【クローズアップ:ドイツの総選挙】環境・気候変動 急浮上 農業に脱工業化提言も(上)2021年9月17日
9月に総選挙が行われるドイツでは「環境・気候変動対策」が最大の争点になっている。7月に農村部を襲った100年に一度と言われる大水害も争点化のきっかけになったという。一方、この6月にはメルケル政権が昨年設置した「農業の将来委員会」がドイツ農業のエコロジー転換を求める提言を答申した。村田武九州大学名誉教授はその答申の冒頭部分「ドイツ農業の将来ビジョン」を翻訳した。今回はこれを紹介するとともに、ドイツ農業の課題とこの答申の持つ意味、最近の動きなどを村田教授に聞いた。(野沢聡)
バイエルン州南部・バイエルン・アルプスを望む農村
洪水ショックで争点に
--総選挙が迫っているドイツの最近の状況をどうみていますか。
16年間続いたメルケル首相が引退する連邦議会の総選挙が9月26日投開票で行われます。
公共放送ARDの世論調査によると有権者が政治課題と考えているのは「環境・気候変動対策」が33%で第1位、ついで「移民問題」が22%、「新型コロナウイルス」が18%となっています。
前回2017年の総選挙では「移民問題」が47%でもっとも大きな問題でした。今回はがらりと様子が変わり、とくにこの7月に洪水に見舞われ160人を超える死者を出したことが大きく影響しました。
ドイツの年間の平均降水量は500~600ミリです。半乾燥地ですから麦作が盛んなわけです。もちろん山間地では降水量が年間1000ミリを超える地域もありますが、ここ数年、大干ばつの一方、集中豪雨が起きています。
ドイツの河川は巨大なライン川はともかく、農村部を流れている河川にはまともな堤防などなく自然堤防です。日本のように梅雨があるわけではなく、年間通じて適度に降るわけですから村のなかを流れている川は10メートルほどの幅で深さは30センチ、少し淀んだところで1メートルといったイメージです。
そこに今回一挙に日本のように300ミリもの雨が一昼夜降って洪水が起きた。こういうなかで温暖化にともなう気候変動が一挙にクローズアップされて「環境・気候変動対策」が総選挙の最大争点となっているわけです。そして2030年、あるいは2050年までにCO2をどれだけ削減するかを政党間で競っています。
メルケル首相が所属する中道右派のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)は2030年までに1990年対比で65%を削減すると発表し、それに対抗する緑の党は70%削減を打ち出しました。
大連立政権 政策に変化
--現在の政権はどのような政権でしょうか。
現在のメルケル政権は2018年3月からの第4次政権でキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)、そして社会民主党(SPD)による大連立政権です。SPDから閣僚の6人を出し3分の1を占めているという構成です。
この政権では食料・農業大臣に中道右派のCDUから女性のY・クレックナー氏が就任し、環境・自然保護・建設・原子炉安全大臣には中道左派のSPDから女性のS・シュルチェ氏が就任しています。
こういう大連立政権で総選挙を争う状況になっていますが、中道左派のSPDが勢いを増しています。
世論調査ではSPDが第1位になっていますから、かりに第1党になれば中道左派政権になるのではないかと言われています。第1党になっても単独政権は無理でしょうから、たとえばSPDと緑の党が連立を組んで今の中道右派政権から中道左派政権になるのではないでしょうか。
このようにドイツの政治を大きく左右するのが、ついこの間までは難民問題だったのが、今や環境・気候変動にどう対応するかということが政権の行方をめぐっての大争点になっているということです。
--一方で「農業の将来委員会」が答申を出したということですが、この委員会設置の理由は何ですか。
保守党キリスト教民主同盟(CDU)が政権の中心ではあっても、先ほども指摘したように環境・自然保護の大臣は社会民主党(SPD)が握っているという状況のもと、温暖化ガス排出を抑えようという政策をとらざるを得ませんでした。そして「工業化する農業」にも責任を持ってもらおうと、エコロジー転換を求める動きも強まってきました。
こうした動きに否定的だったドイツ最大の農業者団体で保守党の最大の支持基盤であるドイツ農業者同盟の理解を得るためには、ドイツ農業の将来像を提示することが必要と考えたのでしょう。昨年7月に「農業の将来委員会」の設置を閣議決定しました。
構成員は農業団体の主流派、非主流派や酪農など品目団体など農業関係10名のほか、消費者、環境・動物保護団体、そして学識経験者など大変幅広い33名で女性が3分の1です。委員は無報酬で委員長は中世史の研究者です。今年6月に全会一致でメルケル首相に答申を渡したということです。
頭数削減を求められている豚
国土の47%が農地
--そうした議論が必要になる前提として、ドイツの農業と課題について改めて解説をお願いします。
ドイツの国土は3572万ha(35.7万km2)で、日本の国土から四国の面積を引いた面積とほぼ同じです。このうち農地面積は1670万haで国土の47%を占めます。農地のうち460万haが放牧地で生乳生産量はEUトップの3350万t。日本の農地面積とほぼ同じ広さに家畜が放牧されているわけで、そこで排泄されるふん尿が肥料になると同時に地下水を汚染することになる。
また、農地1670万haのうち耕地は1190万haでいちばん多い小麦の作付け面積は340万haで10aあたりの平均単収は800kg、生産量は2600万tです。
これだけ単収が上がったのは1935年に日本人が育種開発した農林10号のおかげです。これは短稈種で徒長しないため窒素肥料を多投入する農業になりました。
人口8300万人のドイツの食料自給率は99%。家畜が多いためブラジルなどから飼料を一部輸入していますが、輸入飼料分を除いても92%です。
農産物輸入額は800億ユーロ(約8兆円)ですが、輸出額が685億ユーロでアメリカ、オランダ、ブラジルに次いで世界4位の農産物輸出国です。輸出品目は穀物、チーズ、食肉など。豚肉の生産量は470万t、牛肉は115万t、鶏肉185万tです。日本は豚肉90万t、牛肉33万tですから、ドイツがいかに大農業生産国か分かります。
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