コロナ政局急転 10月17日軸に衆院選調整 農政ジャーナリスト 伊本克宜【検証:菅政権24】2021年9月2日
解散・総選挙をにらみ権謀術数が渦巻く9月が始まった。首相・菅義偉に残された時間はわずか。逆風が強まる中で、週明け6日にも党役員人事、内閣改造で反転攻勢を模索。投開票は10月17日を軸に調整中だ。だが、政権の行方はコロナ感染と世論に左右される。
首相官邸HPより
農林議員も四分五裂
今後の政治がどうなるのか。菅政権の行方を探るには自民党総裁選の動向が大きい。
大物政治家が多い農林議員も、総裁候補の支持をめぐり四分五裂、ばらばらなのが実態だ。基本は派閥単位の意向が反映されるためにやむを得まい。
農林最重鎮・国対委員長の森山裕は二階俊博幹事長と共に早々と菅支持を表明し、所属する石原派も同様の動きとなった。1年前の安倍晋三の突然の首相辞意、その後の迅速な菅官房長官(当時)の擁立に動いた「二階・森山ライン」の関係から考えれば当然だ。
一方で農政では一枚岩の自民農林族も、総裁選となると思想信条に人間関係が加わり事情は様変わりする。総裁候補の岸田文雄率いる岸田派には農林議員が多い。来夏2022年7月28日に任期満了を迎える参院選の系統組織推薦候補の藤木真也らもそうだ。一方で菅支持の二階派も同様に多くの農林議員を抱える。17日の総裁選告示までに石破茂元幹事長が推薦人20人を得て立候補に立てば、同派閥の齋藤健元農相は支持に回るだろう。
岸田出馬の裏に林・衆院くら替え
有力候補として話題を集める岸田だが、自民党内ハト派で人柄の良さの一方で発信力、政治手腕、胆力の強さに疑問符が付く。しかも地元責任者を務めた4月末の最重要選挙・広島参院再選挙でも敗北を喫した。二階の強引さを伴う〈剛〉に対し、岸田は争いを好まず対局の〈柔〉の関係にあるといっていい。
岸田は菅のコロナ対策への注文と党役員人事の一新を訴える。当選9回で安倍と同期。決して安倍の政策に異を唱えず二人三脚でやってきた。
具体的な政策はなにか。6月に岸田のつくった新議連「新たな資本主義を創る議員連盟」の名が示すように、行き過ぎた競争社会、新自由主義を転換し「分配」を重んじる。その文脈の中で農業・農村の役割も語られる。だが、つきつめて考えれば、それはTPPなど相次ぐ自由化、農協改革をはじめとした規制緩和を前面に出したアベノミクスの是正にもつながる。これまでの政策との整合性も問われる。
注目すべきは二つ。一つは岸田新議連発足に145人もの国会議員が集まったこと。求心力の裏返しでもある。もう一つは派内の勢力関係。参院議員の林芳正元農相が衆院くら替えで次期総選挙に出る。林は数々の閣僚経験を持つ政策通・英語も堪能だ。近い将来の首相・総裁候補と目され、そのためにも衆院のくら替えを決断した。岸田氏にとっても世代交代が間近に迫る。残された時間はあまりないと見て、派内で異論もある中で今回の総裁選候補に踏み切った。つまりは勝負に出たのだ。
デジャブ、派閥の制御不能
デジャブ、既視感がある。いつか見た風景。そう、あれは30年近く前、細川非自民連立政権によって自民党が初めて下野した1993年の政治混乱の時だ。派閥領袖の締め付けが効かず、若手、中堅の不満が募る。
〈鉄の団結〉を誇る二階派ですら、8月末の会合で山本拓元農水副大臣が口火を切った。「いつも『地元の声に耳を傾けろ』という二階さんが、なぜ菅首相なのか」。山本は1993年の自民党下野の時に、後に農相となる松岡利勝らと若手で行動議連をつくりガット農業交渉でのコメ部分開放反対の徹底抗戦、国会前でのハンガーストライキをした経験を持つ。地元・福井の農民の声を代弁してきた。なぜ地方で批判が強い菅を推すのかというわけだ。衆院の比例区出身で、自民支持の地盤沈下は山本自身の落選にも直結しかねない。
菅政権は〈コロナ敗戦内閣〉とも称される。変異株の感染力は、政府の想像以上に強力で、対応が後手に回ってきた。菅の経済重視、まず五輪開催ありきの姿勢も、コロナ封じ込めの足かせになった。だが、それよりも問題なのは菅自身の発信力、言葉の力がないことだ。それが派閥でいくら菅支持を表明しても、若手、中堅から不満が出て一枚岩にはほど遠い状況に陥る。
任期満了か電光石火の解散か
五輪、コロナ、想定される政治の動きも含め、まず今後の主な日程を見たい。
◎主な日程
・8月22日 横浜市長選で自民敗北
・9月 5日 パラ五輪閉会式
6日以降 幹事長含む党役員人事、小幅な内閣改造人事
12日 コロナ緊急事態宣言期限
中旬 臨時国会?→解散・総選挙へ
17日 総裁選告示→29日総裁選投開票
30日 自民総裁任期
・10月7日 参院補選の告示(静岡、山口)→24日参院補選投開票
17日 衆院投開票が有力(この場合は5日公示)
21日 衆院議員任期満了
・11月28日 最も遅い衆院議員投開票(10月21日解散の場合)
・来夏7月 参院選(2022年7月予定)
政権に〈コロナ逆風〉が吹き続ける中で、菅の選択の余地はほとんどなくなってきた。菅自ら肩入れした横浜市長選の敗北を受け、翌8月23日付のマスコミ各紙は、「早期解散難しく」「来月、総裁選強まる」などと打った。〈横浜ショック〉は自民党内に激震が走った。
選択肢の一つ、衆院議員の任期満了選挙を検証したい。
任期満了となれば、現在の公職選挙法施行後で2度目となる。今から45年前、1976年12月に、当時の三木武夫首相の下で行われた。少数派閥で合従連衡を駆使して生き抜くバルカン政治家と呼ばれた三木は、自らの手で解散を打ち、政権基盤を固めようとした。だが党内の抵抗に遭い断念。解散に踏み切れないまま任期満了選挙となり、自民党は単独過半数割れの大敗を喫し、三木は退陣を余儀なくされた。思わず、今の菅政権の命運と重ねてしまう。菅がその敗北の歴史を知らないはずがない。
だが、ここにきて12日のコロナ緊急事態宣言解除期限を経て、総裁選告示の直前に臨時国会を開き解散・総選挙の動きが浮上している。菅が乾坤一擲の電撃解散を打てば、自民党総裁選は衆院選後に先送りされる。
菅の本領「したたか」
菅は明らかに追い詰められている。だが、初の小選挙区選挙となった四半世紀前の1996年の初当選以来、幾度となく修羅場をくぐり抜けてきた。
危機こそ菅の本領発揮の時なのかもしれない。菅を端的に表わす四文字は「したたか」だ。野党の9月7日からの臨時国会の求めを拒否し、自ら15日前後にも解散・総運挙のための臨時国会開催の動きも浮上している。
6日にも党役員、閣僚人事
週明けの6日以降には二階幹事長の交代も含め自民党役員人事刷新と小幅な内閣改造の姿勢も示す。新たな経済対策を指示する形で、党の政策責任者である下村博文政調会長の総裁選出馬断念に追い込んだ。半面で政権発足の恩人でもある二階切り断行は、派閥の離反を招く〈両刃の剣〉の恐れも潜む。
10月21日の衆院議員任期が刻一刻と迫る中で投開票はいつか。任期前の日曜日である10月17日を軸にする案が濃厚で、その1週間後の24日の参院補選とのダブルもある。理屈上は11月28日の投開票もあり得えた。しかし、総裁選告示前に解散・総選挙を打つ可能性も急浮上している。全てはコロナ感染状況と世論を両にらみした首相判断となる。
政権が目玉にした9月1日のデジタル庁発足も課題山積の船出となった。だが打たれ強い菅の「したたか」な勝負勘が発揮されるのはこれからもしれない。
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