【クローズアップ・太陽光発電の功罪】茨城から(1)景観が台無しに 削った斜面 土砂崩れ心配...2021年11月30日
多くの人は、自然エネルギーを利用する太陽光発電は、原子力や石炭に代わるものとして、これからの電力をまかなう有力な手段、方法だと考えてきた。しかし、太陽光発電について取材を進めていくと、手放しでは喜べないことが分かってきた。
筆者の住む茨城県は県土面積が広く、しかも平たん地、農地が多いことから、太陽光での発電量は400万kwを超え、全国一。東海第二原発の4基分に相当する。今回、取材対象としたのはそのうちの那珂市、笠間市、水戸市の一部だけなので、他の地区の太陽光発電施設建設による被害の実態はつかんでいないが、状況の一部が見えてきた。(本紙客員編集委員 先崎千尋)
ニュータウンの軒先までパネルの波(水戸市北部)
温暖化防止期待も 手放しで喜べない
農業協同組合新聞11月10日号で、茨城県常陸農協の秋山豊組合長が10月に開かれた全国農協大会に寄せて「美しい心の風景JAが描く時」を寄稿している。その中で秋山組合長は「代替エネルギーとして、地方、山間部で増加しているソーラー発電の監視」をすべし、と提言している。その理由は、「CO2を酸素やオゾンに換える山林をメガソーラーに転換することが温暖化防止につながるのか。ソーラー建設後、基準を超える集中豪雨や竜巻等が起きた場合災害は発生しないのか」ということだ。彼が心配しているメガソーラーは、筆者の住んでいる所から南西に約3kmに建設中。他人ごとではない。
全国で事業展開
秋山組合長が懸念しているメガソーラー(発電量が1000kw以上)は那珂市北西部の丘陵地帯にあり、大部分が山林。この周辺でかなり前にゴルフ場の建設計画があった。敷地面積は約64ha。発電面積はそのうちの57%で、半分近くを森林として残す。雨水は調整池を2カ所作り、敷地内を通る那珂中部用水路に放流する計画。すでに工事は終わっており、まもなく発電を始めるようだ。発電出力は2万5千kwで、約3千世帯の年間電力使用量をまかなえる。私が住む旧瓜連町は約2500世帯なので、それよりも多い。事業主体の企業は大手証券会社も出資しており、全国で事業展開している。
このメガソーラーに土地を貸したと言うAさんの話を聞いた。「山林は持っていても、木材の価格は安く、カネにならない。だから、この話が持ち上がった時、大半の地権者は売るか貸すかにした。ただ、心配なのは集中豪雨の時の水がどうなるかだ。2年前に、この集落でも那珂川沿いの家に床上浸水などの被害が出ているので」。Aさんの家は建設地から約100mの距離しかない。
同じ那珂市で、国道沿いの家の隣で、太陽光発電の建設業者が計画書を出す前に盛り土などを進めたため、生活に支障をきたしているというOさんの話を聞いた。
「一昨年の大雨で、畑や家に入る市道が冠水し、トイレの水が逆流し、ふろや洗濯にも困った。水が引くまでに3カ月もかかった。その後も大雨が降るたびに被害が出ている。山林の木も枯れてしまった。市役所に話したが、らちが明かない」
住民の反対運動も
家のすぐそばに作られた20mの土壁(笠間市)
那珂市環境課の調べでは、茨城県が「太陽光発電施設の適正な設置・管理に関するガイドライン」を制定した2016年以降、提出された業者からの事業概要書は202件、158ha、それ以前の事業面積を含めると200haを超えている。
9月15日付の「東京新聞」は、県内のメガソーラーの導入状況をまとめ、「原発1基分超 150万kw稼働」という記事を載せている。その中に「笠間では住民と対立 土砂崩れ懸念の声も」とある。笠間市本(もと)戸(ど)臼木地区。近くを北関東自動車道が通り、都市生活者のためのクラインガルテンもあり、のどかな田園風景が広がるが、県道沿いには「太陽光発電建設絶対反対」の看板も見られる。
歩いて見ると、山の斜面を切り開いて建設したソーラーパネルがいくつもある。人家のすぐ近くで工事を進めている所や、業者が倒産して削った山の斜面がむき出しになっている所、土砂で埋まったままの水田など。家から100mも離れていない所に20mもある土壁。下から濁った水が流れている。工事は法律が定める基準に従っているのかもしれないが、想定外の大雨が降ったら、ひとたまりもないと感じた。近くに住む人は「大雨が降ると自主避難しているが、補償はない」と話してくれた。別の農家の人は「私有地なので、文句も言えない」と言う。
※先崎千尋氏の「崎」の字は正式には異体字です。
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