然の辞意で総裁選は国会議員中心の変則となり、まだ衆院選も行っていない。しかも、今後の政局を占う4月25日の衆参3補選・再選挙は〈政治とカネ〉が響き「全敗」の惨状だ。
高市が指摘するように、まず自民党総裁選で「選挙の顔」を選んで、総選挙に臨むべきとの考えは一理ある。それは、菅と後見人・二階俊博幹事長が望む菅総裁の無投票再選シナリオとは明らかに異なる。しかも、首相の権力の源泉である菅の「解散権」をもしばる。
それにしても政権に近いとされる読売の世論調査でさえ、次の首相候補に石破茂19%、河野太郎18%に遠く及ばず、発信の弱い岸田文雄4%よりも低い菅3%。世間の評価はそれほど菅政権を厳しく見ている証しだろう。
サヨナラ横浜
今後の政権を占う上で、日増しに比重が増してきたのがパラリンピック直前、22日投開票の横浜市長選の行方だ。表題で「支持率」「横浜」「総裁選」3点セットとした所以だ。
単なる地方の市長選にとどまらない。日本最大の市長選であり、首相のお膝元だ。しかも菅自ら現職市長をさしおいて、盟友の小此木八郎元国家公安委員長の支持を明言している。結果、保守分裂となった。知名度が高い有力候補が多く、野党共闘の形を整えながら立憲民主党推薦の元大学教授・山中竹春も接戦を演じる。
政治関係者の間では、横浜市長選で万が一、首相支援候補が敗れれば政権の求心力はさらに弱まるとの見方が強まる。首相介入はまさに〈両刃の剣〉の様相だ。
横浜市長選の激戦を見ながら、なぜか、なかにし礼作詞の石原裕次郎の名曲「サヨナラ横浜」のフレーズ〈サヨナラ横浜 今日限り〉が思い浮かんでしまう。
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