【戦略作物先進事例レポート】子実用コーンに挑戦 耕畜連携が鍵 千葉・小泉ファーム2022年3月22日
主食用米の需給改善に向けた作付け転換のため、飼料用米に加えて生産者の経営安定につながる転作作物が求められている。こうしたなか国の水田活用の直接支払い交付金の戦略作物助成の対象に飼料に使う子実用トウモロコシも加わり、今後の生産振興が期待される。主食用米の需給改善だけでなく、高騰を続ける輸入飼料依存からの脱却、耕畜連携の促進、大豆との輪作体系による増産など水田農業の展望を開く可能性も持つ。子実用トウモロコシ生産に2014年から取り組んできた千葉県成田市の小泉ファームの小泉輝夫代表を訪ね、その取り組みと課題などを聞いた。
水田に作付けされたトウモロコシ(写真奥)
米だけでは経営できない
小泉ファームの農場が広がる成田市久住地区は谷津の多い地形が広がり、標高10m程度の低湿地エリアの水田が多い。雨が降ると水が引かずため池状態になってしまう水田も多く、豊かな水の恩恵を受ける一方、湿田地帯での良質な米づくりと、徹底した排水対策による大豆づくり、そして子実用トウモロコシ生産に取り組んでいる。
2021年産は水稲36ha(加工用26ha、主食用5ha、飼料用5ha)、大豆8ha、子実用トウモロコシ8haを作付けた。基本は小泉代表のワンオペレーター体制。妻が軽作業と経理を担うほか、臨時にオペレーターを頼むこともある。加工用米も主食用米も食品企業や業務用米として販売先は決まっている。「行き先の決まっていない米は作らない」のが方針。それでもかねてから米価の下落などを見越し、米づくりだけでは経営を維持できないと転作作物に力を入れてきた。
そのために北海道や東北の水田農家を訪ねるなかで子実用トウモロコシの栽培体系などを学び、2014年に0・6haの作付けからスタートした。栽培をスタートしたのは、遺伝子組み換えではない子実用トウモロコシの国産飼料としての価値や、将来性に近県の酪農家から購入の申し出があったためだ。「需要家との結びつきがあったからこそ始めることができた」と話す。
小泉輝夫さん
乾田化や栽培暦 工夫重ね収量増
最初の3年間は水稲の合間作業として栽培暦を組み立て3haにまで拡大したが、2018年は生育不良、そして2019年は千葉県に甚大な被害をもたらした台風15号で全滅。水稲の育苗ハウスも暴風に倒れ、翌年の水稲作業にも影響が出るほどだった。
その経験をふまえて、21年産から「倒れる前に刈る」ためトウモロコシのは種時期を早める栽培暦とした。
トウモロコシはは種すれば約90日後に熟期を迎える。それをもとに1月からほ場づくりを始め、①3月中にトウモロコシのは種②水稲の田植え(4月中旬から5月中旬)③トウモロコシの除草(5月中)④大豆のは種(6月)⑤トウモロコシの収穫(8月)⑥水稲の収穫(8月~9月)⑦大豆の収穫(10月~11月)というのが大きな流れだ。(下図参照)
子実用トウモロコシの作付けの拡大にあたっては、湿田でない栽培適地を選ぶことはもちろんだが、団地化し1カ所で排水対策することも重要だという。小泉代表は団地化のために自ら機械作業して暗きょを作り乾田化してきた。また、あぜをなくして大区画化したほ場もある。
大豆と輪作奏功
21年産では子実用トウモロコシは2ブロック(5haと3ha)で栽培した。22年産はこの3haのほ場で大豆を栽培する予定だ。子実用トウモロコシを作付けしたほ場は「土がふかふかで透水性が良くなる」と小泉代表は話す。トウモロコシは根が深いため、その深耕効果といわれるものだが、大豆の作付けのためには「根っこを残して表面だけ耕起する」ことが大事だという。残った根が分解し水はけがさらに良くなるとみる。
地域の水田では大豆の平均単収は10a60kg~100kg程度。これまで一部のほ場で輪作試験をしたが、結果は100kg以上の収量で、粒もそろった大豆がとれた。3ha規模の輪作は22年産が初めてだが、十分に手ごたえを感じている。
経営安定化には"出口戦略"重要
子実用トウモロコシは肥料の必要量が高い作物だ。これまでトウモロコシの販売先の酪農家や養鶏農家からたい肥や鶏ふんを購入し投入してきた。トウモロコシを作付けるほ場には10aあたり3tを投入している。耕畜連携も進んでいる。
耕畜連携を進めるためにもしっかりと子実用トウモロコシを収穫し、畜産農家に約束どおりの量を供給することが必要だ。そのためは種は「畝立て同時は種」を実践している。農研機構などの協力も得て、畝を作りながら種をまく。作業速度は落ちるものの、確実な収穫が見込める。
栽培管理では除草と害虫防除が欠かせない。は種後、6葉期から7葉期にブームスプレーヤーで除草剤を散布する。また、害虫はアワノメイガ、トマジロクサヨトウなどの防除が必要になる。防除は2、3回必要だと感じているが、草丈が2m以上になった時期にはブームスプレーヤーはほ場に入れない。そこでドローン散布が必要になるが、ドローン散布が可能な農薬登録が現在はなく、適用の拡大を早急に検討してほしいと小泉代表は強調する。
耕畜連携 団地化助成を
乾燥機(奥)のある倉庫。昨年は乾燥後、手前のスペースにトウモロコシのフレコン60袋が積み上がった。
21年産では子実用トウモロコシは平均収量は10a500kgで合計50tを収穫した。800kgのフレコンで60袋にもなる。小泉ファームの倉庫にはフレコンが積み上がった。収穫後の害虫発生リスクもあり、「乾燥・調製・保管が課題。低温倉庫が必要になる」と話す。
ただ、労働時間の点では水稲の5分の1以下だという。
これまでの経験から子実用トウモロコシの生産は大規模に作付けすることでコストダウンが図れ、労働生産性も高いというメリットが発揮されるだろうという。ただ、小泉ファームのように酪農家や養鶏農家など購入先が決まっているという「出口戦略」が重要になる。JAグループが取り組みを進めるにはJAや飼料会社が畜産農家と結びつきをつける「出口戦略までワンセットで整備することが求められるのではないか」と話す。
もちろん政策支援の拡充は必要だ。
トウモロコシの収穫
栽培暦
水田活用の直接支払交付金は10a当たり3万5000円。(水田リノベーション事業に採択された場合は同4万円)。これに水田農業高収益化推進助成で同1万円が交付される。最高で10a当たり5万円の助成額が令和4(2022)年度の措置だ。
だが、小泉代表は機械の投資から始めると「コストは10a7万円を下回ることはないのではないか」と指摘する。こうした課題を解決し子実用トウモロコシの生産を増やしていくには現行の交付金に加え▽耕畜連携助成対象に粗飼料だけでなく濃厚飼料も加えて子実用トウモロコシ生産に助成▽団地化加算を追加――が必要だと訴える。
7年間のトライアンドエラーを経て迎えた22年産。栽培体系も見直し、安定した生産に向け「今年が勝負」と意気込む。目標は「耕し続けられるほ場をつくる」だ。
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