【クローズアップ:最賃法改正の要点を探る】「全国一律」法改正で実現を 全労連全国一般・東京地方本部副委員長 梶 哲宏氏2021年11月22日
景気動向や経済格差問題などで最近よく耳にする「最低賃金」という言葉。全労連全国一般・東京地方本部副委員長の梶哲宏氏は国民生活の最低限保障をする軸となる全国一律最賃制実現を主張する。梶氏は最賃制の意義は地方と都市の経済格差是正にもつながるという。梶氏の考えを紹介する。
全労連全国一般・東京地方本部副委員長 梶 哲宏氏
最低賃金という言葉をよく耳にすると思いますが、それは農家の家族がパートに出ても、時給計算して「○○円」以下にはされないということです。
「時給○○円」としたのは日本の最低賃金法では全国各地方の最低賃金が都道府県別にA、B、C、Dと4ランクに分けられ、各県別に最低賃金額が違うからです。上は東京都内の最低賃金(最賃)1041円、下は高知県・沖縄県が820円、東北から信越はおおむね821円から877円。関東近辺は879円から埼玉956円です。
厚労省の表を見ての通り、都市部は1000円前後(東京で1日8時間、21日働けば、約17万5000円が最低限度保障。しかし、青森で働けば(822×8×21=)約13万円が最低保障賃金ということです。この格差が問題になってきているわけです。
現に全労連など日本の労働組合機関による実際の生活費調査では働くだけの収入で暮らすには1カ月に必要な額としては、4年前の調査で青森が月に23万円強が必要、東京が一昨年調査で約25万円、全国的にはほぼ24万~25万円という横ならびの結果です。ここから「最賃は全国一律で」「時給は1500円以上の最賃を実現しよう」という声があがってきているわけです。
現実の暮らしを見ると農家は一人家族は少なく、夫婦や2世代や3世代がいっしょに家族集団を形成し自営農業をしながら誰かが働きに出ています。
したがって農家でも、時給については最低保障額がこうして法で定まっていて、労働条件も基準法があることは知っておかなくてはなりません。手間働きでも働けば同じ法律の保護になります。
また、今の最賃法の下の地方ごとの格差は、若者や男手を中心に農村離れが生じやすくなっています。
そのため農繁期や収穫期の手伝いやアルバイト要員が確保できない状況が生まれ、人手が足りず臨時のアルバイト雇用するにも最賃ほどの金が払えないので外国人労働、研修制度に頼ったりということでさらに格差を広げることになっています。
今の社会の課題は地方別バラバラの最低賃金を「全国一律」(一元の)最低賃金への改正です。全国どこで働いても同じように暮らせる最賃となれば、地方の農村部の人口減少は今ほどひどくはならない。「地産地消」の取り組みも地方、地域の購買力が今より上昇し、ある程度確保されるなら取り組みも現実性をもってくる。そうすれば近場で働くこともできて、地域も活性化するということになります。
今、主な野党は「全国一律」「時給1500円の最賃」めざすとの方針を掲げています(立憲民主、共産、社民、れいわ)。掲げる額は異なるが「全国一律」化は国民民主党も同じで自民党も最賃議員連盟が最賃の「全国一元化」ということでおおむね与野党とも一致してきています。各党に共通しているのはもう一つ、現行最賃(ランク別)を一律(一元)に改正した時、差額を現金で国が補てんして改正をスタートするといっている点です。
なお、維新は党として「最賃制は廃止」として、救貧措置として6万円支給するベーシックインカムを掲げ、企業の自由を束縛しないという特殊な政策を掲げています。
地方からの労働活力の都市への流出、過疎化が進むのは、農業を担っている地方、地域が脆弱化していることと一体です。山林や河川など耕地と自然条件のバランスを保全していく上でも、この自壊作用を止めなくてはならない時でSDGsの観点からも最賃の全国一元化=一律化の改正は重要であると言えます。
農家にとっても、最近は米をつくっても野菜づくりに専念しても、家族農業が十分な収入にならなくなって食っていけないと言われています。
今年の生産者の出荷米価も暴落し、野菜も時期と品種によっては出荷しても箱代にもならない安値になって、かと思えば出荷集中時に人手が確保できない。時給1000円は払わないとパートにも来てもらえないのに、とても賃金分など捻(ひね)り出せない価格にしばしば大きく下落します。
出発点でのこの買いたた叩きと低賃金と生活弱者を当て込んだ不当廉売、その両方をなくすため、暮らし以外に公正な取引関係を求める点も考えると、ここに最賃制の意義があります。
最低賃金が支えない価格での取引は、強い力を持つ(優越的な地位にある大手企業などの)側の要求価格によって生じています。価格見積もりの際の諸費用と労賃について最低賃金以下の積算労務単価を基礎にした取引は、買いたたき防止の対策として、消費者は安いほうがよくても最賃を下回る労賃による販売価格は、不当廉売であり、過剰農産物の処理などの特別ルールの中でしか売ってはならなくする。買いたたき、不当廉売防止法で独禁法を強化し、農協、出荷組合、農民団体などをつうじて弱者が最賃を保障する労賃(賃金)をふくむ価格を共同して要求する行為は、独禁法の取り締まり対象としないことを法で定めることが求められます。
これを可能にするのは、今の最賃法を改正して全国一律にし、適正に引き上げるとともに、現行最賃法の付則でいう「政府は最賃法の円滑運用に努力」だけでなく「最賃支払い可能な経済関係確立の義務を負い関連施策に責任を負わなくてはならない」という条文を本則に入れることです。
この点が全労連・全国一般や東京の労働組合団体でも大きく問題になりはじめており、中小企業家の中にも声が出ています。最賃法の改正はこの点でも切望されはじめています。
ところが今の最賃法では、○○円以下で雇用すると違反となって使用者が処罰の対象となるが、最賃支払いを不可能にするような取引関係の強要を是正したり取引による付加価値配分を適正化する政府行政の責任がどこにも規定されていないのです。
関心も高い米については、政府の備蓄用買い上げは、最賃を積算労務単価に据えて買い上げ単価を決める。すると最賃の時給1000円だと1俵(60キロ)の農家売り渡し価格が2万円を超えるが、これが最低ということになる。これで市場相場をリードし、政府に価格保障を実現させる。
全国の最賃が一律に1000円以上になれば、消費購買力は少し上昇し景気も上向いて、まともな価格で米を買って生活していくように市民生活も変わるわけです。
野菜、果実などについても最賃を積算単価に据えて最低保障価格を決めれば、相場がこれ以下なら価格保障し、最賃レベルの賃金、自家労賃が払えない状態(天災など不測)の時は、最賃の支払い義務を減額し差額を政府が現金で補てん支給する――。この方式だとWTOや自由貿易協定にしばられずに農家を保護することができるのです。
労働者・消費者と生産者・農民が国民生活の最低限保障をする軸となる全国一律最賃制を実現するという一点で「共同」できることが次第に明らかになってきています。
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