【農林水産省 新3局長に聞く】(3)輸出・国際局 渡邉洋一局長 「攻め」と「守り」 一元化で相乗効果(下)2021年9月7日
米 輸出産地の育成重要
--米と米加工品の輸出の現状と課題についてはどう見ていますか。
米と米加工品の輸出は大きく伸びていると言っていいと思います。今年の上半期の米の輸出は前年比プラス1.3%ですが、日本酒はプラス91.7%で2倍近い伸びですし、米菓は33.6%増です。パックご飯も50%以上の伸びでした。
昨年取りまとめられた輸出拡大実行戦略のなかでは米やパックご飯、米粉、米粉製品、日本酒を27の重点品目のなかに選定しており、ターゲットとする国にしっかりと輸出促進の取り組みをしていきたいと考えています。
さらなる輸出拡大のためには、たとえば米、パックご飯、米粉・米粉製品はやはり需要の開拓の一方で海外の需要に対応可能な輸出産地を育成することが必要ですから、ここは原局とも相談しながら対応していきたいと思います。日本酒については事業者の販路開拓を支援して高付加価値商品の輸出拡大ができればと考えています。
海外需要の開拓やプロモーションの取り組みに加えて、たとえば新市場開拓用米の低コスト生産の支援や、輸出向けパックご飯の製造ラインの整備に対する支援といった施策を考えていきたいと思っています。
地域の食品産業を支援
--加工食品の輸出拡大に向けて新たな局に編成されたことによるメリットはあるのでしょうか。
加工食品の輸出でネックになることのひとつに食品添加物の扱いがあります。日本ではその色素が食品添加物にならなくても外国では食品添加物となり輸入が認められないということもあります。
そうした規制の撤廃を求めていくという取り組みが必要になるわけですが、これは基本的には二国間の協議が大事で、今までは国際部国際地域課に各地域を担当する組織があり、そこが対応していました。
それが今後は規制撤廃の協議だけでなく輸出のプロモーションも含めて幅広く対応することになりますから、最初に話したように全体を見ることで旧国際部と旧輸出促進部局が一緒になったことのシナジー効果が得られるのではないか、あるいはそれを実現していかなければならないと考えています。
一方、加工食品には地域の食品産業が製造している製品があり、それにも輸出のポテンシャルが高いものがあります。ただ、1社で食品添加物などの輸出規制に対応するには限界がある場合もありますから、地域の食品企業が連携して輸出できるような加工の仕方を開発するなどの取り組みを支援できるような事業も実施していきたいと考えています。
みどり戦略 世界に発信
--EUが打ち出したFtoF政策について国際的な規制への影響や、輸出も含めたわが国農政としてどう対応しますか。
昨年の5月に欧州委員会が欧州グリーンディール政策というものの一環として打ち出したのが「Farm to Folk戦略」です。その戦略では持続可能な食料システムの構築に向けてEUの包括的な対応策であり、2030年までに有害性の高い農薬の使用を半減するなど野心的な内容を含むものだと思います。
ただ、今はまだ法的拘束力があるものではなく2023年の立法化に向けて欧州議会やEU加盟国で議論していくということですから、動向を注視していきたいと思っています。
わが国は5月にみどりの食料システム戦略を策定しEUの「Farm to Folk戦略」にあたるような戦略を打ち出したわけです。7月には野上大臣にローマで開かれた国連食料システムサミットのプレサミットに出席していただき、みどりの食料システム戦略についてアジアモンスーン地域の日本としては各国の実情に応じた取り組みが必要だということを含めて発信していただきました。
輸出・国際局としてはやはりG7やG20、国連の食料システムサミット、あるいはCOP(国連気候変動枠組条約締約国会議)などで国際対応をしていきます。そこはみどり戦略を担当する環境バイオマス課と協力しながら国際的な発信をしていく必要があると思っています。
--日米貿易協定の牛肉セーフガード発動基準の見直し協議はどのような状況ですか。
牛肉セーフガードに関する米国との協議は開始しており引き続き事務レベルでわが国の牛肉消費量や輸入量の分析も含めて断続的にやりとりを行っているところです。農水省としては協議の結果を予断せずに外務省、あるいはTPP政府対策本部と連携して国内関係者の理解が得られるようにしっかりと協議に望んでいきたいと思っています。
守る品目は守る
--改めて対外的な貿易交渉と輸出促進が一体化した局の設置による農政全体の戦略の変化があればお聞かせください。
農林水産省の任務は大きくいえば食料の安定供給の確保、農林水産業の持続的な発展、そして農山漁村の振興、発展です。それはもちろん不変です。
輸出・国際局もその任務の達成にしっかり貢献していくということが任務だと思っています。そのときに農林水産業が輸出の拡大によって発展する真の成長産業となることで、当然、食料の安定供給、農林水産業の持続的な発展と農山漁村の振興に寄与するわけですから、輸出目標の実現に向けていろいろな施策を打ち出して法制度、予算制度を含めてしっかり取り組んでいくことが大事だろうと思っています。
一方で3つの任務を達成するために必ずしも輸出がどんどんできるような品目ではないものもあります。そうした一部の品目については今までTPP交渉などで重要5品目としてきており、土地利用型であるために国土条件が厳しいなかでは、なかなか競争力が厳しいとか、あるいは地域を支えている地域作物もあるわけですから、そうした品目はこれまでTPP交渉などで守ってきました。それらについては前提条件が変わらないなかで食料安保や地域の農山漁村の振興という観点からどうしても一定の国境措置や、あるいは補助金交付の柔軟性が必要になる面がありますから、そうした守りはしっかりやるということです。
輸出の促進とともに、守る必要がある一部品目をしっかり交渉などで守っていくという両方が農林水産省の任務である大きな3つの任務につながるわけです。それに1つの局として対応していくということだと思います。
やはり国内の人口が減少し高齢化が進行して、どうしても食関係のマーケットは減っていくわけですから、外国にも目を向けて海外の需要を取り込んで輸出で成長産業化してもらうということと、一方で守らなければならない一部の品目は引き続き守っていくということを合わせてやっていくということが大事だと思っています。
(わたなべ・よういち)昭和41年3月生まれ。千葉県出身。平成元年東大教養学部卒、入省。生産局畜産部食肉鶏卵課長、畜産企画課長、国際部国際政策課長、国際部長などを経て令和元年経済産業省大臣官房審議官。
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