【クローズアップ 低米価】耕作放棄地の拡大が懸念 青年農業者の声2021年10月11日
今回の特集ではJA青年部OBなど若手農業者の声も聞いた。米価の下落が自らの経営だけでなく、地域農業全体の衰退を招くとの指摘もある。また、耕畜連携に飼料作物の本作化や、オールジャパンによる米の輸出拡大に向けた産地づくりなど、水田農業対策の抜本的な見直しを求める指摘も出ている。各地の声を紹介する。
◎「複合経営でがんばるが...」
▼秋田県大仙市・佐川長範さん(JA秋田県青協参与)
両親と3人で水稲6haとホールクロップサイレージ(WCS)0.5haを作付けています。米はあきたこまち。ほかにアスパラガスとネギも栽培しています。
概算金は60kgあたり2000円下がってJAが農家に提示したのは1万50円です。あくまで仮渡し金であり、JAの販売力で追加払いがあることを期待しますが、非常に厳しい状況です。
SNSで情報交換している米農家の仲間からは「売り上げが1000万円減った」という声もありました。大規模な農家ほど打撃が大きく、ナラシ対策から収入保険に切り換えたという人もいます。
私もナラシ対策に加入していました。昨年はイモチ病が発生し私の家の経営は100万円以上の減収になりましたが、県全体では発動要件を満たさず補填されませんでした。
そのこともあり、さらに今年は米価が下がるだろうと収入保険に加入しました。複合経営だからという理由もあります。
米価下落が予想されたのでネギの作付け面積を20aから60aへと3倍に増やしました。アスパラガスも60a作付けし今年、収穫できる3年めを迎えました。
米価を考えると米の作付けを増やすこともできません。作りすぎると安くなるわけだから、その前に対応するしかない。結局、自分の経営をどうするかということになりますが、園芸品目でがんばろうと考えています。
ただ、雇用の確保が大変です。今年は3人来てくれていますが、昨年はゼロでした。やはりしっかり時給を払わないと来てくれません。収穫は機械化できても箱詰めには人手が必要です。今年パートの方は全員1年生ですから、効率がなかなか上がらず、まずは仕事に習熟してもらうことも課題です。
(総選挙があるので)まだ「仮の政権」だと思いますが、農業分野に力を入れる姿勢も見え、どういう農業政策を出してくるか期待はします。
民主党政権時代の戸別所得補償制度は、一瞬は潤った、と家でも言っていますが、買い手が強く出るようになったと思います。米に関して国が関与することは必要ですが、市場をコントロールするような対策は一瞬はいいかもしれませんが、本当に米農家のためになるのか......、と考えてしまいます。
◎輸出に活路を見出せ
▼富山県朝日町・大久保光太さん(元JA富山県青壮年協議会会長)
今は集落40世帯で設立した営農組合法人ハイテック大家庄の構成員として生産に関わっています。
面積は32ha。今年は水稲は23ha、転作は9ha。転作は麦・大豆で今年は1ha増やしました。二毛作に対する助成金が産地交付金のなかで確保されている限りは麦・大豆の転作に取り組もうという考えです。
主食用米はコシヒカリと「富富富」、「てんたかく」「てんこもり」です。概算金はてんたかく、てんこもりが2000円下がり、コシヒカリは2700円下がりました。法人化して5年ですが初めての米価暴落です。
ショックではありますが、ナラシ対策に加入しているので下がった分の9割は補てんしてもらえます。問題は来年も米価が下がると言われており、そうなればさらに下がった分の9割補てんですから経営に大きな影響が出るというということです。
米価は一回下がるとなかなか上がりません。生産コストを下げるといっても、これまでにめいっぱい取り組んできました。集落の水田は30a区画で昭和60年代に整備されたままでボロボロになっていました。水が漏れてしまうので除草剤が流れ出してヒエなど雑草が一面に生えて米の収量と品質に影響が出るので、これをなくそうと補修に取り組んできました。
最近では密苗に切り替えて苗箱を少なくし育苗コストと人件費の削減にも取り組みました。
また、刈り取りに遅れが出ないように作付け品種も増やしています。刈り取りに遅れを出さないようにすることで1等比率を上げる努力もしてきました。
こうした取り組みを1年ごと、少しづつ進めてきました。これ以上の取り組みには限界感があります。
対策は海外への展開ではないでしょうか。県全体での輸出ルートを確立することはもちろんですが、日本ブランドとして海外にもっていくルートづくりにしっかりと政府も力を入れてほしい。海外に展開できれば転作は必要なくなる。
一方で各県でブランド米をつくって農家に競わせるようなことはやめてほしい。国内で農業者に競争させるようなことではまちがいなくみんなパンクすると思います。輸出用米など新規需要米への助成を厚くすればそれを手がける産地も増えてくるのではないでしょうか。総選挙がありますが、「新自由主義の解散」にしてもらいたいです。
◎耕作放棄 増えないか心配
▼千葉県横芝光町・平野一裕さん(JA千葉県青年協議会参与)
両親と妻の4人で水稲13haを作付けしています。水稲はコシヒカリが半分、残りは「ふさおとめ」、「ふさこがね」です。水稲のほかにネギを1.3ha栽培し、これは妻と2人で作っています。
概算金はコシヒカリで60kg9000円と提示されました。2014年産でも9000円でしたが、米の価格だけで手取りが決まるわけではありません。燃料費、肥料代がそのときよりも値上がりしていますから、同じ9000円でも今はかかっているコストが違い、厳しい状況にあります。コストが上がっても農家はそれを価格転嫁できません。
地域の農地はなかなか作付け転換ができる田んぼではなく、また8月のお盆後に東京に「ふさおとめ」を届けるのが役割という気持ちが地域にあって、主食用を作付けしてきたという背景もあります。
コストダウンの取り組みとしては、フレコンバックによる出荷体制への切り替えや、作業時間を分散するために早生品種の作付けを増やしてきました。今後は乾田直播の導入も視野に入れながらコストダウンを考えなければと思っています。
生産者はみんな、おいしい米を食べてほしいという思いがあって作っていますが、高齢化が進んでおり米価も下がると離農する人も増えると思います。実際に、引き受けてくれと言われて年に1haづつ増えています。それに対応するための育苗ハウスの確保も課題になります。
ただ、耕作放棄地にしてしまえば元に戻すのは大変なのでわれわれ若手が農地を守っていかなければならないという使命感は持っています。それでも低米価が続けば農地を引き受けることが難しい。
ごはんを推進する料理教室などに講師として呼ばれて米の作り方を話しています。毎年米の消費が減っていくなかで生産調整は必要ですが、消費拡大と両軸で進めていくしかありません。
2年、3年と低米価が続くと経営への打撃が大きくなるので政府にはきちんと対応してもらいたい。今、危険水域にあります。私は食料援助に回してはどうかと思います。また災害も多発しているのだから、備蓄米を災害時の支援に活用することも考えてはどうかと考えます。
◎飼料作物で耕畜連携を
▼愛知県西尾市・半田孝則さん(JA全青協元理事)
父と妻と3人で水稲と麦、大豆を作っています。主食用米は20ha、麦・大豆は17haほど。地域でブロックローテーションを組んで転作に取り組んでいます。飼料用米は2ha取り組みました。
主食用米はコシヒカリと「あいちのかおり」、「あさひの夢」のほか、愛知県のブランド米「愛ひとつぶ」を昨年の1haから今年は2haに増やしました。愛ひとつぶは60kg1万5000円程度の買い取り契約となっています。
他の品種の概算金は60kg当たり2000円以上下がっています。ただし、1等米の概算金であって2等では1万円を下回ります。この地域では高温障害で1等比率は1割程度。昨年は2%でした。出荷した米はほとんど2等ですから、1等米と比較すると20haで50万円程度の差がつきます。
麦・大豆への直接支払い交付金が収入の半分を占めますが、主食用米が60kg当たり2000円以上、一気に下がればやはり痛い。
コロナの影響は作付けにも出ました。「あいちのかおり」は外食など業務用向けで、業者に直接販売している農家は「今年はいらない」と言われたということです。自分も「あいちのかおり」を減らしコシヒカリを増やしました。「あいちのかおり」は単収が多く、その分手取りが増える品種ですが、コロナが作付けにも影響したということです。
地域では40%を転作しており、これ以上の拡大は難しい。転作というよりもデントコーンなど飼料用作物の本作化を考えるべきだと思います。そのためには設備投資も必要ですが、それを国が支援して導入すれば継続性が出る。畜産農家と連携して播種と生育は米の農家が面倒を見て、収穫は畜産農家が関わるといった仕組みができないか。今のような飼料用米の転換では、米価が戻ればまた主食用に戻ってしまう。
天候が良くて大豊作になってしまったのならともかく、農家の作付け過剰で生産量を減らすことができなかったのだから、国が市場から買い上げる政策には賛成できません。米の生産量を減らしても経営力が向上できるよう支援策を考えるべきです。
米にはみんな自信を持っていて売れると思っていますが、やはり全国でどう作っていくかは全中・全農が提案していくべきで国もそれを支援すべきだと思います。
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